◆[山形市]小立 萌える色彩(2014平成26年5月3日撮影)

連休後半のスタート。行楽地へ行楽地へと車はなびく。

歩道橋の手すりは、ペンキがパカパカと剥がれ、
排気音はその傷口に塩を塗るように充満する。

車の排気音は流れ込んでくるが、それを上回る春の息吹。
山形の街の中にも、奇跡的な空間が残っている。

「毎日、毎日車の音うるさくてよぅ」
「んだ、んだ、昔なの人の足音しか聞こえねっけ」
桜の花びらをたっぷりを被った後に、石碑たちは言い合う。

「雪の力には負げっず」
フェンスはへたり込み、頑張れと応援するように草花が見守っている。

薄暗い路地にぽたっ、ぽたっと音がする。
寒椿の花はやがて色あせ、土に還っていく。

桜が終わると、あっという間にチューリップの季節。
草花は連鎖するように、次々と咲いていく。

ハナミズキは車のフロントを舐めるように眺めている。
というよりも、フロント硝子に映った自分の咲き具合にうっとりしている。

菜の花に蜂が群れ、空には飛行機雲。
こんな日に、鬱々としていてはいけない。無理にでも笑顔を見せれば、やがて心の底から笑顔になれるはず。

ドラム缶の中を覗いてみる。
錆の匂いの向こうに菜の花畑。

ブドウ棚を支える針金は、空の中で雁字搦めでうなり声。

ピザ屋さんのバイクが軽快な音を響かせ走り去る。
花びらをこれでもかとまとった枝は、重そうに道路側へかしいでいる。

戸神山の萌葱色を背景に、
菜の花の道をこっちへ向かってくるのは、誰がどう見てもモンテディオのサポーター。

「石崎監督がJFLの監督時代からサポーターだっす!」
「それは年季入てっずねぇ!」
「今日もゴール裏で応援だっす」
青年は大志を抱き、これからNDスタへ向かうという。

「犬のベロが日差しば浴びでハートマークになったどれは」
「どれ、んだらNDスタさ行がんなねがら・・・」
青年よ、なんとかモンテに勝ち点3を頼む。

何の変哲も無い河原。
しかし、これが住宅地の真ん中だとしたらどうだ。
まさに周りは新興住宅地。けっして奥入瀬の渓流じゃないんです。

空を見上げて桜を愛でるのも終わり、今ではハナミズキが道路中を席巻している。
そして、目線を下げれば可憐なムスカリが咲いている。

遅ればせながらの冬タイヤを交換する、キン、コーンという工具の音が流れてくる。
桜はとっとと去って、いまやハナミズキの季節だよ〜と主張する濃いピンク。

竜山川を跨ぐ小桜橋の上は誰でも通ったことがあるだろう。
私は偏屈者。みんなの行かない橋の下へ足を踏み入れる。
ヒンヤリした空気に汗が引いてゆく。

「オマエはへったれ虫だが?
なんだか分からない虫には勝手に失礼な名前を付けてしまう。

この間まで冬だったというのに、半袖姿が小桜橋を下ってゆく。
季節の転換点はいきなりやってくる。

猫も杓子も、いや山形のどこもかしこも並木といえばハナミズキ。
アメリカへ桜を送った返礼にいただいたハナミズキは、日本中にすっかり根付く。

「昔は子供たちの聖地だっけのよねぇ」
「なして?」
「なしてて、こごは青田沼てゆて、ザリガニの宝庫だっけのよ。山形じゅうからサキイカたがて子供だが来たもんだ」
今じゃ柵に覆われ、小さく縮こまっている。

藤棚から伸びた蔓は爽やかな空気を吸い込みながら、どんどん緑が濃くなる戸神山を眺めている。

クルリンパッ。
藤棚の隙間から顔を出し、愛嬌を振りまき光り輝く。

「早ぐ上げでけねがなぁ」
鯉のぼりは泳ぎたくて仕方ないが、主の畑仕事が終わるのを待つしかないようだ。

大きな石がごろごろ転がる竜山川。
自然そのものに見える川の両側は、今や新興住宅がびっしり。

滝山小の隣にある小さな神社。
その狐さんの懐に、これまた小さなウサギ。

どこもかしこも花だらけ。
鼻腔は花の匂いと、若葉の勢いにくすぐられてくしゃみが出そう。

新興住宅地といえども、滝山地区には昔ながらの屋敷も多い。
こんな味わい深い小径も、滝山ならでは。

「なんだべぇ、この植物は・・・あ、おじさんが来たがら聞いでみっか」

「ちぇっと茎ば囓ってみろ」
「うへー、酸っぱい」
「ルバーブていうのよ。欧米人は肉食だべ。んだがら繊維質の多いルバーブばジャムにして食うのっだべ」
おじさんは懇切丁寧に教えてくれる。
山形もあちこち歩けば、知らないことにいっぱい出くわすもんだな。
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