◆[山形市]高瀬 恋しい恋しい鯉のぼり(2015平成27年4月29日撮影)

「この空気ど青空ば待ってだっけのよぅ」
空気をスラスラ読む自分を、軽やかな足音が付いてくる。

「早くてこだい濃い緑がぁ」
まだ4月なのに、今年は五月晴れと薫風が一足早くやってきている。

「おらだばほったらがして農作業だずぁ」
主は冬じまいも忘れ、押せ押せの日程で農作業に追われているようだ。

古来、中国では美人にたとえられたハナカイドウ。
青空に美しいピンクが映えている。

春を迎えたばかりの村に、いきなり初夏が侵入し、松の影も濃さを増す。

「季節の移り変わりが早すぎで、ついでいがんね」
木枠の扉がぼやき、マルゼンサイダーの箱がひっくり返る初夏。

日一日と緑は濃さを増し、山肌は色彩をグングン変える。

「暑っづくて、日陰のほうがいいもはぁ」
地面に躍り出たばかりのヒメオドリコソウも、一部は日陰に逃げ出した。

「山がこいな色してんのは今だげだもな」
「ほんてん一瞬で変わっからねぇ」
山懐に抱かれた高瀬が、長い冬から息を吹き返した瞬間。

この間まで枯れ枝みたいだったのに、あっという間にモシャモシャ沸き立ってくる緑。

山間の向こうには、霞んだ葉山が見える。
そういえば車には一晩で粉みたいな物が積もっていたなぁ。

「何キョロキョロしったのや?そごの菜の花」
「あんまり急に暑ぐなたもんだがら、オラだが咲いでんのがタイムリーだがわがんねくてぇ」
産毛に覆われた山並みに目を配り、菜の花は自分たちの咲きどころが間違っていないと安心する。

「暑っづいがら、神明神社の日陰さ入っべ」
葉擦れの音に混じって、耕耘機の音がのんびりと流れてくる。
本当はのんびりなんかしていられないんだろうが。

空を切り裂くような十字の紋がと思ったら、まだまだ飛行機雲が増えてゆく。
この上空は、飛行機にとって渋滞を招くような混雑地域なんだべが。

いよいよ目的の高瀬川鯉のぼり悠々ランドへやってきた。(名前は勝手に付けました)
前回の撮影では鯉のぼりを見つけられず悶々としていた。
やっと辿りついたこの地を思いっきり楽しもう。

「おじさん、どご見でんの?こっち向いでコイ」
大口を開けて、鯉のぼりは体全体で手招きしている。

風が止むとあっという間に元気を失う。
人力ではなく、自然任せだからいいのだろう。

「お、風吹いできた」
あっという間に体は膨らみ、気持よさげに体をくねらせる。

「青空さ映える姿は、鯉のぼりがナンバーワンだべなぁ」
手をかざして空を見上げ、その悠然さにちっちゃな俗世間を忘れてしまう。

「河原さ降りで見るいのは珍しいんだど」
確かに河原の涼風を受けながら、真上に見ることが出来るのは迫力がある。

隙間から太陽がキラキラと光を注いでくる。
一気に来た夏に、自分の体があたふたしている。

「高瀬ていうど紅花だべげんとよ、これからは紅花と鯉のぼりの二本柱よぅ。
こだっぱいぶら下がてっどごは山形ではほだいないんだじぇ。
ホームページでもバンバンピーアールしてけらっしゃいなぁ」
「もちろんだっす。いままでしゃねっけ自分が恥ずがしいっす」

鯉のぼりは川の水の中に戻りたいと思うことがあるのだろうか?
影だけは一応水に浸かっているけれど。

川上から日差しに乗った薫風が吹き渡る。
鯉のぼりたちは水を得た魚のように乱舞する。

高瀬川の水しぶきは、とても鯉のぼりに届きそうにない。

川底に当たった水流は泡を次々生み出している。

泡が散乱しどこかへ消えてゆく。
川底の石ころへ、網目になった日差しがゆらゆらと絡みついている。

川底から見上げれば、鯉のぼりはクネクネと揺らぎながらスイスイ泳いでいる。

「ほりゃほりゃあ、靴も靴下もビジャビジャだどりゃあ」
「この天気だもの、ほっだなすぐ乾ぐべ」
絶好の行楽日和だから、家族は思い出づくりに一生懸命。

「なんだていっぱい泳いでると思たら、車のガラスの中さもいだまぁ」

ボンネットの上でも暑いといわずに泳いでいる。
ああ、鯉のぼり三昧の一日。

「そろそろ行がねがぁ。くたびっだぁ」
大の字になり、鯉のぼりを目で追いながら、体はぐったり?
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