◆[山形市]南原町・小荷駄町・三日町 大気まるごと衣替え(2018平成30年6月2日撮影)

南原町の公民館前に、樹木の濃い陰が広がっている。
木陰が恋しくなる季節到来。

蔵通りと呼びたくなるほどに意匠を凝らした蔵が立ち並ぶ。
白い漆喰は吸い込まれるような青空の色によく似合う。

「さわんなよ、絶対だぞ!」
今、押されたりしたらムギュッと潰れてしまう。
いわれればいわれるほどギュッと触ってみたくなる。

白い漆喰の蔵の壁より目立とうと、
自販機は暑さに負けず立っている。

「しゃねこめスーパーが出来だんだなぁ。」
やはりその地区に住んでいないと、同じ山形でも分からないことは多々あるもんだ。
電柱の看板を見ながら考えている脇を、日傘の人が通り過ぎていく。

至る処にありとあらゆる花が咲いている。
もはや自分の能力では花の名前を思い出すのも不可能だ。
花を見つめながら思い出そうと脳みそがもがいている間にも、
車は無関心に何台も通り過ぎる。

画一的な形には画一的な影が従う。

先っぽに花を咲かそうとして、
電柱の頭をなでなでするナデシコの花。

消化器の赤い色に気を遣っているのか、
赤い色が苦手なのか、
蔦は消化器を遠巻きにして様子をうかがっている。

ギラギラの太陽を浴びながら、ようやく山商跡地にたどり着いた。
遊具の中に麦わら帽子の子供が見えた。
子供が寝ているからほほえましい光景なのであって、
もしあれが、むくつけき親爺だったら気味悪くて誰もが近づかない。

ハナミズキが終わり、ヤマボウシの季節がやってきた。
とはいってもヤマボウシもハナミズキの仲間なんだずね。
「んでもよぅ。昔はハナミズキどがヤマボウシて町の中さいだっけがず?」
時代とともに好まれる樹木も変わってくる。

ぴょんと跳びだしたシロツメクサが辺りを見回す。
初めて広い視野で遠くまでを見たシロツメクサ。
「昔は山商だっけのに、今は図書館がぁ。」
私のようにいつまでも昔のことを引きずっている。

「こっだな人工の狭い池さなにがいるんだがよ?」
子供は屈みながら藻だらけの水中をくまなく見入っている。

運悪く捕まってしまったザリガニの向こうでは、
第二、第三の、運の悪いザリガニを夢中で探す子供の背中を太陽がジリジリ照らしている。

すぼめた口で空中をツンツンと突き刺しながら、
ゴミ置き場のすぐ脇で咲く時期を伺っている。

コンクリートを穿ってしまいそうなほど影が濃い。

「目つき悪れずねぇ。」
「こだな目で睨まっだらやんだべなぁ。」
「しかも見てます!あなたのマナーだど。」
「融通の効がね、人のことだげば責め立てる性格みだいだずね。」
瞬きもしない目は、心の底までを見通しているみたいで、そそくさとこの場を後にする。

「車なの排気ガスば蒔いでいぐだげなんだじぇ。」
車の方を一斉に向く花びらに問いかける。
「誰も車の方なて見でね。太陽ば拝んでだんだ。」

容赦ない太陽の力に圧倒され、木陰へ逃げ込む。
ここは、あのクランクにぴょこんと跳びだした聖徳寺。
桜の木陰から、ひととき汗を沈めるために三日町方面をボーッと眺める。

生活必需品だからこそ、これだけしっかりした看板が昔からあったのだろう。
塩は未だに必需品だけれども、たばこはその権威を失墜しかけている。
「塩はなして字がちゃっこぐなて、しかもめぐっでいるんだ?」
「塩のくせしてナメクジになてしまたがはぁ。」

三日町の通りから八日町の通りに向かって、
延々と電線の影が路面に伸びている。
暑さのせいか、陽炎が街に立ち上っているようだ。

「入てなみろ、只で済まねがらな。」
そんな怖さを感じる意固地な鎖。
その向こうは廃墟感が漂い、晴れ渡った空が似合わない。

「ちょっとちょっとぉ、なしてこさいんの?一緒に何かしゃべらね?」
黄色い花は寂しさを紛らせるために自転車へ話しかける。
青い自転車は、何を話して良いかも分からず首を反対側へ回してしまう。

山形の街の真ん中には、こんなに味わい深い一角が相当数残っている。
画一的な只の箱みたいな家が建ち並ぶ新興住宅地とは一線を画する。
というか、まったく街の味わいが違う。
新興住宅街には味がない。出汁も効いていなければ隠し味もない。
山形の街中には「ぬか床」のように育まれた歴史の味わいがある。

「重だいげんと、日よけになてけでっからお互い様っだなねぇ。」
自転車は頭や腰に乗せられた座布団としばらくは仲良しにならざる終えない。
「ほだい陽さ当だっど、燃えでしまわねが?」
火気厳禁の看板は、座布団を見つめながら気が気ではない。

山ほど干された洗濯物。
その影は壁面にビローンと伸びて階下の窓へ手を掛ける。

「ふう、のど渇いだぁ。」
「おだぐがのど渇いだら、人間はなにに縋ればいいのや?」
砂利の上で力尽きた蛇口は、水を渇望しながらギラリと光を反射する。

「なんぼ錆びでも、絶対に緩めねがら。」
鉄骨と鉄骨は老いたボルトでしっかりと繋がれている。

諏訪町と三日町を分ける通りが、ややくすんだミラーに映り込む。

さっきの分別の目つきより、こっちの目つきの方が好き。
あの分別目つきにはなにか下心と嫌らしさを感じたけれども、
こっちの目つきには闘争心以外に感じるものはなかったから。

再び木陰に入り、アクエリアスをグビグビと飲む。
「世の中変わたずね。んだて、昔は外で歩きながら飲食するのはみっともないと思われていた。
今はペットボトルの飲み物ば持って歩ぐのも普通だし、誰も気にもとめなくなてっどら。」
「んでも、若いのが地べたさ座って、飲食してるのを見るとイライラするのは年しょたがらだべが?」
「おばあさん達が地べたさ座て飲食しながら世間話してんのば見っど、微笑ましいげんとな。」

地蔵尊の脇を自転車が走り去る。
やっぱり旧道はいいね。
一息付けそうなポイントが至る処にあるし。

太陽のあまりの威力に影も戸惑っている。
「整然と編み込まれたフェンスなのに、影はハチャメチャになったじゃぁ。」

「やんだぁ、絶対やんだぁ。」
「なして、ほいなごどゆて人ば脅すのや?」

いったい何年前から、この場所に来て撮影してきたことだろう。
シャスターデージーの誘いがそうさせているのは間違いない。

いつも頑なに閉じられているお店の前に、毎年忘れず咲いてくれる、
こんな光景こそが、どんなに立派な遺産や観光客目当ての光景よりもジンとくる。

シャスターデージーの気持ちを少しでも理解しようと、腹ばい寸前になる。
おがしげな人が居ると、通りすがりの人は視線を向けずに歩き去る。

「街の中は便利だなて誰がゆたんだが。」
「んだずね、今は街の中ほど不便だず。」
「んだぁ、スーパーは皆郊外さあっからねぇ。」
買い物を終えたおばちゃん達が、熱く熱せられた道をゆっくりと歩み去る。
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