◆[山形市]薬師祭り 慈雨に慌てる(2015平成27年5月9日撮影)

「せっかぐ来たんだがら、新しぐなた市営グランドば見てみっべ」
何の大会かは分からないが、初めて見た女子サッカーに食指が動き、コミカルな応援に笑顔が浮かぶ。

だらんと垂れるネット。グイッと上がる太もも。

花びらは水面を覗き込み、植木市帰りの人々は満足感を漂わせる上下対称模様。

「サトーのサトちゃんだっけが?」
洗いざらしのアロハが似合う。

相変わらずの賑わい。
けっして寂れない薬師祭りに、なぜか胸をなで下ろす。

路面が見えないほどの人並み。
これはもしかして去年の六魂祭依頼の人出じゃないか?

バナナの隙間から、どれを選ぼうかという人々のまなざしを感じる。

「お兄ちゃんたらぁ、すぐこれなんだがらぁ」
興奮気味に店先に集う少年たちは、将来の良き思い出を蓄積させる。

揚げられたドーナツがぽこぽこと白い器に落ちていく。
生まれたばかりのドーナツは、冷めないうちにお客さんの胃袋へ。

植木市なのに一番の行列は何故かドーナツへ。
行列は大人も子供も大半が女性。男性に別腹はなくても女性にはおっきな別腹という消化器官があるんだなぁ。

人はみんな仮面を被って生きている。
いやいやながら仕方なくの場合もあれば、人格を変えるために喜んで被るものもある。

山形人、さてスマホにこのまま集中していられるのか〜!

食べた−!やっぱりドンドン焼きに食らいつかずにはいられなかった山形人。

「めんごいサボテンだねぇ」
「んだねぇ。んでも棘あっからねぇ」
「おかあさんみだい?」

「綿飴なていらねも・・・」
女の子は呟きながら後ろ髪を引かれる思いでトボトボと立ち去った。

「やろべらはなにしったんだぁ?」
コンクリは一時的に子供たちの椅子に変わり、雑談のさざ波を聞いている。

思いっきり空へ若葉を広げたケヤキは、露店の波を真上から見下ろしている。

「こっちいいんねがよ」
「あっちの方が活ぎいいみだいだじぇ」
「やろこはきかねどごしゃぐだぐなっげんと、金魚はきかねくらいんねどなぁ」

捕らえられた金魚は、指の深い皺を見て何があったんだべと想像する。

定番のおばけ屋敷が定番の位置に陣どる安心感。

「どいずいいや?」
「あれかわいい」
網をくぐって暖かい会話が聞こえてくる。

高級で上品なレストランとは対極にあり、祭りのざわめきや昭和っぽさを楽しめる。

驚きだ。お化け屋敷に行列を作るのは女の子ばかり。
男は怖くて中に入れず、女の子は怖い物に興味津々。

「いまからどさ行ぐ?」
「別に」
別にというのはいつまでもここにとどまっていたいという意思表示だったりする。

生まれたばかりの若葉に、いろんな食べ物の匂いが染みつく初夏。

「ケッツさ根っこ生えだがぁ」
「根っこがケッツば誘ったの」

何十年も前からあるコンクリの遊具には、山形っ子の匂いが染みついている。

若葉からこぼれ落ちる新緑シャワーに気づいているのかいないのか。
「え?どうやって降りっか考えでっからそれどころじゃない?」

薬師祭りを境に、雑草がワサワサ萌えだして初夏へと向かう。

ろうそくの炎は消えても、信仰の炎は消えない。
硬貨に混じり花びらも添えられる薬師堂の隅。

純和風の敷地にハナミズキが白い花びらを広げる。
今では完全に根付き、違和感も無い。

「なんだて賑やかなごどなぁ」
タンポポはタネを吹き飛ばす風待ちをしながら、ざわめきにジーッと耳を傾ける。

瑞々しい空気が薬師堂を覆う。
人々の邪念や私利私欲さえも紅葉の若葉フィルターを通して澄んでしまう。

年を経るごとにひび割れの隙間が広がっていき、鉄錆も少しずつ浮いてくる薬師堂の手すり。
その隙間や錆へ、毎年芳しい匂いが染みこんでいく。

「どだい近づいだてダメだぁ。ふっふっふっ」
おばちゃんの不敵な笑いに子供は益々いきり立つ。

あれ?雨かと思ったら時間をおかずに雨脚が強くなる。
藤棚の下では雨宿りをしながら、それでも会話は止まらない。

藤棚が雨宿り場所では完全に雨滴を防ぐことは出来ない。
傘には雨がこぼれ落ち、ついでに藤の花びらもぺたりとくっつく。

雨脚が弱まったところで再び花を撮ろうと池の縁にしゃがみ込む。
傘の花が池の向こうを右往左往して咲いている。

「植木市んどぎは必ず雨降んもねぇ」
先日までは季節外れの暑さだった。
一雨降り、地面は一息ついた。
でも人々は年一度の植木市に興奮を押さえることも出来ず、馬見ヶ崎の歩道橋を渡ってゆく。
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