◆[山形市]落合・市スポーツセンター 春の槌音(2017平成29年3月12日撮影)

巨大な照明灯が雲に突き刺さる。
落合の新市営球場もいよいよ完成間近。

6月にオープンと聞いたが、こけら落としの試合はなんだろう。
早くあの球場に入ってスタンドに登りたい。
あの位置関係からすると、おそらく内野席からは山形市内が馬見ヶ崎の向こうに遠望できるはず。

コマーシャルなどにもしょっちゅう使われる、市スポーツセンターの名物通路。

春の槌音が響くかと思いきや、今日は日曜日。
静かな敷地には隣のテニスコートから、
若い声とともに、選手を叱るコーチのだみ声が響いてくる。

「やんだ、すっだぐないなて思わねんだべずねぇ」
体育会系の子供たちはたいしたもんだ。

「誰がの頭さボール落どしてけっかど思てっべ。」
「ほだごど邪推するほうが恥ずがしいべぇ」
中年親爺は何を見ても、その猜疑心で判断してしまう。

「がんばれぇ、ネットば運ぶのも練習のうぢだぁ」
こんな色褪せた、ありきたりな言葉しか思い浮かばない自分を呪いたくなる。

ザグッと地面に食い込み、眠りに就いていた土を覚醒させる。

「山形の冬ば満遍なく体中さ浴びだんだなぁ」
「体中カチャカチャになったどれは」

ありゃ、真上から覗いたら目と目が合ってしまった。

数oの小さな花が土手に群れている。
土手の向こうには市スポーツセンターの照明塔が群れている。

「終わりっだなぁ」
「んだぁ。終わりだぁ」
大根たちは空を見上げながら、深くため息をついている。

「あだい直立してよぅ、くたびんねんだべが?」
大根たちは照明灯を眺め、自分たちの一冬の仕事を終えた虚脱感に浸りながらつぶやいている。

地面にぺしゃんこ。

「何ゆだいの?」
「何ゆだいが、剥がさっで忘っだはぁ」

落合は、とにかく空に伸びているものが多い。
照明灯しかり、長靴しかり。

ふと自分の中の悪魔の声が囁いた。
「誰も見でね。少しならいがんべ」
蕗味噌の香りが鼻腔を通り過ぎたような気がした。
あちこちから顔を出す蕗の薹は、人の心を乱してしまう。

大通りに出て、大野目方面を見る。
ダンプがすぐ脇で風を巻き起こして走り去る。

市営球場も完成間近。そしてヨークベニマルも完成間近。
落合には春の槌音が充ち満ちている。

「春なたら誰だて、走り回っだぐなるっだず」
大人は恥ずかしくて、さすがに走り回らないが、気持ちは浮き立っているはず。

このガラス面が新市営球場の売りなのかもしれない。
早く、あの内側に入りたい。

落ち葉が消え去る頃、市営球場からは歓声が響き渡り、
私もその歓声の中にいることを今から楽しみにしている。
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