◆[山形市]椹沢 梅雨の舌先にじり寄る(2017平成29年6月10日撮影)

ドドドーッと水を吐き出しながら、ガムテープを体中に貼って踏ん張るパイプ。

防火水そう看板は、自分の色を禿げさせながら背中の錆びた看板を太陽から守っている。

「ほだんどごから顔出して、すんごぐ重だいレイでもぶら下げっだみだいだどれ」
「ありゃあ?もう一本なの、タイヤの内側さ伸びで、つっかえてはぁ、なにしたらいいが分がんねくてだどれはぁ」

「ほだい錆びで、いざというどぎ大丈夫なんだべねぇ」
「心配すんな。人が言うほど俺はヤワじゃない」
赤い塊に強い意志を感じさせる消火栓。

街中では失われた昭和の看板が、田舎へ行けば生き残っている。

暑くも寒くもないこの時期に、こんな通りを歩ける幸せ。

「どうでもいいげんと、早ぐ出してけろー」
網の中のゴミたちは、網にへばりついて外をうかがう。

ミラーの中の世界は、反転した世界を移し込む。

時折、雲間から日差しがサーッと降りてくる。
あたりは生き返り、その中を軽快なエンジン音の郵便配達バイクが走り去る。

夕霧草のモワモワの向こうで、赤い鳥居が手招きしている。

空はまだ青く、日差しも降ってくる。
しかし、予報では間もなく雨。
しかも、日本の半分は梅雨に入った。
じわじわと梅雨の舌先が山形ににじりよっている。

車がすれ違うのも不可能な細い参道の両側には、
草花が今を盛りに神社参拝をお出迎え。

参道を通り抜け、境内に入る。
一瞬で空気が変わるのを感じる。

おばちゃんは一心不乱に畑仕事。
その音以外には何も聞こえない、深閑とした境内の中。

「おっ、神社の主か?」
少しずつ歩みを進め近づいてみる。ほんの数メートルまで近づいたのに逃げる素振りもない。
一瞬怪我でもしているんだろうかと心配になるほどだ。
結局、鷹?は私を無害な親爺と判断したから逃げなかったのに違いない。

神社から突きだした田んぼの中で、祠が二本の杉に守られている。
そこだけが違う空気をまとっているようだ。

木々の隙間から日差しは容赦なく地面に突き刺さる。
それをジーッと見守っているのは、誰も遊びに来ないために退屈な遊具たち。

上椹沢児童遊園地は、児童がいないのを良いことに、水たまりが幅をきかせて空を写しこんでいた。

ペンキの色も鮮やかなブランコ。
その背後には煤けたトタンが佇み、脇から銀杏が親のようなまなざしを向けている。

湿気を含んだ空気が淀んでいる。
人はどうしても狭い空間に入り込んでみたがるものだ。

「名前はなんていうんだっけぇ?」
「名前も覚えていね人さ名前なの教しぇらんねげんと、一応バーベナ」
結局、教えたくて知ってもらいたくて仕方が無かったようだ。

磨りガラスの向こうには、違う世界が垣間見える。

「帰んのがぁ」
神社を一回りして帰ろうとすると、小さな声が聞こえた。
指先ほどの紫の花が、黄色い雄しべを立てながら語りかけてくる。

「愛嬌ある格好だずねぇ」
「ほだな人の勝手だべ。そういうおまえはずさま臭い格好だずねぇ」
「おまえだは人んねどれ」
いつまでも突っかかれそうなので、やり過ごして通り過ぎることにした。

公民館前の木のベンチが寂しげだ。
まさに人にポイ捨てされたように。

空へ覆い被さるほどに咲き誇るバラ。
車も家も小さく見えてくる。

「なして立ち入り禁止ばっかりパリッとして元気なんだ?」
「トタン板なのヨレヨレだどれ」
立場の違いは如何ともしがたい。

「お茶でも飲んでいがっしゃい」
ある会社の前を通ったら声を掛けられた。
「休日出勤だがっす?」と問う。
「花の手入れさんなねがら」
休日出勤という言葉のイメージが変わった。

360度田んぼだけ。
真冬だったらバスを待つのがとても辛いことだろう。

さっき訪れた神社が田んぼの中に浮いている。
一塊の深緑色の杜が、神の存在を知らしめているようだ。

人の良さそうな雰囲気をまとった看板が、雲の中に浮かんでいる。
突然強い風が田んぼを吹き渡り、看板はギーッといいながら風にあらがっている。

椹沢から北へ移動する。
いよいよ雲が勢力を増し、カントリーエレベーターに引っかかりそうだ。
遠くに見える山形の市街や奥羽の山並みは生気を失ったように沈んでいる。

時折吹く強い風に、植えられてから間もない苗が翻弄されている。

苗のみんなが同じ方向を向いているのは自分の意思じゃない。
強い風に虐げられて耐えているのだ。
そんな田んぼの向こうに、市役所や県庁など市の主要なビル群が見える。
この町も梅雨入りまでの秒読みに入った。
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