◆[山形市]教育資料館・工業高・東高 春はやっぱり遠かった (2017平成29年2月11日撮影)

今回は高校巡りだ。
手始めに北高の敷地にある教育資料館を訪れる。

立派な建物が凜とした空気をまとっている。
もちろん訪れる人もなく、敷地内の新雪に足跡を付けるのも気持ちいい。

「おいおい、今日は休館日だ。勝手に入ってくんな」
笹は横柄な態度で葉っぱをブハラブハラと振ってくる。
誰もこないので相当退屈していたらしい。

時折吹いてくる風は痛いほどに頬をなぶってくる。
枝もざわめきながら必死に寒さに耐えている。

冬の天気は猫の目のようだ。
真っ黒い雲が空を覆ったかと思えば、時たま薄日が差してくる。
山形人を飴と鞭でもて遊んでいるようだ。

「寒風を防ぐにしても、もうちょっとやり方があっべ?」
校舎のドアを見て、北高は乙女の学校という想像が無残に崩れ去った。

「これから頑張っていられっかは、県の予算次第っだな」
教育資料館の門扉は、寒さに耐えながら不満の音をぎしぎしたてている。

「この真冬に、雪かきんねくて砂利かきすっどは思わねっけぇ」
雪も砂利も、始末に負えない重さかな。

「ちぇっと櫛で揃えでもらたらなんたよ」
木の枝に声を掛けても、ざんばら枝を揺らすだけ。

「でっかなベッキの目玉みだいだなぁ」
シートをかぶったバイクのミラーは、キラリと光の反射でいいねの合図を送ってくる。

山形の街角だからこその光景。
「もちろんオレも貼ってだがら」

「ありゃりゃりゃ〜!工業高の校舎がないどれは〜」
工業高の校舎があったはずの空間には、雪がまんべんなく舞っている。

敷地に入っちゃいけないという心に、入りたいという心が勝ってしまった。
案の定、ごしゃがれた。
還暦になった今日、いきなり年下の人間にごしゃがれて、気持ちは折れ気味。

「ほだい筋肉隆々なんだごんたら、その熱気で雪ば溶がしてけろ」

益々雪は勢いを強め、工業高のあった敷地は夢の跡。

お薬師さまの方を見ても、雪が邪魔して見通せない。

「ムーミンだが?」
「んね。ただの雪親爺だ」
「退屈んねが?」
「退屈てなんだ?」
この雪親爺は、自分の一生が短いことを体が知っている。

ばらばら雪が舞っているのに日も差してくる。
「いったいなんなんだず〜、この天気はよぅ」
ワイパーはごしゃぎながら空に指を立てる。

「ほだい迫てくんなず」
ちりとりは腰が引けている。
雪をかぶったネットは、体が重くてちりとりに雪を払ってくれとお願いしてる。

「東高って、こだい立派な校舎なんだっけがぁ」
青空が急速に広がってゆくなか、建物たちは東高の誇りを高らかに歌い上げる。

「こだなどごさ立だせらっで、恥ずがしいったらよぅ」
「長髪だがら、ごしゃがっだのんねがよ」
東高の正面玄関に立たされたモップたち。

青空へ枝を伸ばす樹木の下。
新しい命がプルプルと小さな力で雪を払っている。

テニスコートのモップ?は、ようやく晴れた空を見上げ、深呼吸をして力を蓄える。

「インターハイがぁ、懐かしいなぁ」
そうなんです。昭和47年の山形インターハイ開会式で、私は鳩飛ばしの係でした。
あのあかねヶ丘の競技場もあっという間に解体されてしまった。

「さっきまでのあの狂ったように降っていた雪はどこさ消えた?」
図書館前をとぼとぼ歩きながら、あまりの空の早変わりに気持ちが追いついていけずにいる。

三島神社の手水舎の竜。
口から水を吐く事も忘れ、ただ黙って寒気にさらされている。

手水舎の水は凍っていた。
その水面の氷をそっと持ち上げてみる。
光を満面に浴びて、あえなく地面に落ちる。というか、冷たすぎて手を離してしまった。
「バヂ当だっべが」

教育資料館へ再び戻ってくる。
来るのを拒むように雪が再び激しく降り始めた。
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