◆[上山市]山元・狸森 濡れる村、染み入る秋(2017平成29年10月29日撮影)

国道348号をひたすら西へ。
長谷堂を過ぎ、狭い山間に挟まれた道なりに進むと、やがて山元村。
あの無着成恭先生で有名になった村だ。

「なんにも隠さねくていいんねの?」
「防火推進モデル地区」の文字は恥ずかしげに、葉っぱの影からチラチラと視線を向ける。

郵便局や店や学校などがある地区から、村へ行くにはちょっとだけ歩かなければならない。
ほんとにこの先に村があるのかと、一瞬不安になる落ち葉道。

ほどなくして杉木立がまばらになり、雨に沈む村々が見えてきた。

雨は一向に止みそうにない。
地蔵さんは可愛い帽子をかぶっているものの、すでに頭はびっしょり濡れている。

滴は耐えきれずポタポタ落ち、雨は絹糸のようにスイスイっと空中に線を描いている。

夏を謳歌した枝葉はすっかり元気を失い、滴に濡れながら冬を待つ。

「なんの花なんだべ?」
濃い紫の花?実?をしっとりと濡らして無言で佇む。

どんなに雨に打たれようが負けるわけにはいかない。
だって、今が旬だし、今咲かなかったらいつ咲けばいい?と天に問うているようだ。

村に平坦な道はない。
どこを見渡しても勾配のある道だ。

「なになに?さっぱり意味が分がんねんだげんと・・・」
看板が錆びすぎて分からないこともあるが、内容がまた難しい。
ここは公民館。玄関の上に掲げられた一枚の板には昭和25年の文字が見えた。
そのころはこの村も活気があったのかもなぁ。

バケツに上山市と記してある。
上山の街からここへ来るには、おそらく山形市を経由しないと来ることが出来ない。
行政上は上山市だが、生活は完全に山形市に密着している。

「飲まずにいられっかってぇの」
狸は雨粒が落ちてくる空を見上げながら、出来上がっている。

緑の土手がベロのように地面を這い出している。
落ち葉を舐め尽くそうとでもしているのか。

村々を見渡せる位置に小さな祠。
風雪に耐えてきた村人をどれだけの間見守ってきたことだろう。

稲杭にかぶせられたビニールに、雨粒が絶え間なくくっついては流れ落ちる。
雨粒は冷たく、すでに冬の匂いを感じさせるようだ。

靄に包まれて、辺りの森が霞んできた。
粒々にたどり着いた滴が、今まさに地面へ落ちる。
落ちようとする滴にとっては大事だが、村から見れば誰に知られるでもなく地面へ消える小さな出来事。

いよいよ靄は濃く、せっかく咲いた花びらは濡れ鼠。

靄は山並みを伝い、覆い尽くそうと触手を伸ばす。
村は黙って自然の言いなりになるしかない。

「ほいずぁ退屈っだなぁ。言うまでもないべぇ」
帽子は雨を避けながらうつむき加減にぼそっと答えてくれた。

「せっかく咲いたのにぃ。誰も見でけねぇ」
「ほだい落ち込むなぁ。俺が撮って、皆が見るいようにすっから」
うちひしがれた花びらはコクリと頷く。

討ち入りに向かう志士たちか?
そんな事を彷彿とさせる、ビニールをかぶった稲杭。

「どれだげ村ば見てきたんだっす?」
「やんだぐなるほど」
「具体的には?」
「すごぐやんだぐなるほど」
この鳥居に声を掛けるのは失礼な行為だと悟った。

次から次へと滴が膨らみ落ちていく。
雨は絹糸となって地面へ急ぐ。

晴れていればどんなに綺麗だったことかと思い村々を眺める。
待てよ。晴れた日ばかりを見ていたら、それは真実に目を背けたことになる。
村々は晴れの日もあれば雨の日もある。
考えを変えた。こんなにしっとりとした静かな村を見られた事に感謝しようと思う。

「誰がゴールすんのや?」
ススキたちははやし立てるが、ネットを揺らすのは雨粒のみ。

「おまえ、滴が垂れっだどれはぁ」
「そういうおまえも鼻水が垂れそうだぁ」
雨にかき消されそうな会話が微かに聞こえてくるようだ。

「NTTのマークだがっす?」
丸まった青いホースに問いかけるが無言。
よっぽど草の上が心地良いのだろう。

「テロテロに濡れではぁ」
「もっといい表現ないの?たとえばしっとりどが」
真っ赤な葉っぱに言い返されたが、テロテロとしっとりの違いは共通語と山形弁の違いとしか思えない。

あの山並みの向こうが山形市街。
車じゃほんの十数分だ。
こんなしっとりとした村が静かに息づいていることを大半の人々は知らない。

※これはグーグルマップです。
手前が狸森の村、向こうに見える盆地には山形の市街が広がっています。
TOP