◆[山形市]鈴川 二つのコブに春が来た(2019平成31年4月6日撮影)

傾きかけた太陽の日差しを愛おしむように、
地面に這いでて、光の方向へ皆顔をまぶしそうに向けている。

斜めから差す光は、フェンスに模様を描き、
それを見つめるために首を伸ばす椿たち。

「やっと雪から解放だど思たら、今度は雑草との戦いっだな。」
ホイルは浮いた錆を恥じながらぼやき続ける。

パキッとした光の中へ、パクッと口を開いて、
腹の中のすべてをさらけ出しているバケツたち。
弱々しい白い看板に、もっとしっかりしろと背後から応援している。

鈴川には二つの気になる小山があり、
そのうちの一つがここ古峰神社の小山。
アジサイがフライングをするほどに勢いよく芽を吹いている。

雲が切れ、突然小山が目の前に浮かび上がる。
遠足で昼食をどこで食べるか、グループ毎に公園内へ散っていくように、
水仙は思い思いの場所で咲いている。

「太陽がまぶしいのが?」
「なして?」
「んだて、少し俯いっだどれ。」
「ほだごどないげんと・・・。」
山形人独特のワニル現象が、山形の水仙にもあるようだ。

ようやく中年親爺に慣れ始め、
水仙は夕方近くの太陽に向かい、胸を張り真っ正面でとらえるようになった。

「ちぇっと、なんなんだずぅ。邪魔すんなずぅ。」
なんぼ言っても割り込んでくる青紫の色。
梅の花びらをも薄青く染めている。

梅の花を撮ろうとしていたのに青く邪魔していたのはヒアシンス。
黄色い花が咲き乱れる早春の中で、異彩を放つ深い青。

今日の天気予報は快晴だったのに、
雲が空を支配し、たまにしか太陽が顔をださない。
一瞬、機嫌を直した太陽が光をさしのべた瞬間、
小山の草花が天啓を受けたように浮き立った。

再び太陽が気を損ねて雲に隠れた。
骨だけになった一輪車が、老木に寄りかかる。
その錆は老木に似せた保護色になり、骨組みは老木に似せて擬態化しているようだ。

気になっていた鈴川の二つの瘤の内の一つ、古峰神社の上に立つ。
綺麗に整備された敷地と、周りを囲う水仙たち。
地域の人々の愛着を感じずにはおられない。

麓に降り立ち、振り返って見上げる。
んだらば、また来てけろなぁと水仙たちが手を振っている。

杉の葉を踏みしめて街中に降り、最初に見えてくる春はこぶしの芽。
もうちょっと時が経てば、真っ白で大きな花びらが風にそよぐことだろう。

寒風に晒された部分は固い芽が赤く膨らんでいるだけ。
なのに、小屋に覆われた部分では梅の花がほころんでいる。
暖かい場所に逃避して早く咲こうとは、梅も知恵が付いたもんだ。

鈴川小からは子供の声が聞こえてこない。
ミラーの下で、いたずら盛りの自転車同士がじゃれ合っているだけ。

ミラーの影がアスファルトを這って伸びている。
土曜日の午後は空気も間延びし、気持ちもゆるゆると溶けていく。

「なんだず。ほごまでして拒絶すっごどないべした。」
中年親爺がなんぼ嘆いても時代の流れは変わらない。
世の中は神経質なほどに潔癖症みたいに部外者を排除する。

西に傾いた太陽は、埋め込まれたタイヤの影を地面に貼り付ける。
グランドも校舎も何を語ろうとするでもない。

「重だいんだげんと・・・」
乾電池入れになった自転車篭は、傘の重さが気に掛かる。

「すっぱげっだどりゃぁ。」
「ほだごどゆたて、子供だ来ねんだもはぁ。」
待ちくたびれて色褪せたのか、気持ちが萎えて色褪せたのか。

「俺ばこだなどごさ置がねでけろー。」
自転車は居心地が悪そうに、辺りを見回す。
さすがに火気厳禁・危険物の看板の前じゃ居心地が悪かろう。

鈴川小の敷地をぐるっと回って訪れた、もう一つの瘤、山家虚空蔵堂の麓。

畑に孤高の気高さで咲いている梅の花が、
胡散臭い中年親爺の臭いを嗅いでくる。

孤高の梅と水仙の列に、よそ者の目を向けられながら階段を上って虚空蔵堂を目指す。

瘤の中腹には地域の公民館が小綺麗に端然とした風情で建っている。

「この辺りは浦宿町ていうっけのが?」
「ほだなもしゃねで来たのが。」
主のような瘤だらけの樹木が威圧して睨んでくる。

水仙と会話するような白い蔵。
蔵は毎年水仙の黄色を楽しみにしているのだろう。

一際西日が強く照りだした。
椿はその赤色を強烈に周りへ誇示し、
やがて訪れる夜の怖さを紛らわそうとしているようだ。

虚空蔵堂のてっぺんで迎えてくれたのは何かのドングリ。
パカパカと開いた瘡蓋(かさぶた)の隙間を、
西日がすり抜けて地面に影模様を創っている。

虚空蔵堂の降りしなに、再び気まぐれな太陽が顔を出す。
春爛漫間近の鈴川がムクムクと目を覚まし、気が充満し始めるのを強く感じる。

子供たちのケッツでテラテラに磨かれたタイヤの向こうに子供達が群れている。
ようやく子供達も家から這い出すようになり、人間も啓蟄を迎えたようだ。

「ほだいグルグル捻って大丈夫だがよ!」
「おんちゃん、おかないのが?」
鈴川小の北側にある公園には、子供たちの歓声が溢れ始めた。

強烈な西日は公園の草を照らし、そして子供をタイヤの中へ押し込めてしまった。
かろうじてはみ出した足だけが、バタバタとむなしく空を蹴る春。
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