◆[山形市]七日町 大沼・丸久と路地探訪(2019平成31年2月24日撮影)

遂に丸久が壊される。
「丸久てなんだぁ?」
「元々セブンプラザは丸久だっけのっだなぁ。しゃねごんたら親さ聞げ。」
昭和30年代に出来た丸久は約60年の役目を終える。

階段のその先はない。
なんだか涙がにじむ。
昭和の買い物といえば大沼と丸久が山形の双璧だった。
その一角が崩れ、大沼も喘いでいる。

真っ白なフェンスに隠されながら昭和は消え去っていく。

車を駐めさせないように、意地悪くぬだばる雪。

車達に見つめられながら、
両手に大切な物を抱えて歩む。
その地面の乾き具合は、2月の山形としては尋常ではない。

「なえだずまんず。」
と聞こえたような気がした。
小さな植木鉢に小さな春を見つけたか?

建物の隙間から春のような日差しが入り込み、
枝に降りかかってまとわりつく。

「地面ば触ってみろぉ、おそらぐ暖かいがら。」
花びらは地面を見つめ首を伸ばす。

七日町は奥深い。
お寺さんが多く、そして細い路地が巡っている。

「ほだい堰の流ればずーっと眺めで飽ぎねが?」
「なにゆてんの、流っでなのいねじぇ。カラカラだぁ。」
堰の底は乾燥して雪の欠片もない。

車が入ってこれないから、ゆっくり歩ける。
でもあんまり陽も差さない。
そんな路地にこそ生活感が染み付いている。

太陽を真っ正面に受け止める壁。

路地を抜ければ、そこはまた路地だった。
この楽しみは七日町の奥地だからこそ味わえる。

狭い路地にはみ出した八つ手が頭を撫でてくる。

この位置から昔なら当たり前に見えた建物はなんでしょう?
「立派な映画館だっけずねぇ。」
この映画館に入る時は都会人になったようで、なんだか誇らしく感じた。

再び路地へ潜り込む。
塀の湿り気、入り込む春の日差し、ゆるりと流れる風、生活の匂い。

小さな祠を守る人形か?
誰がぶら下げたか、こっちをじっと見つめてくるじゃないか。

体に錆が増えるのを覚悟しながら、
それでも仕事を全うしようと決めた看板。

金庫?の上にやる気のない箒とブラシ。
そしてゴムホースもけだるそう。
金庫の取っ手はただただイライラを募らせる。

「2月なて信じらんねべ?」
車のリアウインドウに映った真っ青な空は現実か?

映画館と一体で賑わってきた一角。
市民にとっては、これらの看板のどこかへ吸い込まれていくことが喜びであり、
ささやかな幸せだった。

2月なのにと信じられないという思いで、春の空気をパクパクと吸い込んでいる。

類は友を呼ぶ。
赤は赤を呼ぶ。

昭和には想像もできなかった。
山形にスポーツが根付くなんて。
街のあちこちにあるモンテやワイヴァンズのポスターも街の一部と化している。

何百号あるか分からないでかいキャンバスに、
光が縦縞を描き、錆があちこちに顔を出す。
そして絶妙の位置に墨痕鮮やか。

「お、こだんどごさも路地あんのが、しゃねがったぁ。」
心は躍り、踏み出す足が喜びに震える。

行く末を知ってか知らずか、それとも達観してしまったのか、
永年の風雪と暮らしを全身に染み付け立っている。

こんな味わいが七日町のスクランブル交差点から、走れば三分の位置にあるなんて!
「映画のロケ地になんたべ?」
「いやいや、静かに見守った方が良いんだず。」

「やけにパキッとしてるんねが?」
「陽が出だどぎは、オラだも元気になんのよ。」
赤と青の艶やかな色合いがまぶしい路地裏。

「なんだず、ずねーんと植木鉢なの座らせでぇ。」
「こいに静かな時間が大切なのよ、ほごのカメラおんちゃん邪魔すねでけねが。」

暗がりから眺める表通りの早すぎる春の光がまぶしい。
「あの光の中さ入ていぐだいぃ!」

怖くて悲しくて、手前の白黒壁に隠れてちょっと覗いてみた。
再び丸久の痛々しい姿が目の前に迫ってきた。

青い空を切り取るビルの形が、時代とともに徐々に変わっていく。

丸久は表側にも櫓が組まれ、崩壊の時を待っている。

一方、大沼はどうなることやら訳が分からず悶々する。
ただ、マヨタコを食べに地下へ降りていく人々の姿がちらほら見えるだけ。

ビルの隙間は風が強く吹き抜けるはず。
でも今日ばかりは、突然の春の到来に、大気が穏やかにふんわりしている。

七日町通りは光が満ち、人々の服装も軽快になりつつある。
私も早く暗がりから抜けて、光の溢れる大通りへ出て行こう。

ボルトはビルを支えるために、常に踏ん張っている。
大沼は山形の象徴として今まで踏ん張ってきたし、市民に愛されてきた。

「しゃねがもすんねげんと、万が一大沼が無ぐなたら困んのはパイロットーッ!」
「んだてよ、飛行機が神町さ着陸態勢に入っどぎに目印にすんのが、大沼の看板なんだっけど。」
なんとか着地点を上手く見つけて欲しい、みんなの大沼。
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