◆[山形市]富の中 隅をつついて春探し(2016平成28年2月26日撮影)

雲はすでに冬のものじゃない。
でも、まだ2月。果たして春はどこかに来てるんだろうか?
期待と不安を抱えつつ出掛けるとするか。

「雪なの日陰さしかないどりゃぁ」
今年の雪は弱かす。
目立たず降って、目立たず消えてゆく。

「のぼるなて書いであるんだが?」
確かに階段はぎっつぐ紐で結ばれて、ダメと強く言っている。
神社の鐘楼の下で。

ビニールハウスから柔らかい光が抜け出してくる。
その光はビジャビジャの地面で靴の足跡をくっきりとさせる。

年輪が侵食されている。
伐採されてからかなりの日にちが経つのだろう。
そんな隙間からも雑草はスイッと立ち上がる。

「構ねでおぐどこいになんのよ」
生命はそう簡単に絶えない。
口からはばげるように命は漏れ出てくる。

細かい筋はぴったりと張り付いて、中身を何かから守ろうとしているようだ。

ネットは植物に絡まれる前に日光浴。

腕をくねくね曲げて立ちはだかる樹木。
「ほだなつもりはない。おだぐが何者だどもて緊張しったんだ」
暖かい大気に包まれるまでは緊張を余儀なくされる樹木たち。

「あちっ、あちっ!」
「んだて水滴がレンズの役目ばして、ほごだげ熱いのよぅ」

探し求めていた春はいまだに固いまんま。
やっぱり二月に春を探すのは無理なのかと消沈する。

「いづまでも邪魔くさいったらぁ」
ブランコは迷惑気にボソッとつぶやく。
「青々としったころは、ほだごどやねっけのにぃ」
ヒマワリも聞こえないようにコソッとカチャカチャの葉を揺らす。

「魚眼レンズで撮ったのんねがら」
「ほんてんこいな形の公園なんだがら」

公園に水道は付き物。
冬の間に蛇口は固く閉ざされ、梃(てこ)でも動くかという表情。

「毛虫さ紐つないで飼ってだのが?」
蛇口の足元では二匹の束子(たわし)がじゃれあっている。

「雪も消えだし、誰が座てけっべな」
真っ赤なベンチは人肌を恋しがるように春を待つ。

けっしてイソギンチャクではありません。
公園の縁に張り付いていた芝桜です。
もしかして全身しもやけなのかも知れない。

犬川の流れの向こうに南ジャスコが見える。
山々はまだまだ青白く、大気は耳が痛くなるほどに冷たい。

同じ犬川の下流方向を見る。
ポカッと浮かんだ雲が水面にしばらく張り付いていた。

街中を抜け出し、畑地に入り込む。
地面を見ながら歩けばきっと小さな春は見つかるはずと、舐めるように辺りを見回す。
寒風が梢を揺らす音は、悲しげに泣いているようだ。

この辺はセリの一大産地らしい。
辺り一面セリだらけ。
寒風の中でセリ摘みは大変だべなぁ。水を制御する板も、寒さにクネクネと縮こまっている。

「おお、やっぱり春は確かに来てるんだなぁ」
小さなイヌノフグリに大きな感動さえ覚える。

犬川の畔からサワサワと乾いた音が流れてくる。
パリパリと折れそうな体は、これ以上風に逆らうのは得策じゃないと知っていつつも無理に反り返る。

水路の先に白い竜山。
あの白さからみれば、まだまだ春は先なのか。

「冷たい空気ばなの、なんぼ掴んでも意味ないべぇ」
軍手は吹きっさらしの畑地でもたいして苦痛でないらしく、飄々と意味のないことを呟いている。

生気のない畑地に立ち、黒ずんだ向こうの工場を眺める。
待て待て。あと少し。ほんの少しで一気に春は燃え上がるから。

流れゆく雲は寒気をたっぷり含んでいるらしい。
アルミ缶など冷たくてとても触る気になれない。

仰向けになった長靴は踵がすり減り、そして鳥の糞までかけられている。
「まったく踏んだり蹴ったりだずね」

「なんだが勢いば感じるんだげんと」
「ほだなごどゆたて枯草だじぇ」
勢いのまんま枯れてしまったんだべなと、疲れ気味の工場の壁面は思っている。

「空き缶捨てるな、て誰さゆてんのや。空しくないが?」
少なくとも撮影していた間に人の通った気配はまったくなかった。

ボタッと落ちてしまったものの、腐っても鯛とばかりに凛と立つ。

セリの時期は終わったのか、水面には近くの看板が我が物顔で映り込む。

畑をぐるっと巡ったが、目ぼしい春は見つからなかった。
仕方ないべとあきらめ顔で、町へ足を向ける。

「春なのとっくに来ったべず。どごさ目つけでんのや?」
小さな梅の木をよく見れば、幾つもの花弁がちっちゃな春をポツポツと灯している。
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