◆[山形市]薬師祭り 雑踏と夕日(2014平成26年5月10日撮影)

竜山がまぶしげに傾く太陽を眺めている。
馬見ヶ崎河川敷の駐車場には、夜に向けて続々と車が進入する。

「こだい緑になたのがぁ」
若葉の期間はあまりにも短い。ほんの数週間で、緑は急激に濃さを増す。

ゴミ投げ場のCDが、何事かと目を白黒させる人の多さ。

「おもしゃいのはこれからだべ」
太陽がどんどん傾き、影がビローンと伸びる。
親にごしゃがれずに夕方遅くまで遊べる貴重な薬師祭り。

西日が緑や鳥居を際立たせる頃、益々人出が増えてくる。

「んまいもの食たし、夕ご飯なくてもいいびゃ〜」
「ほだなやんだぁ、うちでも食うぅ」
「オレも腹減ってるんだげんとなぁ」
クラシックカーは春の大気を吸うように、ボンネットをパクパクさせている。

「肩もみしてくたびっだびゃぁ、ドリンクでも飲まっしゃい」
西日の中に人々の交流が散りばめられる。

家並みの隙間から差す光に一つの植木が浮き上がる。
スポットライトを浴びた植木は主役となり、人の足を止めてしまう。

相変わらずの五中前通り。
しかし、すぐ先の新築西通りは北進一方通行から対面通行へ変わったんだ。

「なして植木市でカッパが飾らっでんの?」
「カッパて植物なんだじぇ。顔が緑色だべ」
カッパは素知らぬふりで、目玉に太陽を小さく映し込んでいる。

2040年には山形市の人口は、今より5万人減るとの予想がなされている。
どうか、この賑わいと澄んだ西日がまだまだ続きますように。

雨を吸い込むように道路は粗めに舗装されている。
そんなざらついた路面を這う影が、思いっきり長〜く伸びをする。

「夕日ば真っ正面から浴びで、まぶしぐないんだが?」
「ぜ〜んぜん」
お面たちは目玉がないんだもの当たり前か。

肩と肩がぶつかり合うほどの人出。
祭りの最終日で、しかも土曜日で、追い打ちを掛ける好天。これじゃ山形人が黙っちゃいない。

「どいにさぐうどいいんだ?こつばおしぇでけろ」
「ほだなおしぇらんねっだなぁ」
お祭りはある意味、子供たちと露天商さんたちの戦いなんだ。

二頭身のキャラクターたちが夕日を浴びて輝いている。

「行ぐがはぁ」
「どさ」
「いだてしょうないべぇ」
「とりあえずお祭りの中さいんのがいいんだべず」
ケヤキの根元に長い時間座るには、ちょっと固すぎる。

みんな頭をオレンジに染める時間帯。

「入る?」
「やんだげんとも入っだい」
「んだずねぇ、やんだげんともしょうないがぁ」
気持だけがすっかりお化け屋敷の中。でも最初の一歩がなかなか出ない。

西日が薬師の杜にズイッと入り込んでくる。

木漏れ日を浴びて、おみくじはオレンジ色に発光する。

「男なんかみんなブレブレってゆうが、興味ないずぅ」
話の花が咲きすぎて、すっかり腰が重くなってしまった女子高生。

電球に照らされた玩具は、子供たちにとってこの上ない宝物に見える。
だからどうしても自分の物にしたくなる。

廊下を滑る陽が濃いオレンジ色に変わる。
まもなくお祭りの灯がより強く人々を誘うようになる。

枝の隙間を縫って、人々のほっぺたに夕日が届く。

どこからどうアングルを狙っても、腹がグゥと鳴ることに変わりはない。

「携帯とお祭りのどっちとる?」
「究極の質問だずねぇ」
今、子供たちはその両方を手に入れているのに、ただ座っているのもつまらねべ。

熱々の湯気が人々を誘う。
誘いに負けた人々が次々と行列をつくる。

少しずつ光量が減ってくる。
露店の灯りは徐々に勢力を増し、花びらは闇の中へ隠れようとしている。

ごった返すとはまさにこのこと。
老いも若きも祭りと聞いちゃ、ハエ取り紙のハエ。いや、誘蛾灯に集まる蛾。
たとえが悪すぎた。前言撤回。山形人の血が騒ぐと言い換えたい。

「鼻の頭さ絆創膏付けっだんだがぁ?」
「ガムテープ貼らっでだんだゾウ」
薬屋さんなら、せめて傷テープを貼って欲しかった。

「今日は夜が長そうだぁ」
吊された花は、灯りをまともに浴びてまぶしそう。

空よりもちょっと早めに夜のとばりが降りる沼の底。

「あびゃあ、あびゃあ〜」
空が濃い色に染まる頃、昼の部を楽しんだ人々と、夜の部を楽しみたい人々が交差する。

祭りのざわめきは夜風に乗って川面を静かに流れてゆく。

煌々と輝く月。
ざわめきから抜け出して家路につく人々が、歩道橋を渡ってゆく。
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