◆[山形市]山寺・紅葉川 お盆にジャーンプ!(2018平成30年8月12日撮影)

観光客向けの表情を見せる山寺の家並みを抜け数分。
何にもない(緑しかない)紅葉川沿いの道路に車がズラーッと並んでいる。
これは何かあるに違いないと、蒼い空の下で期待を膨らませる。

「まんず今日も良い天気だずねぇ。」
喜んでいるとも思えない口調が、暑さにだらけている体を思わせる。
パイプ椅子はヤカンと缶のお茶を従えて、空を見上げる。

ガラスの向こうで、雨を恋しく思う傘がうらぶれている。

この辺りに平らな場所はない。
恐らくどこへボールを置いても、どこかへ転がっていくだろう。

◆[山形市]千手院 仙台に一番近い村(2015平成27年6月7日撮影)をご覧頂きたい。
あのときに訪れた、線路を跨がないと行けない最上三十三観音のひとつ千手院が見える。

山寺=観光地とみられがちだが、山寺地区は決して観光地ばかりではない。
山間の襞の中には普通に暮らす人々の家並みが点々と連なっている。

ガードレールに樹木の枝がバーコードの影を創っている。
そんなことを気にせずに、トンボの目玉は太陽の光をキラッと反射させてこちらを見てくる。

どこにでも生命の生き残る余地がある。
というか、か弱いふりして植物には有り余るほどの生命力が漲っている。

遠くに観光地山寺の喧噪を聞きながら、
当たり前の時間が淡々と過ぎる。

ユリは日差しに身を堅くし、
日陰の麦わら帽子はだらけてボーッとしている、この対比。

この場所って絶対映画のロケ地(聖地)になれると思いませんか?
だらだらの坂をヒロインが麦わら帽子をかぶって彼氏と一緒に登ってくる。
ああ、最高のシチュエーションだなぁ。

山にへばりついた家並みを見終え、
先ほど紅葉川沿いに車が連なっていた場所に戻ってきた。
なにやら子供達の歓声が聞こえてくるぞ。

川の袂に日差しがこぼれている。
子供達の歓声が静かな一角を震わせている。

せり出した巨大な岩盤を紅葉川の清冽な水が流れている。
人々は黒いごま粒となって水と戯れている。

知っている人は知っている。
山形の隠れた夏の水遊び場なんだな。

お金を払って楽しむウオータースライダーも有りだけど、
無料で大自然を満喫出来るんだから、夏休みの子供達にとってこれ以上の場所はない。

滴る緑に囲まれ、天然の水と戯れる。
体から不純物が流れ出て、みんな自然界の一部と化していく。

水を浴びる子供達は天国。
それを待つ親はギラギラ太陽を浴び、まぶしさのなかで子供の姿に目を細めている。

子供達を呼び込む川の力はある意味魔力。
誘蛾灯に誘われる蛾のように、子供達は川へ入り込む。

流れの中に立つ足にまとわりついて流れ去る水は、
天然の冷たい靴のよう。

頭寒足熱の正反対。

奥羽の山から流れ出てきたばかりの水は、
まだ何者にも犯されていないから異常に冷たい。
三分も入っていれば体はカチカチに冷えてしまう。

どこから聞きつけてくるのか、人だかり。
そういう自分も今まで知らなかったのだから、あんまり人には言えないが。

誰もいなければこんな具合なのだろう。
人知れず滔々と流れて最上川を目指していたはずだ。

「体冷えっから出ろはぁ。」
「んだて、泡ブクがおもしゃいんだもの。」
親はじっと、子供が満足するまで待つしかない。

「ウッ、冷たい!」
と呟いて飛び込むのを逡巡する。
実は飛び込むことが怖いので、冷たいから入れないという言い分けを呟いたんだ。

「俺を人間アイスノンにするつもりがぁ!」
押さえつけられた少年はまんざらでもなく叫び声を上げ、友情を確認している。

「水面ば何歩、歩ぐいが試すがら!」
もちろん一歩も歩けず沈んでいったのはいうまでもない。

「こいに飛び込まんなねっだな。」
慣れたおじさんは模範の姿勢で飛び込んでいく。

「飛べぇ!」
日焼けした体が、何回も飛び込んだことを証明している。

「裸足のゲーン!」
足の裏が無防備になっている。
決して飛び込むときに叫ぶ言葉じゃないと思うんだけど。

大気中の何かを掴もうとするジャンプ。
結局、何もつかめずにザブンと落ちる。
掴んだのは友人との思い出か。

思い出はスマホに仕舞われる。
そして、後から何かの拍子に小さな画面を見て微笑むときが来る。

「お前真っ黒だどれはぁ」
「お前こそ、歯だげが真っ白だどれはぁ」

こういう場所は決して観光地化してはいけない。
このままそっと子供達の歓声を見守っていたい。

もう立秋も過ぎた。
夏休みが終われば静寂が訪れ、トンボが空を舞う季節へ変わっていく。
TOP