◆[山形市]七日町通り イルミネーションと郷愁(2017平成29年12月23日撮影)

この位置でこの構図で何年前から撮っているだろう。
何も変わらないように見える。
でも見えるだけで、ありとあらゆる物が密かに変化している。

張り紙があるということは、多くの人がここで滑って転んだということだろう。
グレーに沈んだ周りから浮き上がるような足元注意。

ビルの向こう、御殿堰前の水の町屋の窓からオレンジ色が人々を誘うように漏れている。
そして手前のビルは来年四月からの解体工事を待っている。

「ほだな季節になたがぁ」
真新しい紙書かれた年越しそばの墨痕を見て、年の瀬の感慨にふける。

家路を急ぐ人々は何かを心に秘めながら、足早に歩いて行く。
笑顔なのはウインドウに飾られたポスターだけらしい。

微かに瞬くイルミネーションと、
真っ白い手のひら。
尖った指先が虚空を指している。

「松坂屋てないんだっけがぁ?」
「ぼげだのんねがぁ。ほだなとっくの昔だべず」
オレンジの灯りが夕空の青と拮抗する時間帯。

「梅月堂の灯りが点いでいねどれ」
「しつこいずねぇ。んだがら、もう無いんだず!」
目の前に現実を突きつけられても、体が信じたくないと拒否をする。

閉ざされたドアの向こうで、車が走り去り、ウインドウに灯りが灯り、イルミネーションが瞬いている。

「あど何日がすっど蕎麦も食んなねっだなねぇ」
「山形の蕎麦食てる人は、他県の蕎麦なの食わっだもんでないべ」
吐き捨てるように言うのは、脳内にわだかまる都会への劣等感の裏返しかもしれない。

右側のドアが言う。
「こちらからは入れまボロボロボロ・・・」
風邪でも引いているのか、長年の疲れが出ているのか、最後までしゃべれない。

ローソンの看板がパッキリと夜の街に浮かび上がっている。
いよいよ街は夕方から夜へと移り変わってきた。

「こだな寒空に野良猫がいんのがい?」
腹に張り紙をくくりつけたコーンも寒そうだ。

誘う瓶が微かに濃い緑の光をため込んでいる。
犬は大人しく街路を眺めている。

「なんぼが綺麗に鈴ば撮っかどおもたら、なんだず!」
「鈴の内側さガマガエルみだいなて俺が黒く映ったどれ。みだぐないったらよぅ」
「クリスマスも台無しだべず」

撮るべくして撮った。
「んだて来年4月から解体なんだじゃあ」
「余談なんだげんともよ、こごのトイレ凄いんだじぇ。
ちぇっと暗いげんと大正ロマンみだいな感じでよう、
今のトイレど違って、ゆったりしてで威厳すら感じっけば」
山形の双璧丸久と大沼。その一角が来年崩れ去る。

「凄い人いっぱいいだんねが?渋谷のスクランブル交差点並みだべ。」
「おまえ行ったごどあんのが?」
「ない」

再度振り返って旧丸久を見る。
目の前を山交バスが寒風を巻き上げて走り去った。

人々は足早に家路を急ぐ。
と思ったら大間違い。
山形人の歩く速度はそんなに速くない。

濡れた歩道にライトが映る。
信号が変わるたびに路面の色も追随して変わっていく。

「誰がど待ち合わせが?」
「おじさんがほだなごどゆたら、警察さ通報されっべな」
心の中でそんなことを思う間にも、街は徐々に夜の帳に被われてゆく。

「サドルさくくりつけんの苦労したんだべねぇ」
サドルのコンビニ袋だけが浮き上がるビルの狭間。

すっかり夜が支配してしまった街の中に、ウインドウのマネキンさんが際立ってくる。

「今度は100円バスばりんねくて、西くるりんの時計回りと反時計回りと、
東くるりんの時計回りと反時計回りがあるんだべ?」
「複雑で分がらね」
バスの窓には七日町の煌めきが映り込み、そして流れ去る。

路面に大きく輪っかが影を伸ばしている。
輪っかはその形を変えながら、街の中へ消え去った。

「おまえも寒い中大変だな」
「今日なの風ないがら大丈夫だぁ」
風もなく雪も無い七日町の夜の始まり。

体はアズの前だが、心はスマホの中にある。

まばゆい灯りがシャッターに映り込む。
シャッターはこちょびたいはずなのに、ピクリとも動かない。

灯りを感じてビルの隙間を覗き込む。
赤提灯がチロチロと寒空の中に浮いている。

「おまえだは窓際族が?」
「失礼だずね。イルミネーションば見学しっただげだっす。」
ギターならクリスマスソングでも奏でてけっどいいんだげんとなぁ。

冷たい滴がベンチの手摺りに小さくぶら下がる。
誰も座らないものだから、寒くて鼻水代わりにぶら下がっているのだろう。

スマホをかざして写真を撮り、そして足早に人々は去って行く。

「暑くて汗だらだらが?」
「なしてほだな意地悪ばいうんだ。おっさん。」
「悪れがった。いっつもこごさ立ってくたびんねがよ」
「しょうないべよ。仕事だも。」
目玉をグルリと回して、七日町を見回す立ちんぼ人形。

寂しげなイルミネーションの中にズドンと立っている。
貼られたチラシには、七日町の灯りが張り付いてテカテカ光っている。

「街さ行ぐてゆたら大沼だっけっだな」
大沼さ行ってきたと学校で言うのは自慢であり、
もちろんなんとなく鼻高々だったな。

七日町交差点には公衆電話がちゃんとある。
使っている人を見かけたことはないが、誰かと結ぶための必要な物。

セブンプラザの一角を占めていた窓が暗い。
中の猫は凍える体にイルミの光を散りばめる。

「目ばそむけっだぐなた。んだてまだ書いでいねもの年賀状。」
「いいはぁ、来た人さ返事書ぐごどにするはぁ。」
昔は年賀状が楽しみでしょうがないっけのになぁ。
現在、書くためには腰が重すぎる。脂肪が付きすぎて。

「二階の食堂で食うのが贅沢だっけずね。」
「んだっだなぁ、子供の頃なてまぶしいだげの存在だっけ」

「おらぁ罰当たりだはぁ。すっかり忘れっだけもはぁ」
「再来年て天皇誕生日はどうなるんだ?」
休みかそうでないのかだけで判断する自分が恥ずかしい。

空全体が漆黒になる頃、七日町にはオレンジの光があふれ出した。

七日町通りをビュンビュンと車が北上する。
そして文翔館前で左右に分かれて走り去るのだろう。
運転する人たちは目の端にきっとイルミネーションを焼き付けているはず。

人の往来が減り始め、イルミネーションだけが寂しく灯るころ。
人々はどこかで飲んだくれているのだろうか?家族で鍋に舌鼓を打っているのだろうか?
光の光芒が七日町を無視するように走り去るのを漫然と眺めながら、そろそろ帰ろうかと思い始める。

山交バスが窓へセブンイレブンの灯りを反射させながら、寒風を巻き上げる。

今日最初の一枚を撮った場所に戻る。
奥羽の山並みも、千歳山も見えていたのに今は闇の中。
それぞれの屋根の下で人々はどんな年末を迎えているのだろう。
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