◆[山形市]西蔵王・神尾 雪の際(2015平成27年12月9日撮影)

快晴になれば人は山に登りたくなる。
芸工大から三本木線を少しばかり登って山形盆地を見下ろしてみた。

快晴ということは放射冷却現象でかなり冷えたことだろう。
ふと手すりを見るとびっしり霜が付いている。

ようやく三本木沼の畔へ出た。
林の中で何かが輝いている。
それは萎れた雑草にくっついた霜たちの大合唱だった。

静まりかえる湖面に、冬の凍てついた、いや凍てつきそうもない日差しが降り注ぐ。
「三本木沼ったら、山形市民には忘れらんね響きがあっずね」
「んだて、必ず学校の遠足で行ったべぇ。オラぁ、あの頃ば思い出すど切なぐなんもなぁ」
三本木沼は山形市民に子供の頃を思い出させる不可思議な沼。

「おおっ!久しぶりに来たげんと、何ともすんばらすいなぁ」
感嘆の声を上げながら、自然に足が最先端の手すりへ向かう。

「こだい美しい孤峰も珍しいべぇ。おそらく仙台の人が山形のこの光景ば見っどたまげっど思うよ」
「んだて仙台さこだい美しい山なのないもの」
何故か仙台の人へ自慢げに言いたくなるのは、仙台への密かな山形人のコンプレックスに他ならない?

「こだなはず無いんだげんとなぁ」
確かにこの時期に真っ白くない光景は、山形人にとって不思議以外の何物でもない。

次から次へと人が訪れる。
みんなおそらく天気に誘われて西蔵王に来に違いない。
だって、山形定番の見晴らしスポットだもの。
本気で山形盆地を見下ろしたいなら、悠想の丘あたりでお茶を濁しちゃいけない。

絶景を堪能し、次は神尾の集落を探索だ。
輝く竜山を見ながら快晴に感謝する。

西蔵王といえば言わずと知れたテレビ塔。
そういえば昔は西蔵王を見上げると、夜には横長に一本のイルミネーションが長々と見えた。今は昔。

12月9日現在市内に雪はまったくない。
そんな市内からは西蔵王まで雪の迫っているのが見える。
丁度、西蔵王が雪の際(きわ)になっているので、そんな雪の先端を見に行こうというのが今回の趣旨。
「ホントは雪なの降らねで欲しいんだげんと、降らねど降らねで何故か不安になんのよねぇ」

竜山は遠きにありて望むもの。といつも思ってませんか?
であればということで、せっかくだから竜山の一番てっぺんにググッと迫ってみました。

テレビ塔がすぐ近くに見える街並みってそうそうない。
みんな野草園へ行ってしまうだろうが、どっこいすぐ隣の神尾の集落を歩くのも悪くない。

「雪だはくたびっで、みなビニールからすべり落っでだどれはぁ」
暖かそうだなとのぞいて見たビニールハウスの縁でこちらをじっと見ていたのは、
ずらっと並んだ小さな雪の塊たちだった。

太陽は時として樹木に偉大な力を与える。
力を貰った樹木は、その力を誇示するために壁へ自分を映し込む。

まだまだ雪に勢いはない。
でろらーっと滑り台で伸びた雪は、だらんと伸ばした犬の舌のよう。

雨樋から勢いよく落ちてくる雪解け水。
地面でぱぱっと弾けて、車輪は顔を濡らして迷惑そう。

キラキラという言葉は、こんなときに使うものだと改めて知った。
揺らめく光は誰に見てもらうこともないのに、宝石以上にまぶしい。

太陽へ立ち向かうようにゴンドラが上がってゆく。
雨の日は雲へ向かうように、吹雪の日は・・・。止そう、とにかく天気が良くて良かった。

歴史に疎い自分が情けない。
そんな自分に関係なく、彫られた文字がくっきりと浮かび上がってくる日差し。

スギッ葉を踏みながら神社の境内へそっと足を踏み入れる。
遙か上空から寒気の降りてくるのはまだ先か。

黒い森と白い雪に挟まれて枯れススキ。

種子がすこしでも遠くへ飛ぶように、細いからだが耐えに耐えて天空を目指す。

「竜山ば、なでなで〜」
「ほっだなちちゃこな箒で掃いでも、竜山の雪なの掃がらねっだず」

「隆々て力強ぐ筋が浮き上がったどれはぁ」
竜山から見守られて育った高原野菜はさぞ旨いことだろう。

こんなにボコボコ頭が突き出ていると、大地の力を感じずにいられない。

テレビ塔と白菜群をパキッと映し出す太陽の力。

「なんだがむつこいったらぁ」
「オレの事なら心配すんな。地面さだんだんと埋もれでいぐのが楽しみなんだがら」
けっして負け惜しみでもない廃車の言葉。

「オレも年しょたんだがなぁ。タイヤがボンネットさ乗ってでもごしゃげねも」
タイヤはパンパンに膨らんで寝そべり、廃車は心静かに成り行きに任せている。

「ドバーッてまき散らしてもったいないったらぁ」
「えん罪だずぅ。オラまき散らしていねもの」
一輪車は無罪を訴えるが、ニンジンも大根も知らん顔。

「こっちゃ向がてくんなねぇ。おかないったらぁ」
きっと冬への準備に忙しいのだろう。鉈は相手にもしてくれず、ただ睨み付けてくる。

裸のビニールハウスは、白い地面へあばら骨で曲線を幾重にも描く。

なんと清冽な流れ。といっても分かりづらいだろうが、
触れればキーンとなりそうな冷たいせせらぎに水草が揺れている。

太陽は生き物たちの望みを叶える力も持っていた。
パンダ似の遊具は、雪の上ではしゃぎたかったに違いないだろうから。

「いづがあの山さ登てみっだいずね」
「おらぁ、くたびれんのやんだぁ」
「ほだごどゆてっからモデねんだべず」
「オマエど一緒だごんたら登てもいいげんと・・・」
ブランコたちは竜山を眺めながら、遠回しに好きだと言い合っている。
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