◆[山形市]村木沢 水面に浮かぶ小学校(2018平成30年5月26日撮影)

山形盆地を見下ろし、奥羽の山並みを遠望する村木沢小学校。

土筆はスギナに入れ替わり、富神山を隠してしまった。
農家にとってはやっかいな、育ち過ぎなスギナ。

「どだな花咲ぐんだべ?」
尖りが大気を無理無理押し広げている。

村木沢小学校の方から、子供達の賑やかな歓声が青空を飛び交って聞こえてくる。
呼応するように白い花びらがクルクルと空を舞う。

いつ訪れても変わらない農協美容室。
その名前が気になるけれど、それ以上に建物の劣化、いや失礼、深まる昭和の味わいも気になっている。

ゆったりと流れる雲。
そして田植えの終わった水面に、その姿を映すベージュの建物は、
まさに水面に浮かぶ水上小学校。

「今日は運動会だがらてよ、ゴミばちゃんと出してがら子供だの応援さ行がんなねのっだな。」

「まんず雑草だら勢いいいくてよぅ。なんぼ刈っても屁とも思わねみだいだぁ。」
そんな呟きの手前で、葱坊主は空中でポンポン跳ねている。

富神山も家並みもシンメトリーを描く、田植えあと。

「育づの楽しみだべぇ。」
看板は胸を張りすぎて、ひっくり返りそうだんねが?

「風通しいいくて、気持ちいいばんだぁ。」
如雨露は体内の水分をカラカラにされながら吊されている。

「触てみろ。」
「やんだぁ、卵焼きが出来そうだも。」
サドルは丸っこい形で、熱く膨らんでいる。

「ほっだい盆地中さ語りかげねくてもいいのんね?」
「子供だば守るためには、これぐらいの事はさんなねのっだな。」
幟は陽光を浴び、水面を渡る風を浴び、全身に力が漲っているようだ。

「こっだい眺めの良い玄関も、ほだい無いのんねがず。」
村木沢の子供達は当たり前と思っているだろうが、
こんなに爽やかな気分になれる正面玄関ってなかなか無い。

「フジテレビのマークんねよね?」
秋ではないけれど、トンボがくるっと輪を描いた。

トンボからジーッと凝視される。
その両目には無垢な小学校と、煩悩だらけのカメラ親爺が映り込む。

「なんだて行儀いいごどぉ。」
「なんぼ暑いったて、寒いったて、頑張て並ぶっす。」
忠義なシャベル達は喋ることもなく気をつけ姿勢。

年季の入ったカップは、空の色を反射することもできず、
それでも伝統の染みを誇らしげに、グランドを見つめている。

「あたしばも見でぇ。」
誰も振り返ってくれない。遊具の子供は退屈と友達になっている。

ゴールの紐を掌に絡みつけしっかり握る。掌は緊張で少し汗ばんでいるかもしれない。
「ぎっつぐ握りすぎで、離すの忘れんなよ。」

グランドの堅い地面を蹴る足音が、タッタッタッと近づいてくる。
ゴール付近で見守る父兄達の鼓動がドンドン大きくなってくる。

遂にフィニッシュ。
それはそうと、今時の徒競走って男女が一緒に走るんですね。
しかも小学生は女子の方が体が大きいし、走りも早かったりして。

先生達は躍動する子供達を一心に見つめ、
あくまでも子供ファーストだということを再認識する。

「今日は休みが?」
「んだっだべ、こだい固っだぐいぼこ結びさっだら、何にもさんねっだな。」
ブランコは空へ放射状の幾何学模様を浮かべて沈思黙考。

「子供が何回も落どすがら角が割っでるんだが?」
「先生が力強く握り過ぎっからヒビが入るんだが?」
いずれにせよ、黒板消しは痛めつけられる運命。

「なしてお前だげ吊さっでいねんだず。」
「ほだな落ちこぼれみだいな事やねで。」
右端の一輪車は皆の視線をまぶしげに受け止める。

小さな学校だけど、ロケーションだけは最高。
遠くで富神山も運動会を応援している。

「暑くて堪らねぇ。」
「んだずねぇ、オラだばなんだど思てるんだずねぇ。」
篭はグランドの真ん中に立ってこそ栄える。
寝転ばされた篭と視線を合わせるのが不憫に思えてきた。

常日頃子供達のズックに踏みつぶされている葉っぱや、
シロツメクサたちに平穏が訪れている。

お願いの文章を添削してみる。
多々文脈に問題はあるけれど、先生だって人間だもの。

花笠が舞う前の緊張感がグランドに漂っている。

「背中さ手が回らねんだが?頑張れぇ。」
四苦八苦しながらも一生懸命な姿に心をくすぐられる。

「足つったりすねべなぁ。」
練習の集大成としての運動会。
「お父さんお母さん、家さ帰てきたらねぎらってけろなぁ。」

「どうする?」
「なにが?」
「熱そうだじぇ。」
「我慢さんなねっだな。」
「やっぱり転がるしかないがぁ。」
球たちは待っている間に、体を膨らまし、気持ちを高めている。

校舎を挟んでグランドの反対側に廻る。
窓ガラス越しに子供達の躍動と山の緑が透けて見える。
手前のガラスには奥羽の山並みが素知らぬふりで映り込んでいる。

竜頭蛇尾。
「いやいや、空の雲ばほだな表現てないべぇ、おがしいべしたや。」
そんな事はどうでも良いくらいの運動会日和。
今から田んぼの苗はぐんぐんおがり、夏もぐんぐん近づいていくばかり。
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