◆[山形市]沼木 盆地の中心で寒ッ!と叫ぶ(2017平成29年12月2日撮影)

空の重さを支えようとするが、
なんぼ踏ん張っても無理かも知れないと、枝先をプルプルさせて思い始めている。

「元気な子、集合〜!」
まるでカメラに向かってワッと集合して笑顔を振りまく冬野菜。

枝は葉を落とし、黒々とした毛細血管が空を彷徨う。
その間隙を縫うように自販機が原色を目立たせ始める。

「そこのちっちゃいの、寒くないが?」
「どうせ風に吹かれて飛んでいぐだげだがら。おっちゃんも一冬頑張れなぁ」
柿の木とタンポポはお互いを思い、忖度映えのする言葉で会話する初冬。

「なんぼバス本数が減っても、乗る人が最後の一人になろうとも守るっす。」
そんなことを錆びた待合の風除けが呟いているようだ。

富神山は初冬を迎え、頭が少し薄くなってきた。
その薄くなった姿は、性格や表情が柔らかくなったとも感じる。
頭がガチガチに黒々としていたら、それはそれで攻撃的な感じがして気持ち悪い。

昔ながらの通りに入り込むと、蔵の漆喰の白さが目立つ。
「さわやかなあいさつの声町中に」の看板が薄日を反射している。
背中を丸め縮こまって歩く私には、挨拶の声を町中に響かせるには寒すぎるぅ。

「沼木ど街どの間さは田んぼしかないがら、街なの丸見えよぅ」
筵をビラビラと翻しながら、軽トラはうそぶいている。

真っ平らな田んぼの真ん中に一本杉。
朝の光を全身で受け止め、日没の夕日を体に引きずる。
夜の静寂も身一つで受け入れてきたことだろう。
「なして孤独だーッ!て叫ばねんだ。なしてほだい寡黙でいるいんだーッ!」

あまりに気になったものだから田んぼにズボズボと侵入し、
一本杉の懐に入り込んでみた。
唖然!
雷にでも打たれたのか、黒々と炭化した体に声も出ない。
それでも葉っぱは緑なのだから生きているのは確かなのだろう。
この強い生命力があったから、田んぼの真ん中で、盆地のど真ん中で生きてこれたんだろうなぁ。

一本杉の気持ちを忖度しながら、田んぼ道をトボトボと歩く。
風を巻き上げて宅配便のトラックが走り去る。
「ウーッ、寒ッ」
思わずネックウオーマーを口元まで掻き上げる。

誰が突っついだんだが、柿の実はマントヒヒの顔みたいに食われている。
それもやがては寒さとともに崩れて、地面へ還る。

白い山水画の世界になる前の景色は、うんともすんとも言わない。

木立の向こう側へ北風が抜けていく。
ヒューヒューッと、風切り音が聞こえてくる。と言いたいところだが、
風はピタッと止み、息を殺して寒波の襲来を待つ雰囲気がヒシヒシと伝わってくる。

「一吹きで何個落ぢっべな?」
「人ごとだど思てぇ」
柿の実たちには、引力に逆らう力があとどれほど残っているのか。

ぶら下がり光景、その一。

ぶら下がり光景、その二。

ぶら下がり光景、その三。
とにかく冬への準備は「ぶら下げる」がキーワード。

梢も無言。板塀も寡黙。
雪を迎える季節には、誰も彼も無口になる。

「気をつけて!近くにひそむ」の次に来る言葉は「カメラマン」。
「勘弁してけろず。なしてカメラばたがて歩いでっど必ず不審者扱いなんだず」
大きな声で反駁したいが、寒くて声も出ない。

どこかからポン、ポーンと軽やかなボールの弾む音が流れてくる。
人の姿は見えないが、確かにネットを揺らすボールが弾んでいる。
「雪が降る前のささやかなひとときっだずね。」

明治・大正・昭和・平成が混在する街並み。
平成もあとわずかで終わるそうだが、未だに平成は影が薄い一角。

柿が暴れる、という訳でもないだろうが、
何かに対して苛立ちを隠しきれずに悶々としているようだ。
背後の霞城セントラルはそっぽを向いているし。

「おばちゃんのケッツみだいだどれ」
「ほだい垂れでいね。ただ、おばちゃんのケッツみだいに、すなこぐない・・・」
おそらく指で触れたら、あっという間にその形は崩れて、
トタン屋根から地面へ、ダラーッと垂れ落ちてしまうのだろう。

左の道へ行けば小さな神社、右の道を行けば2〜3メートル下へ降りる階段。
須川の近くなので、地形的にはちょっとした河岸段丘の跡なのかも知れない。
(昔、地理学を専攻していたので、難しいことを書いてすんません)

「節といえば節っだなねぇ」
「この頃甘酒は健康志向で、見直されでるったんねがよ」

立てかけられたリヤカーの腹はささくれている。
小さな赤い実は、そのささくれが気になって仕方がない。
でも、どうして良いか分からない。

沼木は平坦なようで、実は須川に面した低湿地部と集落のある地域とでは2〜3メートルの段差がある。
トラックは下半身の三分の一を段差からはみ出している。
アクセルとブレーキを間違ったら、落ちること間違いなし。

「寒々しいずねぇ」
自転車は呟いた。
「太平洋側はこいな光景が冬中続ぐげんと、山形はこれから真っ白な光景に変わっからねぇ」

湿り気を帯びた落ち葉が、重そうに座っている。
快活な声が、軽やかに公園を横切ってゆく。

「つっぱえったまんまでいんのがぁ」
「ほだなつもりはないげんと・・・」
一輪車は顔を地面に付け、屈辱の気持ちを来年へ引きずのか。

ぐいっと目の前にしゃしゃり出る柿。
「ほだい近づいだら、あぶないべな。その枝先で、目ば突っつがれっど思たっきゃあ」


あの一本気な一本杉。
〈2017年12月2日撮影〉

〈2017年11月28日撮影〉

〈2017年11月27日撮影〉
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