◆[山形市]七日町 悲しきイルミネーション(2013平成25年12月29日撮影)

「今年の冬は寒いんだべがなぁ」
青白い山並みと白くなった家並みを眺めながら、白い息とともに自然と口から言葉が出る。

「大沼んどごの十字路見で見ろ。スクランブル交差点だがらねぇ。都会の証だべ。」
言っているそばから寒風が言葉を吹き飛ばす。

「こいなば風情あるてゆうんだべ」
「風情がなんぼあっても、寒さには勝だんねべ」
柳の枝に、凍てつく大気がまとわりつく。

「早ぐしてけねがなぁ」
「何ば?」
「早ぐ年賀状ば入れでけろてよ〜。待ってる方は寒くてかなわねんだがらぁ。」
ポストは寒くて口も上手くまわらないのによくしゃべる。

「ちぇっと長ぐなたんね?」
「スカートが?」
「なにゆてんのぉ。日の長さよぅ」
確かに山銀の時間を見れば、ちょぺっと長くなったのがわかる。

「七日町でバスば降りでよ、こごば映画館まで歩いていぐのが至福の時間なんだっけ」
「ほっだな、人なのわんわんて凄いんだっけがら」
昭和の話をしても空しくなるばかりの心を、イルミネーションがチロチロ照らす。

数日前のクリスマスは遠い過去。

「ず黙ってなにしてんのや?」
「オマエこそ、こだんどぎ写真撮りなのしてんな」
バイクは寒さのために不機嫌なようだ。

「あれは夢なんだっけべが・・・」
シネマ旭の建物が消え、ここで観た数々の映画の記憶を心の底から掘り起こす。

「なして花小路ていうんだべね」
「話に花が咲く小路だがらんねがよ」
由来は分からないが、少なくとも花が咲くには時間が早いか。

水たまりに薄暗くなった空が映り込み、寒さを益々際立たせる。

なんの音も聞こえない。ただビジャビジャと歩く自分の足音以外は。

「やんばい積もったんだなぁ」
屋根に積もった雪は地面をじっと覗き込む。

「誰もいねのに、なしてほだい明るぐしてんのや?」
「明るぐしてねど、あっという間に悲しみに覆われてしまうもの」

「賑やがだごどぉ」
空き缶に声を掛けたが、誰も返事はしなかった。

「あの先のカーブなてスイスイっだなぁ」
「それは雪のないどぎの話だべ」
自慢げにいう自転車をガックリさせる。

「ああ、まだこごさ戻てきてしまたぁ」
子供の頃に見たシネマ旭の建物は、あの空を覆い隠すほど大きかった。

目の前でシネマ旭が取り壊されるのを、じっと見ていた商店街。

「タイヤ冷ったくてしもやけなるぅ」
自転車にとっては我慢の季節がやってきた。

「こごさ座て永いのがぁ?」
「んだて、他に行ぐどごないもの」
雪を被ったプランターは面倒くさそうにぼそっとつぶやく。

「早ぐ暖かいどさあべぇ〜」
人々は自然に足が速くなり、暖簾の内側へ飲み込まれてゆく。

「すんばらすいもんだもなぁ。電気代もすんばらすいべぇ」
野暮なことは考えずに、素直になってイルミネーションを楽しみたい。

「正月くらいは頭ばサッパリさせねどねぇ」
オブジェを見る振りしながら、鋏を持つ手さばきに見入ってしまう。

「誰も払てけねのよねぇ」
「みんな師走は忙しいがらねぇ」
葉ボタンは、雪の隙間からイルミネーションを静かに見つめる。

人々が足早に家路につく頃、落ち葉たちはゆく当てもなく冷たい路面を彷徨っている。

硝子に阻まれて聞こえない。
聞こえないけれども、清らかな音色が響くのを感じずにはいられない。

たまたま赤信号の前で一緒になってしまっただけ。
でも、それは25万人もいる人口の中では凄い確率だ。
青信号になり、二人はそれぞれの人生へ還っていってしまった。

町の灯りが斜めから足跡を照らす。
平坦なはずの雪道が陰影のせいで起伏が大きく見える。

「あべは〜」
「んだんだ、帰っべは〜」
マネキンが見つめる中、しっかりと袋を握って家路を急ぐ。

「ちぇっとのこめ、こだい暗ぐなたはぁ」
一番最初の写真と見比べてください。冬の日もつるべ落とし。
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