◆[山形市]万才橋と千歳橋の狭間は、冬劣勢(2018平成30年3月11日撮影)

普段ならちょろちょろとしか流れていない馬見ヶ崎川。
雪解け水を満々と湛えて春の日差しをまぶしく散りばめている。

「ばんざいばしんねがら、ばんさいばしだがらて。」
「濁点いらねのが?」
「んだ。ざおうざんもざおうさんて認めらっだべ?」
山形弁だがらて、なんでも濁点を付けていうかと思ったら大間違いだ。

蕾はまだまだ堅い。
でも、密かに春の暖かさを伺っているに違いない。

アスファルトに思いっきり枝を伸ばしたのは何日ぶりだろう。
今から芽を出し葉を広げようという木々は、
まず、小手調べに影を地面に広げてみた。

春の息づかいが背後から近づき、
あっという間に耳元を過ぎ、
どんどん前方へ走り去る。

「ゴミ捨てっど、罰金だがらな。」
「ほだなより内閣府さ告発状ば送たらいいべした。今流行なんだじぇ。」
一面に広がった枯れ草たちは、日差しを浴びながら囃し立てる。

「くたびっだ格好しったんねが?」
「はえずぁ、くたびれっべぇ。一冬重だい雪ばかぶったんだじぇ。」
「なんだが体が軽くなたみだいだぁ。腹の中は空っぽだしねぇ。」

空気が澄めば月山が麗しい姿を見せる。
あの柔らかい稜線を見ながら、どれだけの山形人が心を穏やかにしたことだろう。

「錆びだらけの木っ端トタン!いつまでひっついでいるんだず!」
そこそこに新しいトタンから文句を言われつつ、
茶色になった木っ端トタンはそれでもしがみつく。

「目覚ましたが?」
「う〜、まぶしいぃ。春になたんだがぁ?」
看板は一冬看板の責務を放棄し、枯れ草の中で眠っていた。

「なえだずまず。たまげだなぁ。」
馬見ヶ崎の河川敷に積み上げられた雪は、千歳橋の高さを越えようとしている。

冬の断末魔があちこちから聞こえてくる光景。
雪は綺麗なだけじゃないと山形人は知っている。

電車は車体に陽光を浴びて走り去る。
本性をむき出しにした雪は、身をくねらせながら少しずつ縮んでいく。

月山の雪と、馬見ヶ崎に捨てられた雪が同じ雪とは信じがたい。

河川敷へ反射したエンジン音が、快晴の空へ響き渡っている。

大空へ舞う羽根はまぶしく光り、早春を満喫している。
雪の残骸は、塩を掛けられた巨大なナメクジのように寝そべっている。

早春の山形は、あっちこっちがびじゃかだらけ。
だからこそ、シンメトリーな世界を楽しめる。

「いぐぞ!付いでこい!」
「誰さゆったのや?」
「やっときた春さゆったのっだなぁ。」
自転車は走りたくてうずうずしている。

「まだまだ白いずねぇ。」
「んだっだなぁ、まだ三月だじぇ。」
「あどどれくらいすっど緑色に染まるんだべ。」
「ほっだなまだ先の話よぅ。」
廃トラックたちは、自分たちがブリブリいわせていた頃を忘れ、のんびりと山並みを眺めながら世間話。

路地にも光が入り込む。
もうちょっとで窓を開けられる季節がやってくる。

「なして俺はこだんどごさ居るんだ?」
フェンスとフェンスの間に挟まれ、
板挟みならぬフェンス挟み状態に困り果てるペットボトル。

「おっちゃんゴメン。」
輝く頭を見たら春を感じてしまった。
「俺もいずれそうなっから、待ってでけろなぁ。」

自転車を遠巻きにして雪が様子をうかがっている。
まるで自転車が生きているのかを確かめるように。

「いったいどこが立ち入り禁止なのや?」
はっきりしない態度に声を掛けるが、本人も訳が分からない様子。

河川敷から東高サッカー部の声が響いてくる。
「その服の抜ぎっぷりはなんだず!ちゃんと畳んでからサッカーさんなねっだな!」
服を乗せられた自転車は、前が見えずに困っている。

飛び交うボールに目を奪われていた自転車たちも、
やがてあくびを発し、顔を背けてしまった。

「洗濯の事考えろぉ。」
そんなことをいっても無理。
春先の山形は、どこへ行っても泥だらけ。

冬の間に鈍っていた体が独りでに動く。
靴が泥だらけになっても構わない。
それを嘆くのは母親だけだ。

去年からの枯れ草や実が、蜘蛛の巣のように河川敷にわだかまっている。
その隙間を春風が流れ、高校生の若い声が突き抜けていく。

「一冬で随分伸びだんねが?」
「おまえこそ床屋さ行げず。」
お互いを見つめ合い、笑いをこらえる車止め。

「未来には希望しかない。」
「未来には明るさしかない。」
そんな笑顔が万才橋を走り行く。

「おらぁ、随分生ぎだもなぁ。」
「どだな人生だっけっす?」
「ほだなごど、人さいうもんでねぇ。まだまだ先も長いしよぅ。」
おじさんの曲がりくねった人生を、車輪の跡のクネクネが垣間見せているようだ。
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