◆[山形市・山辺町]常明寺・下原 雪待ちの村(2018平成30年11月17日撮影)

盆地の西端まで来ると、山形の市街が視界に広がる。
竜山の上に月が掛かり、山形の街並みを見下ろしている。

常明寺は山形市の西北端にあり、すぐ隣は山辺町。
常明寺地区の家々の窓からは、嫌でも山形の市街地が朝な夕なに見渡せる。

至る処に養魚の看板。
山形の養魚の聖地が常明寺。

養魚池の水面に影が差し、
今日一日の終わりが近いことを告げている。

山並みに夕日がわだかまっているけれど、
養魚池の水面は静かに青く凪いでいる。

冷え切った空に直立不動。
やや強い風に逆らって踏ん張っている。

村から日差しが急速に減っていく。
間もなく電柱にも灯が灯ることだろう。

エノコログサの海を越えるのは不可能。
マイクロバスは埋もれたまま冬を待つ。

夏草が寒さを凌ぐために、バスの中に入り込んでいる。
ぎゅうぎゅう詰めのバスに発車する意思はもうない。

梢の先に秋色が輝いている。
やがて少しずつ青い闇に覆われていく。

山形市と山辺町の境にある作谷沢へ向かう街道。
たまーに通る車が寒気を巻いていく。

街道沿いに密集する商店街の先に、
山形の街並みが、今日最後の光を浴びている。

日が沈み、小春日和のぬくもりが萎んでいる。

梢の先から光が消えた。
すっぽりと下原の村は夜の中へ入り込もうとしている。

山並みの隙間から漏れる光を体中でむさぼる草花。

枯れた体を寒風に晒す。
カサコソと冬の音が茎をかすめていく。

蓮のタネ?が虚空で首を垂れる。
冬の匂いの風は一層強くなる。

ぴんと張った送電線に引っかからないように気をつけながら、
エノコログサが揺れている。

ジェット機が西の空へ消えていく。
太陽も山の陰に姿を消そうとしている。
送電線が黒々と浮かび上がる。

「雑草ば穫りにいがんなね。」
「何もこだな夕方からすねくても。」
「残さっだ時間が少ないものぉ。」

「みろほれ、このありさまだものぉ。」
ばあちゃんは養魚を守るためなら、朝も夕方も関係ないんだ。

重機の向こうの山形の街並みも、
遂に日差しを失い、夜のしじまへ沈み込もうとしている。

空に残された柿の実は、
寒風に晒されたまま、年を越すのか。

養魚場の池は黒々と静まりかえる。
遠くの雲だけに微かな光が残っている。

道路すれすれに立つ自販機の灯りが際立ってきた。

夕日の残渣を感じながら、
石碑は冷たく固まっている。

小さな月の明かりに触れようとしても、
凍える枝は言うことを効かない。

山形盆地が一日を終える。
鉄塔が黒い線を空に伸ばし、月は冴え冴えと氷のような光を浮かべる。

人の生活を守る鉄塔は、何の見返りも求めず、ただ立つのみ。
時折立ち寄る月が唯一の語り手になってくれる。

火の見櫓の半鐘は、今日も鳴ることなく一日を終える。
欠けた月は枝先にも微かに光を届けようとしている。
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