◆[山形市]旅籠町・木の実町・桜町 オブジェのある町(2016平成28年3月19日撮影)

街はオブジェに満ちている。
もしかしてオブジェの質が町の民度を図る尺度になるのかもしれない。

「おっきな口開いでっから、石ころなの入れられるんだべず。」
「フガフガ、ほだなつもりで口開いっだのんね」
タイヤの見る空を雲が急いで流れてゆく。

「あたしだてほんとは綺麗なオブジェなんだじぇ」
ゴミ投げ場に立って烏除けにされている風車は、プライドを傷つけられて回ろうともしない。

「そろそろいがんべはぁ」
「なにが?」
「なにがて、早ぐほどいでけろずはぁ。窮屈でわがらね」
藁にくるまれた体はギシギシと音を立てて広がりたがっている。

なんぼ曇り空で肌寒くても、町の中であろうとも、地面を見れば春は着実に目覚めつつある。

「そろそろお役御免だべはぁ」
「今年はあんまり活躍の場がないっけべ?」
「おらだの立場からすれば、今年はちょっと不完全燃焼だっけなぁ」

町を縫うように流れる堰を伝って、春風が流れ込んでくるようだ。

「なえだてねぇ。この辺はすっかり変わってしまたもねはぁ」
「んだずぅ。変わらねのはおらだだげっだなぁ」
広くなった道路に立ち止まり、昔日の思いを語る言葉は暖かい。

旅籠町四辻を通るたびに、あの木は残るんだろうかと気になった方は多いはず。
周りの家屋はすっかり立ち退き、ぬうっと姿を現した木が気になって仕方がない。

「何も春だがらて、お前も起き上がる必要はないんだじぇ」
「んねず、勝手にへがさっだんだず」
そんなボヤキを車たちがかき消して走り去る。

「あらぁ、こだんどごさ堰流っでるなてしゃねっけ」
街は家屋が消えると、裏側に隠されていた昭和が顔を出す。

「なんだてごじゃごじゃだずねぇ」
街が生まれ変わるときはこんなもの。
工事は粛々と、そして着実に進み変貌を遂げていく。

「なんにもないからかえって目立ってしまう。
主はいるのかいないのか、塀を見つめる自転車よ。

左に曲がれば一小という辺りまで家屋は立ち退いている。
この栄町通りが駅前まで広がれば、周辺は劇的に車の流れも、人の流れも変わるはず。

バスを待つ間にも、春は1ミリずつ近づいたり遠のいたりしながら街の様子を窺っている。

「こんでもオブジェていうんだべが?」
「オブジェずぁなんだ?」
門柱にかぶせられた空き箱?は錆びを浮かせて興味なさそうにピクリともしない。

シンメトリーは人の目を引く。
どんな目的で建てられたものかも分からない木造と、背後の梅の木は左右に腕を広げたシンメトリー。

「ほれ、ちゃっちゃど歩げ。引がれっぞ」
渡る世間に鬼はなし。渡る横断歩道は危険ばりっだな。

この十字路はあまりにもくねっているので十字路といっていいのかすら分からない。
こんな姿も城下町の名残なのだろう。

「6月に咲けばいいのに、早くて開いっだのがぁ?」
アジサイの準備は早い。ちょっとでも暖かければあっという間に青い葉っぱが膨らんでくる。

びっしり張り紙の前で、ぎっつぐ手を握る。

車や自転車や通行人がじっくり眺めていくことは少ない。
それでもその存在にはみんな気づいている。
そんな街への溶け込み具合がオブジェには必要なんだろう。

「ほっだい誰さ愛嬌振りまいっだのや?」
「冬は冬さ、春は春さっだなぁ」
「ほだな八方美人だべず」

豊烈神社の手水舎は、しっかり感のあるオブジェといえなくもない。
やはり歴史を経た形は品があり美しい。

手水舎の美しさに魅かれ近づいてみる。
水面を覆うように被せられた金網には水滴が連なってぶら下がる。
これこそ小さなオブジェの集合体。

「俺もオブジェんねんだが?」
真っ白なタオルはヒラヒラとひらめきながら聞いてくる。
「ん〜、なんだべねぇ。分からね」
いったい街並みのどこからどこまでがオブジェなんだぁ?

打球の儀式が行われないときは駐車場なのが豊烈神社の脇の敷地。
「あだいズラッと車が並んでいんのに、おかなぐないがよ?」
「いいんだぁ。ふちゅぶさっでも土さ還るだげだがら・・・」

「見ようによっては芸術だずねぇ」
ブランコの座面と鎖を繋ぐ金具は、なんとなく手作り感のある形。

この空間の空気感が好きだ。
なしてだべなんて考えなくてもいい。好きってことに理由はいらない。

「おまえだなのただ踏んづげられるだげなんだじぇ」
「いいべした、咲ぐだいんだも」
イヌノフグリは小さな花弁をプルプルと震わせるだけ。

「馬の尻尾だが?」
「子供だがぶら下がる遊具の先っぽっだな」
「なんだて薄汚いずねぇ」
「失礼だべ。子供だの汗が染みついでんだがら」
県立中央病院の跡地はガランとし過ぎて、寒風だけが吹き渡る。

「お昼だも一服さんなねっだなぁ」
工事のおじさんたちが車の中で自分だけの空間にホッとするお昼時。

「おらだばもオブジェてゆてけろ〜」
「おまえだなのただの土嚢だどれ」
オブジェは偉くて土嚢は偉くないのか。分からない。

視線の先は東大手門。
どう見ても桜はいつ咲くのか気になっているよう。
「よぐ、その格好で一冬耐えだなぁ」
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