◆[天童市]天童紅花まつり・格知学舎 人間図鑑・植物図鑑(2014平成26年7月6日撮影) |
「ちゃっちゃどすねど、お客さんだワサワサて来んじゃあ」 「ほだごどな〜い〜。みな撮影会のモデル目当てなんだがらぁ」 天童紅花まつり会場の一角では、紅花まるめに余念が無い。 |
「早ぐ来ねど、モデルば、いや紅花ば見らんねぐなっぞー!」 笠はスピーカの代わりに静かにがなり立てている。 |
「隙間から青空が見えっどら」 「はえずぁんだげんと、虫喰っでかわいそうだなぁの一言がないのが」 紅花畑に三々五々集まってくる人々を漫然と眺める虫食い葉。 |
「なえだがしゃねげんと、騒がしいずねぇ」 チョウチョはいつもと違う雰囲気を察して、ハタハタと飛び去った。 |
「注意すっげんと、絶対モデルさんさは触れねでけろっす」 カメラ親爺たちは、もはや主催者のご挨拶もそっちのけで高ぶっている。 |
カメラ親爺の熱い視線を何気なく逸らしながらも緊張感が増し、あまりの暑さに不安感が増す。 |
カメラマンの狙い澄ました視線が、熱波となってモデルを襲う。 |
「笑顔がいいねいいねぇ、もうちょっと首をこっち向けてぇ」 いろんな所からいろんな注文が来ても、モデルさんは笑顔で応え続ける。 |
夢中になってシャッターを切る。 カメラが日差しで熱くなっているのも忘れて。 |
「主役はどっちなんだずぅ」 「オラだは今回は脇役、つまり引き立て役だもな」 紅花はちょっとだけ怒りながら、棘をスイッと伸ばす。 |
モデルさんも慣れてきたのか、カメラマンの怒濤の要求を難なく笑顔で躱すようになる。 きっとただのカボチャだと考えれば良いと思い始めたに違いない。 |
撮影会も佳境に入り、緊張が溶け始めて本来の笑顔が戻ってくる。 |
「まだまだ来んべがらよ、ワラワラてさんなねっだなぁ」 とにかく手を休めずに紅花をまるべないと間に合わない。 |
「棘あっから、素手でなの絶対でぎねもな」 もし紅花畑で転んでしまったら、全身傷だらけになってしまう。 |
カメラに囲まれるモデルさんを見ながら思う。 高瀬ではモデルさんは長靴を履いていたので、水虫が心配だった。 天童では素足なので、虫さされ対策は十分なんだろうか。 |
これ以上ない笑顔をカメラマンにプレゼントするという大盤振る舞い。 |
遠く月山も見えようかという天童の上貫津では、人々の熱気に、熱い日差しが覆い被さっている。 |
ギラギラの日差しとギトギトのカメラマン視線を受けながら、涼しい笑顔を振りまくとはまさに大人の振るまい。 |
太陽が高々と空の真ん中に昇る頃、ちょっと汗を拭く仕草も板に付いてくる。 |
主役のモデルさんを中心にして世界が回っているようなまつり会場。 |
撮影の休憩時間。 モデルの次の出番を待つわくわく感と、暑さにやられ体を覆うだるさが入り交じる。 |
またの間にぶら下げられた紅花は、地面を見つめながら暑さに耐える。 |
「さくらんぼみだいに、オラだもたまには傘の中さ入っだいべしたぁ」 とにかく今日は誰でも日陰を求めたくなる。 |
「おまえだは夏になっど、ほっちこっちから顔出すずねぇ」 「確かに青い空、白い雲が似合うげんとなぁ」 タチアオイは誇らしげに胸を張る。 |
紅花まつりのざわめきから抜け出し、すぐ近くの格知学舎へ足を伸ばす。 緑が360度を覆い尽くす別世界とはまさにこのことか。 |
紫陽花は清純そうな花びらを涼やかに広げている。 |
正直なんの花か分からない。 そんな見慣れない可憐な花が、苔むした敷地内に点在する心地よさ。 |
切り抜いたモミジが、そのままはめ込まれてしまったような空。 |
こぼれ落ちる光を我先に受け止める名も知らぬ花。 |
板塀や季節外れの雪囲いは、勢いを増す緑に全身を染めらても微動だにしない。 |
可憐な花びらが問うてくる。 「遠がぐから聞こえる音楽はなんだっす?」 「ああ、今日は紅花まつりなんだど」 モデルの撮影にはワンサカカメラマンが押し寄せるのに、静寂そのものの格知学舎には誰も訪れない。 ちょっと草花には申し訳なく思いながらも、静寂は破られないほうがいいのかもとも微かに思う。 |
すぼめた口が何か言いたげ。 でもいくら考えを巡らしてもその気持を分かることはできない。 |
水が涸れ水車は回らず、植物は垂直に立ちながら、わずかな風のそよぎを確かめている。 |
水たまりのような小さな池に、力尽きた花が茎ごと倒れ込んでいる。 その水面へ樹木の影が映り込む。 |
「土筆だが?」 頭を見れば土筆のようだ。でもこんなに丈の長い土筆はないだろうし、ましてやとっくにスギナになっているだろうに。 |
熱を孕んだ庭園には風の入り込む余地もない。 汗を拭きつつ空を見上げれば、モミジの葉っぱが折り重なって空を覆っている。 |
庭園の地面には光もなかなか届かない。 電球は惚けたように虚空へ目を漂わせているばかり。 |
ジリジリと焼け付く屋根。 モミジはここぞとばかりに、葉の両面へ光を注ごうと屋根に近づく。 |
日陰を好むギボウシ。 竹や紅葉の葉陰に隠れながら、人より抜きんでて大きく育つだけが人生じゃないと教えているようだ。 |
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