◆[山形市]横根 天空の村晴れ渡る(2013平成25年11月17日撮影)

「なんだずー、昨日も今日も快晴の天気予報だっけどれぇ」
西蔵王の中腹にある横根の村は、薄墨色に染められて無音の中に閉じ込められている。

「中ば覗いで何があんのが?」
「くたびっでクタラーッとなっただげだぁ」
ホオズキは朝露に濡れながら地面へ還る時を待っている。
ドラム缶はその姿をジーッと見守ることしかできない。

あの夏の日差しはどこへ行ってしまったのだろう?
そんな思いを胸に秘め、体が固く黒ずむにまかせるしかない。

「寒いのなの関係ない!オラこれからグングンおがるんだぁ!」
切り株から顔を出した小さな体は、蜘蛛の糸に引っ張られても、朝露に濡れても前を向く。

山の斜面に横根の村が静かに寄り添っている。
その歴史は古いが、今は九軒の家があるのみという。

晩秋の静けさが辺りに満ち、声を出してはいけないような空気が漂う。

「天気予報は当でならねずねぇ」
「風がないだげでもいがったべっす」
太陽も顔を出さず、風も動きを止める薄靄の中。

一粒一粒があっち見たりこっち見たりと、四方八方に目配りするピラカンサ。

暗い土の中にいたころを思い出し、足の先っぽを手持ち無沙汰にクネクネしている吊り下げられた大根たち。

「はぁ、くたびっだぁ」
夏の間、凛と立ち太陽を拝んでいたひまわりは、力尽き果てパイプにぐったりともたれかかる。

小さな花びらにそっと寄ってみる。
滴に濡れた花もそっとこっちを伺うように見つめ返す。

手のひらを大きく広げているけれど生気が感じられない。
太陽さえ顔を出せば勢いが戻るんだと、モミジは目の前で語りかけてくる。

「地面が遠いずねぇ」
屋根の雪止めに阻まれて、降り積もった栗は行き場を失い途方に暮れる。

「冷ったいげんとしょうないのっだなぁ。昔からだものぅ、慣れだはぁ」
黙々と洗うおばさんに突然声を掛けたのに、迷惑がらず話してくれるが、その手を休めることはない。

「まもなぐ雪降んべがらよ、急がんなねぇ」
冬は突然にやってくる。おばさんは年をとっている暇もない。

ようやく日差しが地面に届き出した。
冷たく乾いた微風は、枝をかすめ田んぼを撫でて、紅葉の山並みを覆い尽くす。

靄の中に埋もれていた木々が、寝ぼけ眼をこする遅い朝。

湿原に生えたガマは、ブヨブヨに綿を膨らませ、ようやく暖まりだした大気を吸い込んでいる。

山並みの懐に沈んでいた横根の村が、黄金色に輝いて天空に浮かびだすようだ。

枯れたはずの草木も黄金色に染まって、うれしさのあまり空をツンツン突いている。

冬に備える村は静かに雪を待ち、その先の春を夢に見る。

「さっきの大根だどれ。太陽が当だっど皺が目立づんねが?」
「失礼だずね。んまくて食うのはどごの誰だよ」
大根たちは気持ちよさそうに陽を浴びながら、ちん入者のカメラ親爺に笑いかける。

幼児飛び出し注意!の看板が掃がれかけている。
小学生も含めて村には子供が数人しかいないらしいから、看板も力が入らないのだろう。

盆地の底に広がる市街地よりも一足早く日差しを浴びる横根の村は、
一足早く冬に入っていく。

「この村はよ、水道代も安いし、水力発電が出来れば電気代はタダになっかもすんねのよ」
「んだら、それば売りにして人ば呼ぶどいいのんねがっす?」
世間話をするほどに、農作業するおじさんの横根への愛着と博識が心に染み入ってくる。

「山形駅まで車で10分台、ヤマザワ松見町店までなら10分以内で行ぐいべ」
横根は便利さと眺望の良さを兼ね備えた村だった。

「こごは滝山小学区っだな。今はみな車で送り迎えだはぁ」
作物を前に屈託なく笑う親子三代。小春日和の日差しのように温かいまなざし。

「いがったら白菜と大根持ていがっしゃい」
突然のちん入カメラマンに、ばかでかい白菜三個と大根三本のお土産。
横根の人が一気に好きになってしまった瞬間。

山が開けて眼下に街並みが見えてきた。
後部席では大きな白菜と大根が車の震動に身を任せている。
良い写真が撮れたかも知れないという安堵感と、思いがけない頂き物に、思わず頬が緩んでしまう。

車を追いかけて舞う落ち葉が気にかかり降りてみる。
今から真冬がやってくるという諦念を隠して、無理して笑顔を振りまいているようだ。

横根の村で背負った太陽が、名残惜しげにいつまでも追いかけてくる。
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