◆[山形市]六椹八幡神社 豆まき(2016平成28年2月3日撮影)

夕方近くになり、雲間からオレンジ色の冬の日差しがパーッと八幡様に広がる。

祈祷の受付に訪れる人が引きも切らない。
窓や戸は開け放しなので、なんぼぼんぼん暖房しても焼け石に水。いや、大寒気に小さなろうそく?

「もっとほっつだべ」
「んねっだべ、こっちだべ」
灯りの位置を微妙に調整するたびに、狛犬の表情も微妙に変化する。

今日最後の光が御神酒を照らす。
御神酒はそれに答えるようにオレンジに輝き返す。

「お茶どうぞ」
「そしてションベすっだぐなたら、トイレへどうぞ」
寒いときの準備は万端だ。

男は背中で語る。
男は背中にあったかい湯気を当て寒さをしのぐ。

いよいよ八幡様の森が夕闇に包まれ始めた。
それでも今日だけはいつもの静寂が訪れるのはもうちょっと先。

「おっきな顔の目玉みだいだねぇ」
雪の中の目玉二つは微かにチロチロ揺れ動く。

「どいずいいんだべなぁ」
「えんみくじはちょっと早いべがなぁ」
豆まきまでのひととき、リュックを豆でいっぱいにする気の少年が佇む。

太陽はとうに白鷹の山並みの影に消え、でっかいぼんぼりが闇に這い回る枝に囲まれる。

まだまだ子供たちは集まってこない。
早く来てしまった子供はとりあえず雪と戯れる。

薄暗くなっても、まっ黄っ黄の短冊に協賛者の名前がクッキリと映える。

「早ぐ始まらねがなぁ」
絵馬を眺めて見飽きた少年が走り去る。

現代に於いてはたき火に当たるという体験すら子供たちはしたことがない。
せめてかがり火に当たって、火の暖かさと危険さを体験して欲しい。

半径数メートルの暖。
それでもかじかんだ体には嬉しい。

あまりの熱さに網目が体をくねらせる。
その隙間から灰がザザッと落ちる。

「飲むが?」
「うん」
寒すぎて会話も極端に短くなってしまう。

「うーっ、寒い。近くてだめだぁ」
寒いとなぜこんなにトイレが近くなるのかとブツブツつぶやきなら、
簡易トイレのドアを開けて再び会場へ。

空を闇が覆い始めた。灯りに照らされた枝が闇の中に浮かび上がる。
人々がぼちぼち集まり始めている。

灯りは枝葉を浮かび上がらせるだけではなく、
足跡でデコデコになった雪の地面に斑模様を造っている。

かがり火の煙がぼわんと空中に浮かび上がるとき、
人々が吐く白い息は儚く闇に消える。

影を外側に広げながら、かがり火に集う。

「なんて読むんだ?」
漢字だらけの難解な文字に寒さを忘れて興味湧く。

その時をじっと待つ。
「ご祈祷が終わったら始まっからよぅ」
「靴だもこごえっだどれはぁ」

「準備運動すっべ」
「寒くてやんだぁ」
「寒がらするんだべず」

遂にステージに豆まき人が揃った。
豆拾い人たちも今か今かとステージをじっと睨んでいる。

壇上と雪上とで、視線がバチバチ交わされる緊張と興奮の時がそこまで来ている。

粉雪が舞ってきた。
「頼むがら豆がボクんどごさ来てけろ」
もはや寒さなど感じず、視線は枡の豆に集中する。

遂に放たれた。
豆は突然放り出されて、自分の身に何が起こったか分からない。

闇夜に手が伸びる。
六椹の杜の枝が何事かと覗き込む。

「格好いいおんちゃーん、こっちこっちぃ」
子供たちはありったけの声で叫びながら袋を掲げる。

鬼が狼藉を働いている。
いや、実はあっちこっちで子供たちに叩かれたり蹴られたりしている。

一触即発の緊張が走る。
鬼と子供は火花を散らしてちょっと笑いながらにらめっこ。

神主さんも寒い中で大変。
豆をまく手が腱鞘炎にならないか?

「なんぼ溜また?」
「それっぽっちがぁ」
豆まきも終わり、お互いの戦果を確認しあう。

「落とし物〜!」
「モンテの手袋落とした人いねがぁ」
みんな頑張りすぎて、手袋が雪原に落ちていたのは一つや二つじゃなかった。

今度は景品交換に群がる。
とにかく大根が飛ぶように人々に手渡される。

さっきまでの喧噪がウソだったように、あっという間に熱気が去った。
紅白幕や協賛の短冊は寒さから逃れるように、早々と仕舞われる。
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