◆[山形市]松栄・沼木異形の街に初夏来たる(2016平成28年4月23日撮影)

空の縁に絵の具を塗ったように、平面的な竜山が柔らかく輝いている。

いきなりいつもと違う光景を撮ってゴメン。
この辺りは松栄という真新しい街。
山形盆地の一番窪んだ地域、須川っぺりの吹きさらしの場所に30年ほど前からビルがボコボロ建ち始めた。
ちなみにこれは県立産業技術短大の学生会館。そして右にチラッと見えるのが職業能力開発校。

「朝の日差しが眩しいんだずぅ」
審判用のベンチは、朝日を真正面からまともに浴びて隠れる場所もない。

背後の樹木がフェンスを乗り越え、ビローンとテニスコートに影を伸ばす朝7時。

「体が暖かくなて気持ちいい〜。これじゃ益々眠たぐなっべな。」
片栗粉を混ぜたようなトロリとした朝日に包まれる学生の自転車たち。

若葉がビルの頭をナデナデしようと枝を伸ばす。
このビルは県看護協会。

窓に張り付いた青空の前で、若葉たちがなんとも映える。

南沼原小から沼木までは、なんにもない吹きさらしだった。
それが松栄という名前を与えられ、そして次々とビルが建ち、田園風景に似つかわしくない異形の街が出来上がった。

県の施設が次々と建つものだから、民間の企業もそれを追うように建ち始めた。
当然今まで見かけなかったトラックも増え、沿道の草花を揺らして走り去る。

すっかり花びらも散り、恥ずかしげに若葉が光を浴びている。
なんとも今年の春はせっかちで早い。

土曜日の朝は車もなく、のどかな空気が安心しきって漂っている。

生まれたての若葉の向こうに県産業創造支援センターが見える。

「ありゃま、なんだべこの祠は・・・」
ふと樹林の隙間を覗くと、小さな祠がじいっとこちらを見つめている。

松栄の街並みを覆っているのは松の木じゃなくて、萌えるような若葉たち。

これまた私のポリシーに反する被写体だが、とりあえず県産業創造支援センターを撮っておく。
異形の街になってしまった証拠として。

松栄の街をよくよく見てみれば、あちこちにオブジェが佇み、遠い目をしながら初夏の大気を見つめている。

虫達の視線で見れば、鬱蒼とした森に違いない。
人間の視線で見れば、ちょっと踏んづければなくなってしまう小さな一角。

避難場所案内図は、葉っぱたちの影でまだら模様になっている。
地図をよく見ればわかるが、道路の計画がいかにハチャメチャだったことか。
ヨークから西に伸びる道は須川を越え、富神山へ至る。
そのヨークから南西にクニャッと曲がる道もあるが、それは長谷堂に至る道。
ところがどっこい、須川に遮られてそのまんま。
松栄の街なかも、広い道が突然狭くなっていたり、意味のないカーブの道があったりと、
ヘンテコな道がいたるところにある。

地図好きな私は日夜、グーグルマップを眺めながら、間違って造られた道路を探しまわっている。
ここに提示はしないが、山形市内にはそんな間違い道路がいっぱいあるんですよ〜。

南館から富神山方面へ伸びる道路を挟んで南側が松栄で北側は沼木。
沼木側はほぼ光景が昔から変わらない。

ニュースにもなった悪名高い切り株通り。
どうせなら切り株を歩いている人たちの一休みベンチにしたらどうだろう。

よっくど眺めてみると、なんともスッパリ切られた面に陽光が降り注ぐ。

「春ずぁ、土ばいじる季節っだなねぇ」
「腰さえ痛ぐないごんたら、土いじりは最高っだなぁ」

「なんだべ。青空さ生える根っこみだいだべ!」
「よっくど見でみろ。ちゃんと若葉が吹出し始めっだがら」

切り株通りは車の往来も増えている。
ダンプなの通ろうものなら、果樹のか細い枝なのゆっさゆっさと翻弄される。

なんどもいうが南沼原小学校でさえ、田んぼの中にポツンと建っていた。
いまじゃ沼木まで家並みの途切れることもない。

野菜直売の旗がパタパタとはためく。
その向こう、須川の橋の上を車が数多く走る。
「今日は土曜日だがら西公園さでも行ぐんだべが」

「あど沢山だずぁ」
「んだて、誰からも彼からも菜の花ば貰うもんだがら、毎日食卓は菜の花のおひたしなんだものぉ」
スーパーで菜の花を買うのは街の人ばかり。

「こだなどごさ百均!」

眠っていた大地が我先にと活動を始める前向きな季節が始まった。

午前中は晴れているとの天気予報を信じて良かった。
やっぱり草花は青空に映えるからねぇ。

まだ空中へ飛ぶ気持ちになれないのか、じっとカメラを見つめてくるたんぽぽ。
その向こうではビニールハウスへ反射する光が輪っかを作って並んでる。

松栄にビルが建つのとは対照的に、沼木側は静かそのもの。
たんぽぽも悠々と光を浴びることができる。

県立産業技術短大の入り口を新入生が期待と不安で通る季節。
今日は土曜日だから静かだけれど、花びらたちはこの時間を逃すなとばかりにワサワサと咲き競う。

芽吹いたばかりの葉へ、太陽は自分の力を誇示するように光をまっすぐぶつけてくる。

思えば工業技術センターが原っぱの真ん中にポツンと建ったのが、松栄地区のはじまりだった。
すでに建物は古色蒼然とした雰囲気を醸し出している。

県立産業技術短大のキャンパスに足を踏み入れる。
広い敷地に学生はいない。学生の居ぬ間にチューリップはグイーンと伸びをする。

太陽の光は花びらを通過するほど強すぎる。

県立産業技術短大の校舎が影とともに静かに沈む中、
チューリップは勢いが止まらないとばかりに太陽を仰ぐ。
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