◆[山形市]深町・篭田 ムーミン谷とからっ風 (2019平成31年1月14日撮影)

自販機の休憩所といって良いのか、行き着く先と表現すれば良いのか。
お互いに背比べをしながら、孤独だった現役時代を語り合う。

夏に蹂躙された電柱が、ようやく枯れ葉の中から顔を出す。
背中から浴びる日差しが気持ちいいと感じながら。

「安全第一てゆてっげんと、二番目は何や?」
「休養第二」
柔らかい光を受けながら、疲れた体を休めている安全第一。

奥羽本線で列車の風を受け続けていると疲れるというのが本音だろう。
みんな力を抜いて垂れ下がる。

国道348号に陽炎が立ち上る。
乾いた排気ガスが揺らめき、空っ風となって、冬の道がこの上なく非人間的な空間となる。

青い空を切り裂き、フェンスに群がる枯れ葉を置いてけぼりにして走り去る。

「雪すくないずね。」
「歩きやすくていいばんだぁ。」
少女達の足音は軽やかに明るい未来へ進んでいく。

うなりが反響し、寒風が右往左往するムーミン谷。

自転車や人々が歩く通路には車のうなりとともに、
柔らかい日差しも遠慮気味に入り込んでいる。

この谷のどこにムーミンが住んでいるっていうんだ!
こんな劣悪な環境に住むなんて不可能だ。
あの優しきムーミン達に、こんな所で住んで欲しくない。

「足元気ぃつけろよ。」
「まんず階段ば降りんのは大変だま。」
「年寄りは車ば運転すんなていうし、歩けば階段だらけだし、何すっどいいのや。」

相変わらず自販機は等間隔で並び、
疾走する車達の風を受けている。

「離れっだぐないぃ。」
「俺もだぁ。」
すぐにちぎれそうな鎖に結ばれたフェンスたち。

「ミミズが這い出したのがぁ!気色悪れぇ!」
「ミミズなのんねがら。冬に耐える草花の茎だがら。」
国道の傍らで、誰も見向きもしないうちに少しずつ春に向かっている。

側溝がやけにまぶしい。
よく見ればミラーが逆さまになって太陽の光を受けている。
ミラーは周りを映すのが仕事なのに、まさか自分が側溝に映されているとは気づいていないだろう。

「お前は上ばり向いで、上昇志向なんだが?」
「そういうお前は下ばり向いで、ネガティブな性格なんだが?」
上だけを見ていると足元をすくわれる。下ばかり見ていると自分の幸運に気づけない。

でかいジャングルジムが太陽の光を遮っている。

でかいジャングルジムが太陽の光を浴びている。

ブランコの椅子はもうぽっかぽか。
椅子を支える鉄の棒は力強くがっちがち。
さぁ、早くやってこい春!

雪だるまの頭にちょこんと寒椿。
雪だるまは嬉しさに耳をぴくぴく動かしたように見えた。

松ぼっくりの口先は何かを言いたげだ。
そっと耳を近づけてみる。
「頭に当たる太陽が痛い・・・。」
痛みに耐えて地面へ徐々に帰っていく雪だるま。

茨の王冠を被った東屋。
その向こうには奥羽の山並みや千歳山が青空の下に青く並んでいる。

「雪降らねど、地面はおらだの仲間でざっぷりなんだじぇ。」
松ぼっくりはいつもの冬と違い、からっからに乾いた体が嬉しくてしょうがない。

スカッと片付いたゴミ捨て場。
背後のビニールハウスからは、まぶしいほどの光が溢れ出ている。

「電線ばペロッと舐めっだい。」
「ほだな舐めだら感電すっべな。」
溶け落ちる前に何かがしたかった小さな氷柱。

筵は光と影をうねらせて横たわる。

あまりの光の強さに、白菜の葉っぱは心の中まで見透かされている気分。

たわし・蕪・ブラシ。
このトリオの主役は明らかに真っ白に洗われた蕪。
蕪はツンと頭のアンテナを伸ばし、たわしとブラシは疲れ果て泥のように眠る。

チョロチョロ、プクプク。
これが春の日差しだったら、心沸き立つような気分になれる音なのに。

取り残された去年の穂は風に吹かれるのみ。

「141円なてちょっと高いんねが?」
一円の上下に一喜一憂する車社会。
その脇で、萎れきった花びらが、ただ虚空を無心に眺めている。

近づこうとするほど体が溶けていく。
ちょっと太陽を舐めてみたいだけなのに。
スシローはそんな姿を傍観するしかない。
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