◆[山形市]八日町・鉄砲町 宝光院・六椹八幡様の春(2017平成29年4月2日撮影)

「うずくまてねで、出でこいはぁ。」
「いやー寝だ寝だ。誰だぁ声かげんの?」
山形の春ってこんなもん。
花や木の芽が開く直前は、なんか埃っぽくてカチャカチャしてる。

乾燥した空気が止まっている。
冷気と暖気がその中で微かにせめぎ合っている。

「寝癖ついた髪の毛みだいだどれぇ」
去年の名残は一冬固まっていた。

鉄砲町は家並みがびっしりと建っているようで、路地に入れば畑が顔を出したりする。
そんな畑には梅の木がポツポツと花を咲かせて佇んでいたりする。

「雑草だよぅ。ほだい勢いよぐ伸びでくんなずぅ。もっくらがえっどれぇ」
鉄柵は地面の胎動に狼狽えている。

「ほごの錆びだ看板さん、どごの子供町内会なのや?何にも案内してねどれ。」
「案内なのすっごどないっだず。子供なの滅多に見がげねもはぁ」
さぞや看板も退屈なことだろう。

懐かしの歩道橋から見下ろしてみる。
「ところでこの歩道橋は大丈夫?んだて俺が小学校五年生んどぎ出来だんだじぇ」
「歩道橋は五十歳もなんべなはぁ」

春休みのためか西高から若い声は聞こえてこない。
農作業の音だけがヒンヤリした空気を震わせる。

「なにしろこごの道路は西高・中央高・日大山形高て、いっぱいの生徒が通っからねぇ」

この美しい目は、決して「えっ!!どれにしようか!!」と自販機で迷っている目じゃない。
「綺麗な目ばみせでもらて、ありがどさま〜」

由緒正しい宝光院。
「なに?詳しく知りたい?んだごんたらネットで自分で調べでけろ。とにかく由緒正しいんだがら」

本堂の裏手にそーっと回ってみた。
おそらく一般の方々が入り込むことはなかなかないだろう。
街の真ん中に異空間がひっそりと重々しく存在していた。

「宝光院の梅は有名で、梅ば某のし梅屋さんさ卸したものよぅ」
そんなことを父が懐かしげに言っていたのを思い出す。

いまや異空間をのぞき込むように、八日町のマンション群が立ち並ぶ。

「花びらが開いっだらなぁ」
少しばかりガッカリしながら宝光院を後にする。

「ほだい拒んでばっかりいねで、少しは心ば開いだら?」
頑なさは冬の寒さとともに凍り付き、春を迎えようとしているのに、何事も寄せ付けない空気。

「まだ寒いべぇ」
「んだずぅ、干さっでも体が凍えんのよぅ」
タオルは体をゴワゴワしながら微風に震える。

子供の頃、この小径を通るときはいつも心がときめいた。
小径の先は六椹八幡様。
八幡様にはいつも何かが待っていたから。

「あのぅ、別にケッツ撮るつもりんねんだげんとも・・・」
真下からカメラで狙うなんて、きっと嫌らしいおんちゃんだと思われてしまったに違いない。
「おんちゃんはただ嬉しくて撮ったんだずぅ。んだて今時木さ登る子供なて滅多に見ねどれや」

雲が切れ始め、光が六椹の杜に注ぎ始める。
おじさんはまぶしげに梢の先を見上げながら、ゆっっくりと乾いた地面を歩いていく。

「オラの出番はとっくに終わたっだなねぇ」
春の光を受けて、パラパラと崩れてしまいそうな去年のあじさい。

「ほんとは近寄ってみっだいんだべ?」
「ほごさあるサンダル履いできてみろ」
猫はバガクサイと言わんばかりにそっぽを向いてしまった。

なにやら探しているような少年を発見。
春休みで退屈になっど必ず近所の子は何かがあるかも知れないと、八幡様に足を運んでしまう。

「一冬頑張て、くたびっだべはぁ」
石ころの上で落ち葉を掴みかけながら、手袋は影を伸ばして仰向けに寝そべっている。

おばちゃんと猫の絡み合う視線がはっきり見える。

「頭隠さず、尻も隠さずだべぇ」

「隠っでだどごは、どだな格好なんだ?」

「今年は酉年だて、みんなそろそろ忘っでだっけべ」

八幡様の社務所。
鳩が向かい合っている。つまり向かい鳩。
八幡様の「八」の字っだなぁ。んねっけがぁ。
鳩の校章が自慢の六小卒なのに、曖昧な記憶。

「一目見てなんだが分がた人は自転車通」
「んだのよ。置き去りにされた自転車の篭さ溜まった落ち葉なのよぅ」
篭の編み目が落ち葉に格子模様を付けている春。
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