◆[山形市]十日町 春霞の中へ(2016平成28年3月5日撮影)

今年の冬はかなりの弱気。
ビルの陰に隠れて黒ずんで縮こまる。

「冬の出口はこっちだべぇ」
すでに大半の冬は這う這うの体で逃げ出した。

なんとなく靄っとした街並み。
晴れているのに空は白茶っけて霞んでいる。

十日町は山形市の真ん中なのに昔の風情が色濃く残る。
いや、町の真ん中だから残ってしまったのか。

冬の間中電柱に絡まって、そのまま朽ちた。
葉っぱは手を触れればあっという間にカチャカチャと砕けて春風に浚われてしまう。

なんだか視線を感じてよっくど辺りを見れば、ちょこなんと隅っこにいた。

トタンの裏側から這い出した蔓は、一冬中養分をダラッと流し続けていたようだ。

車も通らないのに何故か幅の広い通り。
町の真ん中にぽっかり空いた昭和の空間。

「出番もないしねぇ」
「んだずねぇ退屈でわがらねぇ」
傘はぎっつぐ結ばれてこそと動いた気配もない。

「ほだんどごさいだら引がれっべな」
猫に魅かれる人は数多いが、猫が引かれることも心配したい。

「んだがらいいのよぅ」
「なんとなぐホッとすね?」
着飾らなくてもいい通り。気取らなくてもいい小路。

「おっぱいだが?」
「それにしては固そうだし、しかも乳首が力強くでかい」
「すぐそういうごどば想像してぇ、いやらしいったら」

車も通れないほどの小道では、安心して板塀から樹木が顔を出す。
こんな飾らない路にも春風が顔を出す。

「冬のせいで体がゴリゴリになたもはぁ」
樹木は青空へ伸びをして筋肉をキシキシいわせているようだ。

「さっきは鞘町ていう道標ば見つけだっけ。今度は材木町が」
「今の子供だは、なして材木公園なてゆうんだが分がらねべね」

「それ咲け、早ぐ咲け」
春の糸を少しでも早く手繰り寄せて早く咲いてほしい。

「なしてこだんどごさいるんだ?」
「しゃねっだな勝手にぶら下げらっだんだも」
どんな境遇でも土さえあれば生きていけると思っている雑草?たち。

茶色が支配する廃屋周辺。
この光景を味があるといえばいいのか、寂しさを感じればいいのか、自分の中で消化できない。

「釘も釘だげんと、棒も棒だずねぇ」
いったい何十年こんな格好でいたのか、お互いくたびれ果てているのに。

朽ちる植物にも家屋にも春風は平等。
何事もなかったように吹きわたってどこかの路地に消えてゆく。

「気持ちはすごく分がっげんとね」
この場合はチラシを入れられては体がもたないと錆びたポストが考えてのことかもしれない。

「ん〜メンタム」
「このフレーズが流行たっけのよ〜。」
「マンダムといえばチャールズブロンソンたなねぇ」

「銀色の側面がまぶしいごど〜。日本の丸十、いや世界の丸十だべ。」
我が家もいまや丸十のだし醤油なしには生きていけない。

「この辺は昔とちっとも変わらねねぇ」
山形市街のあちこちが都市計画で街並みが新しくなる中、
子供の視線の先の街並みは昔とな〜んにも変わらない。

「愛犬家の敷地なんだべが?」
どうみてもこげ茶の錆びは左向きの犬。
暖かくなって頭が緩くなってしまったから、そう見えるんだろうか。

キャッスルやその向こうのビルが工事中の囲いに反射する。
足元を注意せずに映り込む街並みに気を取られてしまった。

「気になて気になてしょうがない」
いったい何しゃべったんだべ。
いずれにしても深刻な会話じゃなさそうだ。

十日町って七日町と駅前のつなぎ役のような町になっている。
ただ通り過ぎる町になってはダメだと、異彩を放つ店が言っているようだ。

一瞬こごどごだと首をひねってしまった。
左側にコンビニなの出来ているし・・・。こごは前なんだっけ?

春のぬくもりをたっぷり含んだ壁は、
自転車にとってもスノーダンプにとっても居心地のいい場所なんだろう。

「これはシンメトリーの芸術だべ」
なんの店かは問題じゃない。この羽を広げたようなカーテンが芸術なんだから。

今日ばかりは冷たいはずの柱が温情を見せている。
その温情にすがる自転車が一二台。

「活躍しすぎでくたびっだんねがぁ」
額に傷を付けながら、肌はザラザラに乾燥しながら、それでも笑顔を見せる不憫さよ。

山形市が定番のスポットと位置付ける紅の蔵。
観光客用に造られた場所なのでとりあえず押さえておこう。

青空には梅の花びらがよく似合う。
その下に蔵があればもっといい。
いや、鶯がいればもっともっといい。
高望みはそれまで。

「なんだてワサワサいだんねがぁ」
ワサワサいるのは見物客。その客をワサワサせずにきちんと整列して迎えるひな壇の人形たち。

「安心してください。撮影許可とってますから」
いずめこ人形のようなめんごい子供を説得してピントを合わせる。
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