◆[山形市]高校野球山形大会 野球のある光景(2017平成29年7月16日撮影) |
県野球場へ赴いて、最初に迎えてくれたのは、 四枚の羽をゆっくりと広げたり閉じたりしているトンボ。 正面玄関の前庭に何匹も群れている。 |
とりあえず飾られたような、旬を終えつつある草花。 それでも野球に魅入られた人々を気持ちよく迎えようと、最後の力で微笑んでいる。 |
高校野球は出場する選手だけのものではない。 様々な高校の、さまざまな野球部員たちが試合を支えている。 |
空を目指しているような、甲子園を目指しているような手摺りが、階段を上る人々を映しこむ。 |
球場の二階の知り合いとの会話が、ジメッとした大気の中を行き交う。 アジサイは我関せずと、湿度の高さを満喫している。 |
半券を渡すのも野球部員の重要な仕事。 こうやって人との接し方を学んでゆくんだな。 |
「麦わらかぶたらいいんだが、傘刺したらいいんだがわがらね」 「めんどくさいがら両方かぶったんだがっす」 |
きっと瞳は我が子へ釘付け。 |
「やんだぐなたはぁ、雨はふってくるし、何おもしゃいんだずぅ」 親は野球に夢中。子供は一人の世界に夢中。 |
いろんな人のケッツを支えてボロボロ。 |
キンキンに冷えたペットボトルがぎゅうぎゅう詰め。 今日は雨の中の試合ということもあり、ペットボトルが冷蔵庫の扉の外へドンドン出て行くこともない。 |
「お母さんこいずいい。あれ?お母さんはどさ行った?」 振り返る子供の視線の先に親はなし。 |
何百何千人の熱い視線が、一挙手一投足に注がれる晴れの舞台。 実際には雨の舞台になってしまったが。 |
休日を満喫する姿勢で一心に戦況を見守る。 毎日通えば、この足も真っ黒だべな。 |
「おらだもほのうぢ、主役になるいべが」 「ほのうぢんねくて、来年こそ主役になるんだず」 二人で叱咤しながら、戦況を見つめる。 |
選手より父兄の方が緊張する試合。 親は首筋から背中で、子供へ気持ちを伝える。 |
男の背中は広告塔。 |
暑くてダレダレの夏。 若者よ、こんなに熱くなれることありますか? |
また、雨脚が強くなってきた。 でも、父兄の傘は動じない。 |
敗者になった瞬間、高校最後の夏が終わりを告げる。 でも、きっととても大きな財産を勝ち得た。 |
敗者と勝者が整列して一礼。 ああ、なんという美しい光景。 |
勝者は胸を張り校歌斉唱。 選手たちはこの一瞬のために練習に励んできた。 高校野球が美化されることに洗脳されてはいけないという人々がいる。 でも、私は洗脳され続けたい。 |
野球は選手だけのものではないと思う一瞬。 応援の人々と選手が熱い絆で結ばれているのを目の当たりにすると、 また目頭が熱くなる。 |
「おまえ真面目にやれず」 「おまえこそ俺さトンボの動きば合わせろず」 二人はとても仲が良い。 |
「・・・・だべ」 「んだず・・・・・」 二人のひそひそ話が聞こえなくても、山商のエンブレムが誇らしい。 それだけで充分。 |
傘は閉じられ、試合前のシートノックが始まった。 応援団は胸の高鳴りを押さえつつ時を待つ。 |
「いいケッツしったなぁ」 「野球選手の素質はケッツのでかさで決まっからね」 でも、股に挟まれたメガホンは窮屈そうだ。 |
「太っとい筆文字だずねぇ」 「力強さば感じっべ」 「いや、応援団の強い熱意ば感じる」 |
湿気を含んだ風が、山商の校章をなぶってゆく。 校章は弱々しい湿気など気にしない風情で胸を張る。 |
まだまだ2回戦だから、応援団が多いわけじゃない。 回が進むにつれて席はどんどん埋まってくるだろうし、熱気もどんどんうなぎ登りになるだろう。 |
「山商、山商、山商!・・・・・・・」 「なんだて力入ってずねぇ」 「んでも、俺チラッと思うんだげんと、あの校歌さ千歳山て文言があっべ? あれどうなんだべ?んだて千歳山の麓からとっくに移転して離っでしまたどれは」 |
「新庄も負げんなぁ!あれ?新産てどごだ?」 新庄工業や新庄農業には愛着があった世代だっす。 |
傘の内側に他人が入る余地はない。 |
火蓋が切られた。 また物語が一つ作られるということだ。 |
「やっぱりお辞儀ていいずねぇ」 帽子を取ればいがぐり頭。 |
「なんだべ99回なんだどれはぁ!」 ということは来年100回。 記念に何が特別なことがあるんだろうか。 |
金管楽器の中からも応援の声が響く。 |
♪雲は湧き、光溢れず、となってしまった今日だが、 ♪天高く純白の球今日ぞ飛ぶ、に間違いはないと全身でトロンボーンが言っている。 |
こんな姿にもグッとくる私は変? こんな光景はテレビで映されないが、映されないところでドラマは繰り広げられているんだ。 |
この後、山商VS新庄神室産業は、雨の中断を挟んで激闘を演じることになる。 |
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