◆[山形市]平清水 三月の端へ指先かかる (2017平成29年2月25日撮影)

二ヶ月も早く平泉寺に来てしまった。
あの名物桜の老木は、寒風に梢を震わせているだけ。

しょうが無いので近くに緑を探し、
八つ手のテラテラの肌を背景に平泉寺を撮る。


境内に入って空を見上げる。
額には日差しが張り付くけれど、冷たい風が引きはがして一目散に流れ去る。

壁の凸凹をくっきりと浮かび上がらせる春先の太陽光。

「なにしたらいいがもわがんね」
「オラだの目的てなんだ?」
「ほだなごど知ってだら、こだんどごで立ちんぼしてねべ」
「あー、何がさたづいで生ぎっだい」
絡まるチェーンにがんじがらめの人生さ。

「右下に恥川ってあっげんと、何が恥かいだんだべが?」
「昔、娘がこの川ばまたぐどぎ、裾がめくれっけがら恥ずかしいんだっけど」
平清水から西北方面(山形の街)方面を見る。

ポンプ小屋は全身に煤をかぶっているような色合いで、
孤高の姿を寒風に晒している。

太陽が顔を出せば、のっぺりとした表情が、
途端に立体的に活き活きと浮き立つのが分かる。

「カジカがぁ・・・」
平清水は陶芸の里であるとともに、カジカの里なんだと初めて知った。

「目ぇ回るぅ〜」
ペットボトルは飲み干されたら切り刻まれ、カラカラと回される。
なんとも数奇な一生だと思ったが、考えてみれば回収されて何度も生き返ってるんだな。

「ブグブグぅ、ぐるじぃ〜」
水たまりに落ちてしまった柏の葉っぱは、苦しげに息を吐いてもがこうとする。
それが何日前のことだったのか、そのままの姿で凍っている。

ぽたぽたぽたぽたと見上げる顔に滴が落ちる。
首をぐいっとねじ曲げようやっと取り終え、その場を立ち去る。
バシャッと地面に弾ける音がして振り返ると、あの屋根には雪が無くなっていた。

風は静穏。林の中の空気たちはひとときの静寂に浸っている。

雪の重みか風のいたずらか、しなりにしなった竹が丸いトンネルをこしらえた。

この戸神山の山容にすぐピンとくるなら平清水人。

イヌノフグリが太陽と対面する斜面で花開いている。
遂に三月へ指先がかかったと、改めてじんわりと心を温めながら感じる。

「ゾンビなのんねがらねぇ」
「ほのザンバラ髪なんとがならねのがぁ」
春が近いというのに、どうしたらいいか分からない畑の大根。

「いづまで私から抱っこさっでるんだず」
「ほだごどやねでぇ」
赤い落ち葉は、地面へ還ることを受け入れたくない。

長い竹垣を過ぎて、しばらく上り坂を行けば松山へ抜ける。
千歳山の麓散策にはもってこいのコース。

雪の消長を見れば、春がじわじわ近づいているのは明らか。
雪は薄っぺらでしなしなになり、畑は少しずつ乾いてくる。

あの日だまりからは、子供たちの笑い声が聞こえそう。
そんな日だまりへ首を突っ込みたいが、親爺が近づいた途端あたりの空気が冷えでしまうべな。

大日堂の入り口。
木立から一筋刺した光を受けて、目をぱっちり開いた猫が虚空を見つめる。

小さな池は今だに真冬の風情。
でも、差し込む光が池の濁りと混ざり合って、ふんわりとした色合いが漂っている。

ぐいっと伸びる竹は、トタンへギザギザの影を従え、
「腐っても鯛」いや、「切られても竹!」と勢い込んでいる。

「そうとう熱っづい風呂なんだべなぁ」
「体ヒリヒリしそうだぁ」
その熱気で早く山形へ春を!
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