◆[山形市]キャンドルスケープin やまがた(2015平成27年7月4日撮影)

この頃やけに夕焼けが綺麗だ。
日没を過ぎると、だんだんおどろおどろしい雲色になるけれど。(7月2日撮影)

曇天の、しかも土曜日。
山形一の官庁街は閑散としているが、市役所前の一角だけは、なにやら騒がしい。

茶!なんと力強い文字。
まさにこれは「ちゃ〜」じゃなくて「ちゃっ!」だな。

吊された紅花が、棘をむき出しにして通行人を眺めている。
頭に血が上ったかのように、花びらは真っ赤なトサカを立てている。

「おんちゃん、こいづすぐ破げるんだげんと・・・。粗悪品なのんねんだが?」
「破げんのが当たり前の遊びなのっだず」

紅花に浴衣。なんと風情のある光景。

この短冊を描いた人は、きっと日本人から無作為に抽出した、ごくごく当たり前の真っ当な人だな。きっと。

今日の紅花は日陰の脇役。
七夕飾りに群がっている人々を無言で見守るしかない。

「願い事書がねのが?」
「ほっだなもの、メールで送ったほうが早いっだな」
若者はなんでもスマホに頼る。

「もっと高いどごさぶら下げでぇ」
子供の声が父親を後押しする。
「それこそ高望みだべぇ」
曇天の空の向こうへ願い事届け。

「すぐ隣がビルの壁っていうのも、山形らしぐ中途半端でいいべ」
「ほだなごどやねで、どうすっどいいが考えらんねなべず。
たとえば、壁はボルダリングするいぐすっどが・・・

「山形さも地縛霊いるんだずね」
「なにゆてんの、自撮棒だず」
「地鶏棒て、鳥ば追っかげる棒が?」
「んねず、自撮棒だず」

自分にハッキリとした意思があるわけでもないが、吸い込まれるように集まって御殿堰のたもとにみんなが佇んでしまう。
そういった雰囲気作りができれば街作りは大成功なんだべな。

賑わいを見せる整備された御殿堰の上流側で、ポツンと佇み怪しく一人咲く。

ポストがカメラを覗き込んで訴えている。
なんだと思ったら、盛んに看板を見てくれと急かしてくる。
「おお、すべて山形弁だどれ。いいごどだ」

夕暮れ近く、旭銀座に薄墨色の大気が入り込み、アチコチで電気が灯る頃。

誰も歩いていないのに、パタンパタンとメニューのページを風が開け閉めしている。

「味があっべぇ」
「んだら舐めでみろ」
「舐めたらベロ真っ黒ぐなる」

「旭銀座てゆたら、飛ぶ鳥ば落どす勢いだっけっだなぁ。」
「鳥なのカラスしかいねべした」
「そういう意味んねくてよぅ。このバス停なんか人がワサワサて並んでるんだっけがら」

こんな光景が山形にもあることを、喜ぶべきか。
山交バスはビルの隙間にサッと現れて、スッと走り去る。

「こごは医者通りてゆて、お医者さんばっかり並んでんだじぇ。俺も通ったもんだ」
「医者さ通うのが自慢か?」
確かに道ばたには錠剤の殻が落ちていた。

「この像ば見で、しゃねなてゆたら笑われっべな。山形人として」
「演劇教室で必ず見でるっだべ、県民会館の前庭だもの」

「う、やばついったら」と文翔館が言ったとか言わないとか。

「なにがあっど必ず玉コンだま」
「あれ?玉コンだど思たら、タマゴがメインだねっす」
姿形からして、玉コンに対抗できるのはタマゴしかない。

「じょうさいて読んだら、県外の人だべな」

「愛に灯を灯すてが。ウヒヒ」
ろうそくを垂らさずに、よだれを垂らして脇から見てしまった。

「撮らせでけろな」
「ういーっす」
せっかくポーズを取ってもらったものの、ピントはろうそくにぴったり合ってしまった。

6時30分の点灯開始からかなり時間が過ぎた。
それでも今の時期は明るくて、まだまだ灯火に勢いを感じられない。

「なして点がねの?」
「かっだいんだず」
近頃のライターは子供が点けずらくなってるからねぇ。

「蓋なて、一番最初に捨てられるものだべした。役に立っていがったなぁ」
そう言われると身も蓋もない。

市役所から対岸の駐車場を撮ってやっと気づいた。
「口ばパクパクのマークだっけのがぁ。なるほどJA」

人々が笑顔で集まり始め、七夕飾りは長い時間で疲れたのかだらりと垂れる。

市役所職員には、市民の心に灯をともす義務がある。と、こっそり草花の影から思う。

闇の中に音符が白く浮かび上がる。
こんな暗い場所でのマンドリン演奏は心に染みる。

夕焼けがページをめくったように、市役所のガラスに映り込む。

また今日も夕焼けが美しい。
空はやけになって、毎日夕焼けを届けているんじゃあるまいな。

人は何故か灯に惹かれる。
自分の顔が赤く染まっていることも忘れて見入るのは、頭の芯にも火が灯ってしまうから。

「じっと見つめていると吸い込まれてしまいそう」
「やげどすっべな」

火と水は、「水と油」の関係。
ということは水は火とも油とも仲が悪い。つまり油しっこだ。

夕暮れ時はなんとなく寂しくなるから、みんな灯りに集まってくるんだろうな。

空は濃い紫が支配し始めている。
市役所の一角には、か弱い灯りが切なげに瞬いている。

人々は立ち去りがたく、いつまでも火を灯す。

「バスが迎えに来たじゃあ」
それでも人々はバスに乗ろうとしない。バスは諦めて走り去る。

「そろそろ帰るはぁ。んだて腹減ってしょうないもの」
灯火は揺れ、あたりにコンサートの響きも満ちているが、腹が満ちていないので、後ろ髪引かれる思いで帰途につく。
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