◆[山形市]十文字 蒸した盆地の底を彷徨う(2017平成29年7月2日撮影)

橋の向こうは風間。村山高瀬川が、東(高瀬方面)から西(青柳方面)へ流れている。
青い放物線が十文字への入り口。

チョロチョロではなく、ジョロジョロと結構勢いよく流れるせせらぎ。
十文字は平坦な村だと思っていたが、結構傾斜のある地区なのかも知れない。
朝から晩まで、その音を聞かされる看板も辛い。

「だーれも座てけね。」
「その座面ば見っど、やっぱり躊躇すんまなぁ」
「ほだごどやねで休んでいげずぁ」
老いたベンチは、人に座られたらその重みに耐えられるのか心配になる。

湿気が顔や首回りに執拗にまとわりついてくる。
アスファルトを歩む足取りが重い。
「かっぱの頭なの干からびっだべぇ」と道の先を眺め毒づきながら、
まだスタートしたばっかりの自分に活を入れる。

「禁フンならぬ金粉なら地面に置き土産してってもいいんだべが」
つまらないことをつぶやきながら、色を失ったような壁をじっと見る。

十文字は高瀬川や立谷川の扇状地上に出来た村のはず。
だから水田や池などは無いはず。
そんな先入観があったものだから、この水面を見てびっくらこいた。

蓮の葉っぱの上には、水滴がまあるい模様を造り、小さな虫がうごめいている。

アメンボがどろんと流れの無い水面をスイスーイと走り回る。

ぬめりのあるような水面を、オタマジャクシが蛙になるまでのわずかばかりの期間を過ごしている。

湿度の異常に高い盆地の底で、蔓はわずかばかりの風に悠々と揺れている。

「暑くて木さおっかがったのがぁ」
周りじゅうでユリが誘っているというのに、その体格では身動きもできないのだろう。

「堅っだい牙で威嚇しったみだいだどれ」
満を持して咲く時を待つひまわり。

村を覆い尽くす緑は水分を十分に含んでいるようだ。
この蒸し風呂のような状態も、まだ始まったばかり。
これからの長い夏を遠い目で見ようとするが、陽炎が邪魔しているようだ。

もちろん人通りなどまったくない。
でも、このあたりが十文字の中心街らしい。
のどかな空気の中に寂しさも入り交じっているようだ。

「おまえだは元気だずねぇ。この暑いどぎになしてほだいパリッと咲いでいるいのや?」

トタン壁の側に咲く花は辛い。
晴れた日などまともに反射光を受けて、なんとも思わないのだろうか。

「キケンの文字がおどろおどろしいずねぇ」
さび付いたドラム缶が、でーんと井戸を塞いでいるのも、何か曰くありげに感じてしまう。

ひしゃげた体で果樹畑に突っ伏している。
目だけは異様にぎらつき、果樹を見守っているようだ。

自分の勢力範囲を広げるように、
かぼちゃの蔓が地面をノタノタ這っている。

シャスターデージーが蒸し風呂のような大気に清涼感を与えている。
なるほど花言葉は乙女心だし、名前の由来はカリフォルニアにあるシャスタ山の真っ白い雪なんだど。

「キターッ、やっぱり咲いだがタチアオイ」
この下品な花が咲くと夏がキターッと強く感じる。
いきなり下品な花といって申し訳ない。
「んだて、咲き方がビロビロだし、色に上品さがないし、造花みだいだし、便所の脇辺りさ咲いでるし・・・」
ここまでいえば、さぞかしタチアオイも傷つくことだろう。

十文字の天満宮。
こんな立派な神社が存在していたとは心の底から驚いた。

鐘楼も年代を感じさせるものの、立派に立ち上がっている。
いかに地域の人々の心に染みこんでいる存在かが分かる。
境内はじめっとしているものの、周りより明らかに2〜3度低いと感じる。
「境内さ入て、すーっと体が軽くなた気がしたもの」

本殿脇では、木漏れ日の薄明かりに揺れる絵馬が涼しげ。

「こ、これは腹の断面図だが?」
「し、しかも脂肪の付きすぎた自分の腹みだいだ」
神聖な境内の中で、飽食した結果の自分の腹の断面を彷彿するとは思わなかった。

ブランコ下の水たまりだけが一際明るい。その周りは暗さの中に沈んでいる。

どうしても鐘楼に上ってみたくなった。
よくこんな重い梵鐘を吊して立ち上がっているものだと、
老いた骨組みに感心しつつ、十文字の村を眺める。

「おまえは新しい命だが?」
切り株の中からキョロキョロと辺りに目を配る小さな葉っぱ。

手水舎の中は干上がっている。
その中にぶら下がっているステンレスのコップが力ない。
しかもコップの中身は落ち葉だし・・・。

「十文字の人々はなんだてユニークだずねぇ」
「これは干しったんだが?捨てだんだが?」
なんとも笑えるゴミ集積所。

「ゴミ置き場ばよっくど観察したら、ちっちゃな車が違法駐車しったどら」
「なんだておもしゃい十文字」

神社脇の社務所付近から青臭さが漂ってくる。
その正体は栗の木。
木の内懐に入り込んでみる。むせる匂いと栗の花。

端正な光景に突然出会う。
凍ったアクエリアスに何回も口を付けながら、だらけていたとき。

「しょうがないずねぇ。おまえば主役にして撮ってけるっだな」
タチアオイは相変わらず見た目通りに図々しい。

塀から飛び出し、空中を漂っている。
「わがたずぁ。悶々てはぁ、暇と勢力ば持てあましてるんだべ?」

「ありゃりゃ、萎んでだどれはぁ」
確かに山形ではサクランボは買うものではなく貰うもの。
しかも、食べきれないほど近所から貰うので、見向きもしなくなっている。
「あどいいはー、なて贅沢なごどゆてんのっだなねぇ」山形人は。

「結構水量が豊富なんだどれ」
この時期、扇状地の川はみんな涸れ川になる。
その目の先に見えるのは大森山か?

何しぇめっだのやと聞きたいが、かなりの距離がある。
「ほだんどごさいんなぁ!こっちゃ来い!」
子供たちに怒鳴っているおじさんの声が響いている。
ああ、やっぱりごしゃがっだが。
やっぱり梅雨時の川は危ないものな。
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