◆[山形市]蔵王温泉 快晴の小路散策(2016平成28年2月12日撮影)

この青空に引っ張られるように蔵王に来てしまった。
スキーも出来ないくせに。

あまりの快晴に、板に張りついた雪は粉雪ならぬシャーベット。

木に群がるカラスのように雪原を舞う。

「オマエも樹氷になっだいっけが?」
ドラム缶はかろうじて雪の面に息を吐きながら横を向いて黙っている。

神社から温泉街へ降りる石段は雪まみれ。
「今からこごば降りんの?遠回りした方がいいぐないが?」
注連縄が忠告してくれ、悪い予感を抱きつつ雪の石段へ一歩を踏み出す。

「なんて石段だ!ふーっ」
二度転げ二度ともカメラが雪まみれ。
自分の体よりカメラを心配するなんて、我ながらどうかしてる。

神社麓の水車も雪まみれ。
空を見上げれば蒼空にジェット機が白い線を描いている。

旅館の軒下を覗き込む。
ツララから滴った水滴がキロキロに固まって盛り上がる。

「この先さお寺さんがあるはずだげんと・・・」
自分の体力じゃ無理と勇気ある決断を下しながらも心残り。

「こだんどごば手作業でなのしったら、明日歩がんねぐなんもはぁ」
確かにおじさんの言うとおり。
「屋根のひさしから雪が虎視眈々と下ば狙ってから気ぃつけでな」

雪の回廊にスイッと入り込む光。
快晴だと体の芯まで光が入り込むようで気持ちいい。

ミラーは身動きできない。
そんなミラーを樹木の影がそろりそろりと撫でている。

温泉街に平坦な道や、まっすぐの道は皆無。
だからこそ複雑でおもしろい街並みが形成される。

ツェンツェンとか細い線が延びる。
折れそうで折れない微妙なバランス。

「頭の帽子が落ぢそうだどれはぁ」
「今年の帽子はちっちゃくてねぇ」
例年なら帽子どころか、雪の穴蔵に埋まっていたのかもしれない。

手前の除雪された雪がうずたかく積もって、蔵王の街並みが半分隠されている。
しかもさっきの転倒で、またまたカメラに雪が付いたらしく、水滴が街並みを歪ませている。

この小路感が堪らない。
くねった道と雑多な雰囲気。

「オレはスキーさんねがら分がらねげんと、スキーするには美容室も選ばんなねんだが?」

「ヘトヘトっだず」
シャベルは多くをしゃべらず寄りかかる。

「町で保存された恐竜のレプリカだどもった」
「なーんだ消火栓だどれ」
凍り付かないように守られているのかもしれない町の命綱。

「今だげだま」
「何が?」
「前の景色が見えんのはよぅ」
確かに窓からすれば前の木が邪魔で、今の季節しか景色を楽しめないのだろう。

「なんだて真新しい看板」
路地には生活臭が染みついているけれど、看板だけは常に新調するらしい。

「イオウ臭のする川ば覗き込むなて、どういう了見や?」
「おだぐは慣れでいねべげんと、オラだはイオウで育たんだじぇ」

色褪せた植木鉢と色鮮やかな幟。
色が強すぎると、自己主張が強すぎるみたいだなぁ。

「よっくど見れば先っぽはちっちゃな植木鉢んね?」
なんとも粋なことをする。遊び心は大事だし。でも植木鉢はどう思う?

好天は飛沫に力を与える。
バシャバシャと板に落ちる水滴は、力余って飛び跳ねる。

ムワッと臭うイオウ臭。
光を溜め込み蔵王の空へ漂い散る。

演歌の世界が垣間見える。
演歌に小路と雪はよく似合う。

「何、汗ダラダラてぇ」
「んだべず天敵の太陽がまぶしすぎるんだも」
ツララはどんどん細くなり、ダイエットの必要性も感じられない。

「何がのからくり仕掛けが?」
「これでも温泉のために一生懸命働いでるんだがら」
タンクは味わいのある肌の色を太陽に見せつける。

「なんぼ塗ってもだめよぅ」
「人間ならヒビケアだどが、ひび割れに効ぐ薬もあっげんとなぁ」
赤さびを晒しながら欄干はじっと耐えている。

温泉街で一番力を入れているのは誘客。それに並ぶのが火事と落雪なんだべなぁ。

チェーンはすり減って、タイヤにはヒビが入る。
過酷な除雪は雪国の宿命か。

「体冷えねが?」
「大丈夫。雪の着物ばまとったもの」
男山はキチンと整列してみじろぎもしない。

歓声に振り向く。
箸が転げても面白い世代は、お湯に触れても面白いようだ。

「やんだー、指がつるつるなるみだい」
やんだという言葉は、今や「嫌だ」じゃなくて「おもしろい」という意味に変化しつつある。

雪は自然に落ちる前に降ろさなくてはならない。
真っ赤な自販機は知らん顔。

目の前に上り坂の小路が現れる。
青い空へ近づくように歩みを進めるしかないべ。

軒先でツララの弱り具合を確かめようとした。
頭や首筋にポタポタと滴が落ちて、やばついごとこの上ない。

「ありゃ、こさもいだどれ赤恐竜のレプリカ」
「ビニールさ入てっど暖かいべぇ」
「なにゆてんの、いざというときのために緊張ば強いられでんだがら」

「今日スキーしてる人は満足感でいっぱいだべなぁ」
焦げ茶色になった板塀は、まぶしげな表情でぽつりと言う。

何か地鳴りのような音が背後で響く。
振り向いたら屋根の雪が根こそぎ落ちていた。
おー、やっぱり落雪注意。

「雪国の家って、絶対南の国の家より頑丈だずね」
この重みに耐えるのは並大抵じゃない。
やっぱり忍耐力=雪国なんだべがなぁ。

白と青にサンドイッチされた温泉街。

「仲いいんねがい」
絡みつきすぎて離れなくなった樹木は、腐れ縁と諦める?

蔵王は日々進化している。
でも進化の中に昔ながらの家屋を見つけ安堵する。

「ムリムリ、滑るのムリ」
「テッちゃん・・・大丈夫だがら・・・」
テッちゃんは受験生だったのかもしれない。
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