◆[山形市]北山形 八ヶ郷堰の憂鬱(2015平成27年3月21日撮影)

薄雲が広がるものの、大気は安定して空気も心地よい。
遠くに霞む竜山も穏やかな表情を空に浮かべている。

立体駐車場の薄暗がりから外を見る。
外国人が笑顔で応じてくれた。

ボールは飛んでこず、ネットも吊されていない。
青い空に浮かぶ輪っかは退屈で退屈で、大欠伸しかでないようだ。

たけのこの里でもきのこの山でもない、ちゃんとした植物。
パンパンに膨らんで、今にもパチンと音を立てそうだ。

雪で掃がれたのか、子供たちの尻で掃がれたのか知らないが、
ペンキは掃がれ、板パンコもささくれ立っている。
「この陽気だがら、深呼吸してささくれば早ぐ治せよ」

水仙は咲く順番を密かに相談している。
ギッコンバッタンの音が早く咲けと鼓舞するようだ。

「助けでけろぅ」
「なんだべ、網目からハンドルだげ出して」
「一冬フェンスさたづいで我慢しったっけのよぅ」
「ゴメン、ちょっと急ぎの用が・・・」見て見ぬふりをしてこの場を後にする。

「ションベたっでだねぇ」
「こだんどごで行儀悪れねぇ」
「恥がしぐないんだべがねぇ」
誰にも愛される北山形駅前の小便小僧。

太陽の煌めきを、そのままションベに溜め込んで、キラキラと春の大気に放水する。

ホームを春風が吹き抜けていく。
行儀良く並んだ看板文字たちが、佇む人をなんとなく眺めている。

「おお、ざわ線の列車きたーっ」
「ん?ながなが発車すねなぁ」
山形の人々はみんな「ざわ線」と呼んでいたが、珍妙な名前。略してザワチンだな。

あんまりいつまでも発車しないものだから、竜山をバックに撮ってしまった。
ホントは発車したら、通路の反対側に移って、月山をバックに撮るつもりだったのに。

「おっ、一大事。んだて山交バスとイオンのバスがすれ違たんだじぇ」
「いちいちほだなごどで誰もごしゃがねっだず」
両車とも鍵盤のような歩道のペンキを踏んづけて、何事もなく走り去る。

春風に混じって遠ざかるイオンバス。
遙か遠くの月山に春はまだ遠い。

「ほだい引っ張たて無理だべ」
「んだて、こだんどごさいづまでもいっだぐないものぉ」
「気持はわがっげんともよ、無理すんなぁ」
春だもの自転車は、さぞかしどこかへ出かけてみたいことだろう。
一本のワイヤーはそれを拒んで自転車に自由を与えない。

「悪気はないんだげんともゴメン、撮ったっきゃあ」
車を修理する人は必死だ。
でも突きだした足を見て、滑稽さを感じてしまったんだもの。

「そりゃないべぇ」
街中を流れる山形五堰のひとつ八ヶ郷堰。
堰は七日町辺りを流れる一部だけを綺麗な見栄えにして、大半はこんな状態。

「日陰さいねで、道路ば走てきたら?」
「んだて誰も乗ってけねんだも」
乗る人がいての自転車。自力で走れないっていうのは辛いなぁ。

この場所には過去にも何回か来て撮っている。
雰囲気の良い場所には自然と足が向いてしまうんだなぁ。
コンクリートや石で固めて造った、済生館北側や文翔館北側、七日町の御殿堰よりよっぽど味わいがある。

首を痛いほど上に向けても青空だらけ。
おもわず深呼吸したくなる。

「春だじゃあ、おまえだもそろそろ終わりだべはぁ」
余計なお世話だと花びらに怒られる。

「なるほど、こいなカラス撃退法があるんだな」
目には目を。カラスにはカラスを。ゴミ集積場の上にプラプラ揺れるカラスの人形。

山形市内では珍しい石垣がずーっと続く通り。
啓蟄も過ぎ、少年たちが大勢湧き出てくる季節。

異様な形の大木が見下ろしてくる。
石垣の威圧感もタダならない。
でも、春の日差しで表情は若干柔和になっているようだ。

八ヶ郷堰はもしかして五堰の中で一番自然な形で残っているんじゃなかろうか。

水面ギリギリに寄って見る。
水面のキラキラが心地良い。

おっと水面に近づきすぎ。
おもわず昨年3月に馬見ヶ崎川へ落ちて、携帯やカメラが逝ってしまったことが頭をかすめる。

「ポカーンとしてんなず」
「このポカーンが大切な時間なんだべず」
ベンチは身じろぎもせず、地面にのたうつ樹木の影の中に身を埋めている。

皆川公園にこんもりとした丘が造られている。
まだ芽吹かない樹木は地面の暖かさを確かめるように、のっそりと丘の上を這う。

おそらくなんらかの理由があって切り倒されたのだろう。
でも、でも、でも、青いペンキは似合わない。
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