◆[山形市]飯田 寒気独り占め(2014平成26年1月18日撮影)

寒風を攪拌しながら、何かを追い求めるようにブイブイ飛ばす車たち。

寒さばかりが辺りをたむろして、雪が無いとは山形らしくない。

「陽照ってんもの、洗濯物は外さ干すっだなねぇ」
洗濯物の影がクッキリ壁に張りつくなんて、通常の山形ではあり得ない。

「いつもなら真っ白いベレー帽ば被てんのになぁ」
ガスボンベの頭は日差しを受けてテカテカに光ってる。

「ほごの空き缶と一斗缶、隠っでいねで堂々どしったらいいべず。
何も悪れごどしたのんねんだべ?」
空き缶入れは隠れている缶たちを守るように、辺りの様子を見張っている。

「こごば登っていぐど蔵王高校、んねっけ、明正高校っだなね」
竜山の真っ白い姿が見えないように、電線がいたずらに邪魔をする。

冬の空を柔らかい雲が流れる。
かといって温かい訳じゃない。立木も煙突も凍えているし。

最上は大雪、置賜は氷点下10度以下。
なのに山形は青空が広がり、雪もほとんど無い。
天気予報を見て、一様に日本海側は全部雪なんて信じちゃいかん。

坂道に陽が降りてきて、雪やマンホールはテラテラとまぶしく光る。

むっくりと起き上がった葉っぱがいう。
「なんだべ、冬にしては雪はないし、春にしては寒すぎる。何が何だかわがんねぇ」

表皮がカチャカチャに乾いた枝は、体中からギシギシと音がしそうにたわんでいる。

降り注ぐ光を受け止めて赤い実がポッポッと煌めく。
寒風は甍を渡り、細かい枝の隙間を縫ってゆく。

大空に血管のように張り巡らされたブドウ棚。
いまはまだ息を潜めて風に耐えるだけ。

「氷から捕まて動がんねぐなたはぁ」
「下手に動いだて、どさ行き着くがわがんねじぇ」
雪が溶けるまで、自分の行く先はじっと考えた方が良いと諭してみる。

氷が張っていると必ず踏んづけたくなる。
「と思うべ?」
ところがある程度年齢を重ねると、そういう事への興味を失う。
大人とはそういうもんだ。残念ながら。

「この辺は日当たり良いずねぇ」
ちょっと足を止め辺りを眺める。ここは明正高校への通学路だった。
いまでもグランドや校舎があるので、生徒はしょっちゅう通るらしいが。

「この寒いのに咲いでけで、ご苦労さんだなぁ」
寒さなどまったく気にせず、たまに通る車や人を、首を伸ばして見ているバラ。

「桜咲ぐには早すぎねが?」
「ありゃ、よっくど見っど何がの種子だがしたぁ」
冬の光は種子を照らして、枯れ木に花が咲いたよう。

寒気に震える山形市街を眺めながら、
意思があるのかないのか分からない枯れ枝が、ゆーらりゆーらり揺れている。

「こだな坂道、雪が積もてだら何するんだべぇ」
「バイクさもチェーンあんのしゃねのが?」
そう言われればその通りだと、乾いた道へ視線を落とす。

「雪降っていねがら、こだいしてカメラば構えでるいげんとなぁ」
わずかに積もった雪の畑へ入り込む。

寒気がどっかりと腰を下ろした山形盆地。
日だまりの中を郵便配達のバイクは、コマ鼠のように坂道を走り去る。

すっかり葉っぱを落として、ただ寒気に耐えていると見せかけて、
実は着々と春の準備を進めているんだな。

「茶色ぐカチャカチャて乾いではぁ」
乾いた豆に日差しが絡みつき、辺りは微かに空気がぬるくなったよう。

氷の上に微かに積もる雪。
「石ころは下から生えっだんだが?誰がが投げだんだが?」

普段なら真っ白な雪の斜面。
今はまるで太平洋側のような枯れ草の斜面。

「ゾンビが?」
「うぅ、うぅ、助けでけろぉ」
ただゴム手袋が地面に置いてあるだけで、幾通りものストーリーが頭を巡る。

ピラカンサはゴリゴリの赤い塊を、これ見よがしに目の前へ突きだしてくる。

昔は田んぼの中の散村だったに過ぎなかったろう飯田。
いまでは完全に山形の町と繋がり、すぐ脇の飯田高架橋を車がブイブイと行き交っている。

小さなスペースだけれども、ただこれだけで心が癒やされる気分になる。
新興住宅地にはこういうスペースがないので、撮影する気にもなれないのかも知れない。

「雪降らねどほんてんいずねぇ」
「んだぁ、足も軽やかに動ぐま」
乾いた足音が遠ざかる。ヒバの木は体を捻りながら人々を見守っている。

大気が止まり、時間も止まる。そしてゆっくりと時間が逆回転し始める。
そんな錯覚を覚える木枠と薄汚れた硝子。
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