◆[山形市]上谷柏 梅雨も明けずに夏花満ちる(2017平成29年7月30日撮影)

南ジャスを過ぎそのまま南下し、やがて西バイから外れて西に進路を取り、
山形九中付近を過ぎて上谷柏に着く。

暑さのためにダランとしているのか、つまらなくてダランとしているのか分からない植物が、
道路に覆い被さっている。

垂直に立つことしか知らないタチアオイが居なくなると、
待ってましたとばかりにサルスベリが花を広げ始める。
花を広げ始めるといっても、キクラゲをそのままピンクにしたような花びらだねぇ。
しかも、枝で猿は滑っていないし。

しゃねこめ梨と草花は急接近しているし、
夏は開放的になって、特に若者たちは危なっかしくてしょうが無い。

左端に蔵王へ登るときにくぐる赤い鳥居が、右端に山交ランド(リナワールドともいう)の観覧車が見える。

「おまえ、仕事放棄か?防火水槽なの、どさあっか分がらねどれ」
「押し倒さっで、起き上がらんねもはぁ」
夏草が猛威を振るって、これ以上なく濃い緑。

甲箭(こうせん)神社というらしい。
この裏が目的地の一つ。蓮が一面に広がっているらしい。

真っ赤な目を射るような花びらの向こうに、
梅雨も明けない山形の街並みが広がっている。

「この辺さ住んでいる人はいいずねぇ。毎日山形の夜景ば楽しむいじぇ」

ある花畑ではクラシックを聴かせて花を育てるという。
ここ上谷柏では、タマネギに山形の街並みを見せてぶら下げている。

太陽さえ出ていれば、さぞ木陰は涼むのに良い場所になっていることだろう。
梅雨はいつ明けるんだと思いつつ、どよんとした大気の中をゆっっくり歩く。

「何した?大丈夫だが?」
ひまわりたちに声を掛けられ、看板が答える。
「針金が食い込んで痛くてよぅ」

至る処ノウゼンカズラだらけ。
「なんだがしゃねげんと、ノウゼンカズラて好ぎだなぁ」
色合い、ぽたぽた落ちる花びら、皆好ぎだ。

「悪れっけな、びっくりさせて」
突然ストロボなの焚くもんだから、ノウゼンカズラはピクッと緊張して堅くなる。

「よっくど見ねど、何時に回収に来っか分がらねぇ」
「ずげ」
「ずげ?」
ポストは間もなく来ると、短い言葉でけだるく答えていた。

誰も歩かない。家の中からの生活音も聞こえない。
ただ、梅雨の大気が湿気を充分に吸い込んで辺りを漂う。

「退屈しったが?ありゃキュウリば囓ったのが?」
「んだ。今の季節は毎日これでもかとキュウリばっかりだぁワン」
退屈を通り越しているけれど、見かけない中年カメラマンには胡乱な目を向けてくる。

「なんだず、間もなく甲子園だていうのに!」
ボールを前にして、鬱屈した気分を背中に重く背負っている犬ころ。

甲箭神社の境内に入り込む。
一応児童公園になっているようだが、ブランコは微動だにしない。

社殿の脇には絵馬が並んでいる。
絵馬を撮ったつもりなのに、何故かワ〜ン、ワ〜ンと群れる小さな虫たちにピントが合ってしまった。

「アジサイもそろそろ元気がなくなてきたんねが?」
「ほだごどない。ただ、隣の蓮が元気すぎるだげだぁ」

「もっと午前中早ぐ来っど、パッと咲いっだっけがもすんねな」
昼近くなので蓮の花は閉じかけている。

「なしてこだな蒸れる空気の中で咲いでけるんだがねぇ」
「人間だごんたら、こだな季節に凜とした姿なて見せるのは面倒くさいげんとなぁ」
そう思いつつ、携行してきたアクエリアスをグビッと飲む。

「蓮ていうど、宗教色ば感じるんだげんと、なんたんだ?」
「人間が勝手にそういうイメージば作り上げだのんねがよ」
煩悩だらけの自分には、蓮の達観した気持ちは分からない。

何千人、何万人のカメラマンたちに狙われた蓮。
それにしても真ん中の実はいつ見ても変わった形。

「お昼だぁ、まま食ぇ」
遠くで聞こえないが、もし、おばあちゃんが、働いている息子にそう言っているとしたら、
これぞ農村の最高の場面と思ってしまう。

花はあらゆるアマチュアカメラマンが撮り尽くしている。
偏屈な自分は、真下から蓮の葉っぱを覗いてみた。
覆い被さる葉っぱたちに四方八方から見下ろされ、縮こまってしまいそう。

花びらが一片水面を漂う。
その落ちるまでの一生にピントが合わせられず残念。

あっちでポチャン、こっちでポチャンと蛙たちの逃げ惑う音が蓮の茎の間から聞こえる。

梅雨も明けずにコスモスが咲く。
背後ではアジサイが首を伸ばしてこっちを見ている。
アジサイ・蓮・コスモスと三世代同居の上谷柏。

「蓮さばっかり目が行って、誰も気づいでけね」
「分がたず。撮ってけっから」
むくれる花たちは、シャッター音を聞き、機嫌が直る。

「何ば、さぐうんだべ?」
「さぐうて何?」
「んだがら、掬(すく)うていうごどよ」
網はちょっと苛ついた。

「車はすぐ熱ぐなっから、おらだが冷ましてけらんなねのよ」
カッとなる車は、朝顔たちに癒やされて大人しくしているようだ。

「んぐのがぁ、まだいいべよ。」
「ほだごどもしてらんねのよ。今から撮った写真の編集さんなねがら」
ゴム手袋に引き留められたものの、自分には時間がない。
「頼むがら追っかげでくんなよ」
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