◆[山形市]第30回 たたら・ふいご祭り 曇天模様の空の下(2017平成29年10月15日撮影)

「なんだて凄い人出だずねぇ。この日ば待ってる人が、うがいんだべずねぇ」
子供は高いところから見下ろしながら、両所宮内の混雑を俯瞰する。

「オラだは縛らっだはぁ。」
「今日だけはお役御免なんだど」
「ブランコで足の筋肉使たら、たたらば踏む時くたびっで踏まんねぐなっからっだな」

「とにかぐよ、寒いどきは何があったかいの食わんなねべ」
「やろべらは腹ば空かして来っべがらな」
焼けたイカの香ばしい匂いが、団扇で辺りに拡散される。

目の輝きが違う。
居並ぶチョコバナナの様々な姿態に、女の子は完全に魅了されたようだ。

「あいずいいんね?」
「こいずのほうがいいんねがよ」
「んでも、こっちもいいずね」
腰の屈み具合が、興味の度合いを現している。

秋を告げる鶏頭の花は、自転車や樹木の影から、祭りを静かに見守っている。

秋から冬への野菜がてんこ盛り。
採算度外視の祭りだがら、安いに決まっているはず。

「今日はブランコで遊ばんねがら、たたらで遊ぶびゃー」
銅町の子供たちはブランコ漕ぎよりも、たたら踏みのほうが上手?
とにかく子供たちはしょっちゅう動くものだから、シャッターを切るにも焦ってしまい、
気持ちがたたらを踏んでしまう。

「まだまだっだな、始またばっかりだもの」
もうちょっとすれば、両所宮の森を焦がすような炎と煙が吹き出す。

「天気も持ってけだがら、まんずいがったんねが」
「んだずねぇ、寒くてどうなっかど思たげんと、かなりの人出だどれ」
「銅町ど宮町の人だは、この祭りで秋ば感じるんだべがらなぁ」

竹とんぼは飛びたくてうずうずしている。
でも、誰も手にとってくれないのでは飛びようがない。

テントが張られ、椅子が並べられ、多くの人々が秋の味に舌鼓を打っている。
そして無防備な足先はプランプランと揺れている。

子供たちはポップコーンに興奮を隠せない。
自然に笑みがこぼれる。
子供たちの笑みが境内に溢れる祭りの終わりとともに、秋深し。

「田楽だっす。なんたっす」
「え?チケット持ていねっす」
「んだら味見ていうことで食てけろ」

「なんだてありがどさま。」
おかげで片手に田楽、片手にカメラとなって、撮り辛い事この上ない。
「んでも、旨かったぁ、べご負けだぁ」

大鍋の湯気が森の中を彷徨う。
湯気の向こうには、肌寒い中、匂いに誘われ人々が繰り出している。
「たたら・ふいごが主役だべ?秋の味覚が主役になてるみだいだどれ」
「まんず堅いごどやねでぇ」

「これっぱっちょの里芋なの、あっという間っだず」
「とにかく山形人の体の成分ば調べっど、半分は里芋で出来でるんだどぉ」

「こいにピンと立ってねど駄目っだなぁ、ほごのあんちゃん」
おばさんたちはピンピンと赤い手ぬぐい?を立て、元気に踊り舞う。

「この手作り感がいいのだべ」
紅白幕の裏側にビールのケースが積み重なる。

「鉄板も年季が入ってきたなぁ」
熱で歪んだ鉄板の上で、焼きそばが湯気を吐きながら踊っている。

「そのヘアキャップ似合てっどれ」
まんざらでもないお兄さんは、益々焼きそば作りに力が入る。

「ドバドバ入れろーッ」
でかいソースボトルは空っぽ。それでも山形人の食欲を満たすには至らない。

「オラだの出番はまだが?」
椅子にデーンと鎮座して出番を待つのはキャベツ様ご一行。

たたら太鼓は出番になるまで、片隅に段ボールで隠されている。
出番の時間が少しずつ近づき、内に秘めた炎が燃えている。

「ちゃっちゃどさんなねっだな」
「やろこだ腹空かして待ってだどれ」
キティちゃんの見守る中、トングも割り箸も空中を忙しなく舞っている。

炎を見て心のざわつかない人はいない。
火の粉が吹き上がる中、これからの展開をジーッと見入る。

「今、かえずば造ったんだっけ」
「なんだっす。こいず」
「釘っだな。こいな物も一つ一つ造んのよ」
おじさんの手のひらが慈愛に満ちて柔らかそうだ。

伝統技術は代々受け継がれている。
現に、今打っているのは若いお兄さん。
その脇で、おじいさんが柔らかいまなざしを向けている。

「ちぇっと、靴さ砂入ったはぁ」
「待ってっから落ち着いでな」
おじさんは悠然と構えて、女の子の可愛い靴下を見守る。

「近い近い。おじさんと女の子が近過ぎ」
おじさんと女の子は頭が触れるほどに近い。
二人は一つの物を造るために、気持ちが一つになりつつある。

鋳型が地面に置かれている。冷たく湿った秋の地面を感じながら。

「あんまり湯気でで、中身が見えねじゃあ」
お兄さんは段ボールの切れ端で湯気を仰ぎながら、
ちょっと垣間見える具を柄杓でかき回す。

このところヒンヤリした日が続いた。それでもまだまだ樹木は緑色。
その緑色をよく見れば、力強さを失い、黄色や赤へ移り変わろうとしている気配を感じる。

「どごで食う?」
「座るいどご探すべ」
熱々の器を持ちながら、ギッコンバッタンの先へ歩みを進める。

「太鼓のレジェンドなんだど」
空気の振動が人々の腹に響き、森の梢の先まで震わせ、やがて空へ散っていく。

雑踏の中へ、ケヤキの枝葉へ、人々の鼓膜へ、
否応なしに響きは侵入して、祭りの興奮を後押しする。

「じょんだずねぇ」
「分がんのが」
そんなことより、二人一緒に並んでいるということに意義があるだべ。

太鼓の響きが足元をすり抜ける。
もはや恒例の祭りだから、湿って冷たい地面も、間もなく冬なんだべなぁと勝手に腑に落ちている。

「腰、腰。」
「あぁ?何したぁ?」
「腰さ気ぃつけろてゆったの」

「男は後頭部で生き様ば語るのよ」
よっく分からないが、そんな気もしてくる手ぬぐいの格好良さ。

「見ろほれ、じょんだねぇ。おばちゃんだ元気だねぇ」
親にいわれ、子供たちはしゃがみ込んで見入っている。
ただ、子供たちが笑顔なのか、むつっとしているのかは分からない。

「秋ば満喫したが?」
「ちぇっと食い足りねっけげんとなぁ」
「クジも当だたし、いがったっだな」
「どーれ、うっつぁ帰たら何食うべなぁ」
三々五々、随神門をくぐって街へ散っていく家族連れ。
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