◆[山形市]妙見寺 白い訪問者が来るまえに(2017平成29年11月18日撮影)

穏やかな気持ちで冬を待つ山並みの手前でパキッと目立つ少年。
「トビウオのダシんねくて、とびだし注意だがら」
きっとラーメン好きな少年なのだろう。

冷たい外壁に寄りかかりながら、
時折顔を出す太陽の光をありがたくため込む蕾。

街を巡れば、必ずといって良いほど火乃用心の錆びついた看板を見かける。
変化の激しい時代に、何十年とリニューアルしないデザインに感嘆する。

時たま空には青空が顔を出すものの、
空気は冷たい。村は白い訪問者を待つばかりとなった。

「あれはもしかして千歳山?」
東側から見ることは少なく、いつもの表情とはかなり違う。
千歳山の裏側を見たことで、見てはいけない物を見たような気がしてきた。

季節外れのアザミは、空をチクチク刺激する。
「あんまり刺すなず。空がごしゃいで雪が早ぐ降ってくっべな」

刺激的な原色が少なくなって、村の彩りが落ち着いている。

蔦の赤だって、原色の喜びの赤じゃなくて、鬱屈した気持ちをため込んだような赤だ。

「空に顔向けでぎねっす」
いくつものひまわりが首を垂れて林立している。
戦に負けた兵隊が引き上げてくる姿のようじゃないか。
空と向き合っていた真夏は遙か遠くへ去って久しい。

シーンと静まりかえる村からは、コソとも音が聞こえない。
ジーッと息を飲み込んで、あの白い訪問者をおびえながら待っているようだ。

大気は動きを止めている。
冷気と湿気が首筋をそっと撫でるだけ。
自分の歩く音さえも憚られるような静けさが満ちている。

夏の養分をため込んで、重くぶら下がる柿の実たち。
その重みに耐えかねて、次から次へと落ちてゆくのか。

すっかり葉っぱを落とした枝が、空中で所在なげに絡まりあっている。

手前も奥も柿だらけ。柿の朱色は晩秋の色。
その色が見えるだけで、人間は秋が一番深いところまで来たと認識する。

妙見寺は昔ながらの村だけど、すぐ近くに県庁のビルが見える。
頑なな村へ、近代が無理矢理侵入してきたような光景が広がっている。

「雪降っずぁ〜」
逃げるようにバイクはトコトコ走り去る。

山形市街へ舌のように伸びる盃山・愛宕山。
その姿を見守る紅葉も自分の散り時を見計らっている。

妙見寺にある東山形変電所。
山形のインフラを支える施設だ。
送電線は空に立ち上がるゴジラのように猛々しく、じっと見ていると雄叫びを上げそうだ。

鈍色に染まる空に有刺鉄線が浮かぶ。
やはりゴジラに近づいてはいけない。いや、高圧の電気に近づいてはいけない。

「なにがあったら、もっくらがえてしまいそうだずね。」
「大丈夫なんだべが、あの建物。」
小山にへばりつく建物に不安感をぬぐえない。

「なして、こだなどごば写すんだず」
「んだて寒くてむぐれそうな時に、女神のように見えだっけのよ」
小山の上にまでキチンとトイレが設置されているとは、
この山が地域によって、いかに守られ愛されているかが分かる。

「おまえだ、葉っぱばサグサグ刺していねでちゃんと掃げず」
「んないんだず。なんぼ掃いでも多勢に無勢で、掃いだ先から積もるんだず」

傾斜の上で、少しずつズリズリ落ちながら、葉っぱたちは落ちるという運命に逆らえない。

「おらだの役目は終わりだもはぁ」
ゴミ箱たちは逆さまになって仕事を放棄し、三人並んで世間話に興じている。

小山の頂上からは山形の街並みが見える。
送電線が邪魔しているが、盆地の底にわだかまる冷気の中で、
はっきりと県庁や霞城セントラルが確認できる。

今年最後の秋色を堪能でき、心には満足感が満ちる。
天気予報によると、明日からは雪のマークがずらっと並んでいる。
だからこそ、この色合いをしっかりと目に焼き付けておきたい。
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