◆[山形市]富の中・吉原 夏はいつ去るの?(2013平成25年8月22日撮影)

「お盆のヤマザワ抽選会はスカばっかりだっけ」
「スカったて50円券として使ういんだがらいがんべ」
お盆過ぎに山形市民の世間話で必ず出てくる会話。
まるで初夏のような雲がヤマザワから湧き上がる。

「ほんてんなんにもないんだっけがら」
「南沼原の文集が『はらっぱ』ていうぐらいだっけがら」
片側二車線の規格にも満たない狭い西バイパスを、強烈な光を反射して車がブイブイ走る。

「この頃、女の人が首さ巻いでっずね」
「真似して巻いでみだげんと暑っづい」
蛇口は水をくれと空へ口を向ける。

「季節外れもいいどごだべ」
「オマエの文字だて禿げっだどれは」
注連飾りもステッカーも色が褪せて、気力も褪せる。

「ポストど間違て、はがき入れる人いねが?」
「ちゃんと賽銭箱て書くがったどれやぁ」
小学生じゃ読めないだろうし、大人だって書けない。

「熱中症でひっくら返んなねぇ」
朝顔は自転車を助けようと蔓を伸ばし、ラーメンのどんぶりは、ただアパーッと口を開けている。

「神社ったて誰もあそんでいねずね」
滑り台の濃い影が、杉の根元に寝っ転がっている。

日が高くなり、いよいよ葉っぱの影は地面で濃度を増す。

「杉っ葉の上はフカフカだがら、こごで昼寝すっだいはぁ」
踏みつけるのがもったいないくらいフカフカの地面を、乾いた爽やかな風が過ぎてゆく。

「こごばまっすぐ行くど、はしぇどうっだべ」
「はしぇどう?長谷堂んねくて?」
山形の人間は誰も長谷堂などと、つかした言い方はしない。

四角い用水枡の中からうめき声が聞こえてくる。
覗けば、びっしりと覆い尽くす浮き草の中で、ペットボトルは腹をパンパンに膨らませている。

「ありゃゴメンゴメン。ひまわりば撮っかどもたら、雲があんまり綺麗だがら、そっちばメインにしたっきゃあ」
「オラだは空の添え物が」
ひまわりは夏の象徴と訂正してお詫びいたします。

「なにがごしゃいっだのが?顔ば背げで」
「太陽ばり見でっど、くたびっでよぅ」
たまには目薬をさしてあげたくなるひまわりたち。

はらっぱだったはずの南沼原地区は、アスファルトとコンクリートの亜熱帯性気候ジャングルと変わりつつある。

「こだな暑いどぎ、誰も公園さいるはずないずねぇ」
「昔だごんたら、子供だはどさも行ぐどごなくて公園さ来るっけべ」
「今の世の中、暑い夏は公園で遊んでっど注意されんのよ」
ブランコは開店休業でお手上げ状態。

「こっだい暑いどぎ草刈りなて、ご苦労様だずねぇ」
犬川の向こうから、草刈機の甲高い音が響いてくる。

犬川の上流に千歳山がちょこんと見える。
綺麗な護岸に真新しい家たち。一瞬、私は浦島太郎。

犬川の下流に富神山が微かに見える。
綺麗な護岸に真新しい家たち。一瞬、私は何故か泣けてきて、30年前へ戻りたくなる。

人々がエアコンの効いた室内に引きこもる頃、
灼熱の地面を這いながら、勢いづく葉っぱたち。

そろそろ凍ったアクエリアスも溶けてきた。
溶け始めた自分の脳みそは、公園の向こうに水分神社の杜をおぼろげに認識する。

「夕方になっど突然パサッて音立でで咲ぐんだじぇ」
母はそう言って譲らない。なんだか眉唾な気がしないでもないが、
夕方咲いて花が1日でしぼんでしまうのは本当らしい月見草。

「いっておきますが、大草原の小さな家のワンシーンじゃないですから」
水分神社の脇は綺麗な公園となり、地域の人に親しまれている。
と思いきや誰もいない。

もはや日の当たるところにはいたくない。
急いで水分神社の杜に待避する。
「人生だて、日の当だっどさばっかりいっど人間おがしげなっべ」

ペットボトルを逆さまにしてアクエリアスをグビグビ飲みながら、
目は杉の木に絡まった蔦と、その向こうに見えるアパートを交互に見ている。
汗を拭きながら、杉の木の樹齢と新築数年のアパートが一緒に存在することに何故か違和感を抱いてしまう。

「おだぐよ〜、さっきから水分神社てゆてっげんと、読み方分がてんの?」
狛犬は光のせいか、すごい睨みようだ。
「水分て書いで(みくまり)て読むの。みくまりじんじゃだがら覚えでおげよ」
なして「みくまり」て読むのか、是非、吉原地区の人に聞いてみたい。

人心地付いた。「どーれ、後半戦だぁ」
水分神社の木陰から街並みを眺める。郵便局のバイクは暑い中を、ミズスマシのように走り回る。

「たづぐものないど、上さ行がんねのよぉ」
だらんと塀から垂れ下がり、それでも花びらだけは上を向いている。

「ハットとサンダルと長靴、これが真夏の三種の神器だべぇ」
分かったような分からないような気分で空を見上げれば、ポカリと雲が浮いている。

「いよいよ膨らんできたなぁ」
柿の実を見ようと近づくと、固そうな葉っぱはテラテラと光を反射しながら立ちはだかる。

「あいやぁ、飛行機雲が太陽ば突き抜けだぁ」
空を見上げただけで頭がクラッとする暑さなのに、飛行機雲が空を切り裂く姿に頭が沸騰する。

「吠えんのも面倒くさいワン」
たった一回吠えたとおもったら、もう地べたに伏して目だけで私を追っている。
かなり弱そうな人間に見えたから、体力温存と決め込んだな。

無花果の実がフラッシュの光をいきなり反射する。
「無花果てどだいして食うど、んまいんだべ?」
いくら暑くても、まずは食べることが優先する悲しい自分。

「こごだ、こごこご」
分かる人にしか分かるまい。
ここは上町から南館・富の中を経て長谷堂へ行く旧道のクランクみたいになっていた地点。
新しい道路に埋もれて危うく見落としてしまいそうだった。

「蔓も垂れ下がてきたし、帰っかはぁ」
暑さには勝てず、自分の撮影意欲も垂れ下がる。
なんとなくクルリとカールした蔓を引っ張って、その感触を指先に残しながら富の中を後にする。
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