◆[山形市]滝平 雲の上から(2014平成26年10月25日撮影)

反田橋を渡り大曽根小を過ぎて、霧の中を西へ走る。
山懐の滝平に着く頃には、太陽が顔を出し、眼下に霧が横たわる。

「春んねんだげんとねぇ」
タンポポは光をたっぷり溜め込んで灯っている。

午前十時を過ぎようというのに朝露は消えず、落ち葉を包み込みながら喜びの光を輝かせている。

こんなにスカッと晴れ上がったのは何日ぶりだろう。
これからはこんな天気が希少価値を持ってくる山形。

間もなく雪に埋もれるからこそ、こんな小春日和が愛おしい。

山形市内は霧の中で眠っているというのに、滝平のなんと明るく喜びに満ちて輝いている事よ。

まん丸に膨らんだ菊の花びらは、満を持してパチンと弾けるように咲きそうだ。

「おいおい、捕まえらっで地べたさ這うタコみだいだどら」
スパッと切り取られた断面を日差しが舐めるように照らしている。

どうせ虫食い状態になるんなら、人の顔みたいに食って欲しかった。
「んだずねぇ。ほいにでもすねど誰も見でけねもなぁ」
ぶつくさ言う葉っぱの背後では、日差しを浴びた草花が騒がしい。

日差しがキツくて思わず空を見上げてみる。
ススキの穂は節電するのも忘れて、思いっきり光を放つ。

「埋もれっだどれはぁ」
確かに屋根がなんぼ落ち葉を振り払っても、葉っぱは積もり、あらゆる植物が周りからジワジワと迫る。

「なして花びらの散った私だば撮るんだべ?」
「俺は偏屈だがらぁ、旬のものばり、一番いいどぎばり撮ってるカメラマンとは違うんだず」
花びらが散り、これからどうしようか思案する茎のもの悲しさも忘れがたい。

「夏草や、つわものどもが、夢心地」
まだまだ出番は回ってこないと、重機たちは夏草に囲まれるままに眠っている。

「おだぐは赤ぐなんのも、落ぢんのも早いずねぇ」
「何ゆてんの、暖かいのは今のうちだげ。いづまで青いまんまでいるつもりや」
一気に秋は深まっているが、枝の一つ一つを見れば、微妙に冬への準備に時間のズレがあるようだ。

街はうねる雲の下で夢の中。
竜山は雪を待つだけと静かに横たわり、送電線は直立不動で雲を見つめる。

「朝だ−!早ぐ起ぎろ−!」といいながら布団をめくるのは簡単。
でも、盆地の底に溜まった霧布団をそう簡単にめくる事はできない。

あちこちが黄色や赤に燃え上がっている。
白い花びらはホロホロと散り、丸っこい玉だけが残って秋の日を泳ぐ。

街の中でこれほど光を浴びることの出来る不動産物件はあるだろうか。
もはや南に面した斜面は光たちの遊び場と化している。

おそらく触れれば人肌くらいに柱や板は暖まっているのだろう。
柱にピリッと入ったひび割れにも、板の肌理(きめ)にも、生活の匂いが染みついている。

スカッと青い空に、グイグイと力でねじ込もうというトリトマの花。

消火栓の表示板と狐一巡り街道の看板は、さほど仲が良いとはいえない。
秋になれば、そんな二本を取り持つように蜘蛛が糸を張る。

「この辺は熊なの出ねんだべっす?」
「ほだな聞いだごどないなぁ」
ホッと胸をなで下ろし、ところで何しったんだっすと再び問いかけてみる。

バス停があるからには、この辺りが滝平の中心部なんだろう。
でも寂しいことに時刻表は空欄だらけ。

ペロペロめくれたポスター。
その隙間には秋色になりはじめた草木が映り込む。

「空ば飛んで来たんだが?!」
車は秋空を一直線に飛んできて、物置小屋へ突っ込んだ。
そう思わずにはいられないと、車の尻を覗き込む。

色を失い木の床に同化する葉っぱたち。
青い空にそよいでいた頃を懐かしむことすら、乾いた心には残っていないようだ。

一際バリバリの原色が蝶を誘い、光を吸い込む。

蜂たちにもこの上ない楽園なんだろう。
カメラを向けても知らんぷり。

「熊出たぁ!」
「ちゃんと服きったどれ。失礼だべおばちゃんさ」
芸工大付近にさえ熊が出る季節。動くものを見るとびっくりする。

滝平での撮影を終え、下界に降りてくる。
霧は大気に飲まれて消えつつある。遅い朝がやっと盆地の底にやってきた。

まだまだわだかまる霧をよそに、鉄塔は黒い線を際立たせている。
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