◆[山形市]両所宮豆まき 寒気の中の熱気(2015平成27年2月3日撮影)

夕方近く、山形の街並みを眺める。
雲が地を這うように垂れ込め、竜山を擦っている。

両所宮の森は赤茶けているけれど、いつもとは違う喧噪に満ちている。

「なんだべずねぇ。紅白幕なの張ってぇ。」
電信柱の向こうは豆(ご褒美)を待つ人々で溢れかえっている。

「おらおら〜、神事も終わたしぃ、泣ぐ子はいねがぁ!」
「んねんね、豆ばぶぢまけてけっぞぅ」
「んねんね、豆さ当だてけっぞぅ」

「早ぐいぐべず」
「ちぇっと待ってけろ。長靴さちゃんと足が入らね」
意気込んでいる割には足下がおぼつかない。

社殿から鬼が去り、夕方近くの日差しが斜めに差し込む。

「みんな頭ば下げろぉ。邪念ば振り払てけっから」
この一瞬だけはしおらしく頭を垂れるが、心の中では捕らぬ豆の数算用。

「こだいおもしゃい被写体は滅多にないもな」
「んだねっす。みんな鬱憤ば晴らすみだいにして、感情ば爆発させっからねっす」

「ほりゃほりゃ、始また始またぁ」
このときばかりは何故か寒さが逃げてしまう。

「なして鬼から豆ば巻がれるんだぁ?」
「みんなの心の中の鬼ば追い払うためっだな」
優等生のような答えを思いついてしまったが、そんな考えは喧噪の中に掻き消されてしまった。

巻く側と巻かれる側が異常に近い。
映画ETのように指と指とがくっつきそうだ。

「ギブミーチョコレート!」
「戦後すぐなのんねんだがらよぅ」
言われてみれば、みんなの手は栄養が満ち足りて健康そうだ。

空に向かって手を伸ばすことなんて生活の中では滅多にない。
これはもしかしてだけど、仕組まれた健康法?

「押すなず!カメラが傾いでしまたどれはぁ」
まるで湯気が立ち上りそうな熱気。

「こだい取ったじぇ」
子供たちはお互いの豆の数を自慢しあい、優越感に浸る。

豆の袋に紙切れが入っていれば、それとお土産を交換できる。
あちこちで笑顔が溢れる瞬間。

大根などの野菜、トイレットペーパーやティッシュペーパーなど、プレゼントは生活必需品ばかりでありがたい。

「みんな何貰て喜んでるんだずぅ。おらぁ酒さえあっどいいげんとなぁ」
狸は鼻に笠を引っかけ、自分の世界に浸っている。

プレゼントを頂く列は引きも切らない。
そりゃそうだ。プレゼントは数え切れないほどの段ボール箱にわんさか。

豆まきが終わればあっという間にプレゼント交換所へ人々は移動し、
豆まきの行われた紅白幕のトラックには誰も目を向けない。

ぐちゃぐちゃの地面が山形らしい。
みんな足下に気をつけながら、プレゼントに一歩一歩近づいていく。

水たまりがあると、必ずいるんだ。こういう子供が。
そういう自分もそうだった。

子供たちの戦利品を取らせて貰う。
嗚呼、なんという小さな幸せ。

「こいっちゃ何入ったんだべ」
「大沼の包み紙だじぇ」
雪の上に並べた戦利品を一つ一つ検証してゆく子供たち。
この子たちは十一人でやってきたとのこと。
そして、お互いに欲しいものやダブった物を交換するんだそう。

「おんちゃん、ける」
「え?親さ渡せぇ」
「んだていらねも」
子供の手のひらは寒さのために真っ赤。
こんな子供からご縁をいただくなんて、大人として喜んでいいことなんだべが。

「ほれ、こごどあそごば折って、こうして畳むの」
豆まきの舞台はあっという間に撤収される。

手水舎の水は凍えるように冷たい。
今日ばかりは水の落ちる音に、人々の声が覆い被さっている。

神事も終わり、積み上げられた来賓用の椅子が、
近くの炎を反射してオレンジ色に輝いている。

自分たちが豆まきを楽しんだ後はカモにもご褒美。
なんと子供は心優しい。

「福は〜内、鬼は〜外、カモは〜池」
「あんまり着いでくっど鴨鍋だぞぅ」
あ、それは子供じゃなく自分の心の言葉。

大イベントが終わり、ホッと安堵の笑顔がこぼれる。

「どれ、あびゃーあびゃー、寒くてわがらね」
凍えたからだが両所会館に次々と吸い込まれてゆく。

再び両所宮を俯瞰する。
一段と街並みは青みを増し、テールランプが尾を引いてゆく。

今頃、子供たちは各家庭で豆まきをやっているのだろうか。
それとも今日のイベントの話に花が咲いているのだろうか。
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