◆[山形市]泉町 ミニかまくら祭(2015平成27年2月8日撮影)

「おー、しったりゃぁ。小雨の予報だっけがら心配だっけのよぅ」
遙か竜山を望み、馬見ヶ崎の河原では泉町の方々が準備に励む。

「毎年恒例だものぉ。今年も見に行がんなねっだなぁ」
「去年は残念ながら中止だっけったんねがよ」
堤防に積み重なった雪の層がどこまでも続く。

夕空にささやかな祭りの雰囲気がシルエットを作っている。

泉町町内会の挨拶が始まった。
いよいよ灯を付ける時がやってきた。堤防に集まった人々は心の準備を始めている。

日の入り寸前に、太陽が微かに顔を出す。
薄いオレンジの光が川面を擦ってゆく。

文字からも泉町町内会の意気込みが伝わってくる。

いよいよ点灯開始。
人々は堤防へ降り立ち、思い思いに灯を付けてゆく。

「かいずはなれ。こいにろうそくからろうそくさ灯ば移していぐのよ」

堅い蕾もフッと膨らみそうな、日曜の夕暮れ。

風がほとんど無いというのも幸いした。
風防がなくても、炎は勝手に揺らいで大気を感じている。

「全部、点けるまで一時間はかがんべなぁ」
町内会の方が言っていた。
いったい何個のろうそくがあるんだろう?

いよいよ日が沈む頃、親子は一心不乱に灯火を灯す。

人々は黙々と点ける。
まるで何かを祈っているように、静かに真剣に。

「誕生日のケーキんねんだがらよ。吹いで消すなず。」
なんだかんだいいながら、みんな笑顔。

「ろうそくの芯が雪で濡れでしまうど、ながなが点かねくてよぅ」
「んでも、よぐこごまで立派な祭りになたもんだなぁ。脱帽だぁ」

大気の光が失われてゆき、徐々に小さな灯りが際立ってくる。

「バレンタインのチョコレート欲しいごんたら点けろぉ」
「ほだないらねぇ」
思春期の男子は心とは裏腹なことを言ってしまう。

竜山もぼんやりと霞んできた。
いよいよ灯火も佳境に入ってくる。

しばらく撮影を休み、玉コンをいただく。
寒ければ寒いほど熱い玉コンは旨い。

なんと玉コンはタダだがらねぇ。泉町町内会は太っ腹。

「んまいが?」
玉コンに味が染みこんでいくように、この子にも山形DNAが染みこんでいく。

「ほご鼻。口さ入れでけろ」
お母さんごめんなさい。あまりにもいい表情だったから載せてしまいました。

三々五々集まった人々は、堤防の上から小さな灯りの瞬きに見入っている。

雪像の中に仲良く並ぶ灯火。
お互いを愛おしむように見つめ合っている。

あとどれくらい保つかわからない命を燃やし、ほんの数センチの周りを照らし出す。

空は闇が支配し始めている。
寒気に敵うはずも無ないけれど、ろうそくは命尽き果てるまで周りに小さな熱を放っている。

「この祭りは被写体の宝庫だがらねぇ」
カメラマン垂涎の祭りなんだということを泉町の方々は自慢してもいい。

顔に照り返す灯りがなんだか柔らかい。

灯りの波は河原をどこまでも続き、二口橋方面へ伸びて揺らめく。

提灯は主役じゃないことを分かっているように大人しく並んでいる。
あくまでも今日はろうそくが主役。

湯気たっぷりの玉コンを差し出す。
おばさんも頂く人も、小さな幸せにひととき浸る。

玉コンで体を温め心を温め、浮かび上がった灯火にいつまでも見入る。

イズミミニカマクラマツリ。
もはやミニとはいえない盛大な祭りになっているよな気がする。

「これだげ準備すんのに何日もかがるんだがらぁ」
満足げに灯火を眺め、雨が降らなかった事を心底喜ぶ。

小さな温もりに、雪がチリチリと溶けてゆく。
ろうそくもあとわずかの命を静かに悟る。

そろそろ帰ろうかと、土手を降り灯りを見上げる。
提灯の明かりは、雪面を優しく撫でている。
TOP