◆[山形市]成沢 猛暑日に歩く成沢城趾(2013平成25年8月11日撮影)

成沢城は直江兼続などの敵から山形を守るための最前線だった。
今は公園として整備され、遠く上山方面に高層マンションが見える。

神主さんが一生懸命立ち寄った人に説明をしている。
サイカチの葉も頷きながら聞き耳を立てている。

長谷堂の城山とともに整備され、山のあちこちに
真夏の日差しを浴びながら真新しい標識が立っている。

山の北端には馬頭観音がある。
その脇には防火用水とペンキで描かれた、
カラカラに乾いた浴槽が草むらに埋もれている。

強烈な日差しは木の幹を熱している。
樹木に足があったら、一目散に日陰へ逃げるはずだが、そうもいかずに我慢する。

「こごさいるしかないべぇ、こだな日は」
観音堂の縁の下には、箒が薄暗闇の中で昼寝をしている。

「ありゃま!この暑いのに、木と木が途中でくっついっだじゃあ」
「愛し合ってるんだごんたら、しょうがないべな」

にじみ出る汗に混じり、
違った種類の冷や汗も出る。

ジリジリ照りつける太陽。
それなのに草花のなんと元気なことよ。
しかも、何故日に焼けない?

人間の立てた物には蔦が絡みつき、緑が覆う。
植物の勢いは轟音を立てるほどにすさまじい。

「オレは暑いの我慢して立ってるげんと、おまえだは暑いのが嬉しそうだずねぇ」
我慢して立つ消火栓と、喜んで立つ植物は根本的に、考え方の立ち位置も違う。

「ちょっとした古墳みだいだげんとなぁ」
このちょっとした成沢の山が、最上義光を、そして山形市を守ってきた。

「ずぶんは何が何でもトッキビば守っからなぁ!」
両手を広げ、トッキビ防衛隊は汗を掻く暇もない。

「暑くてかなわねぇ、体が溶けでしまいそうだはぁ」
「おまえだなんなんだず。元気良すぎね?」
バッと開いた葉っぱは、猛暑を楽しむように活き活きしてる。

すぐ脇の国道13号では車が排気ガスをまき散らしている。
わずかな距離でもこれだけ違う山形の街並み。

「こだんどぎアスファルトば這ったりしたら、目玉焼きなてしまうべな」
「オラだは卵んねっす。とにかく前さ進むように体がなてるんだっす」
人や車に踏んづけられようが、前向きを忘れない雑草たち。

「テロテロて磨いだみだいだなぁ。」
柿の葉っぱは貪欲に光をむさぼり、肉厚になって秋に備える。

成沢城を守るための鳴沢川も、今では草花が咲き乱れ、
せせらぎの音がサウナのような大気へ混じっていく。

成沢城趾の麓ではごっつい石鳥居が、気も遠くなるような時代を見つめながら立ち続けてきた。

生涯を終えた蝉が地面に転がっていた。
人にでも踏んづけられたら可哀想と、柄杓の上に載せてみた。
暑すぎてもっと可哀想か・・・

「やんだげんともしょうがないべずねぇ」
嫌々ながら、汗を拭き拭き八幡神社の長い石段を登ってみる。
木漏れ日は地面に斑模様をつくり、石段をゆっくり這っている。

「オレ高所恐怖症なのに、なんでこだんどごさ置ぐんだずねぇ」
箒は下を見ないようにして固まっている。

「森の住人だが?」
日陰にしゃがみ込んで膝の上に本を載せ、なにやら読書に耽っているようだ。

「重だいしよ、暑いしよ、そろそろいがんべはぁ」
立秋も過ぎ紫陽花鑑賞も終わりに近づいた。
「紫陽花さ干渉すんのもそろそろやめっべはぁ」

「今年も咲いたが芙蓉さん。BS受信してなにが見っだのが?」
直径何十センチもある花びらは、空へ向かうパラボラアンテナのごとし。

「これ以上なにば望むのや?」
思わず口走りたくなる。青い空・白い雲・牧歌的な街並み・咲き乱れる草花。
「文句あっごんたら、ゆてみろ」
さすがに暑すぎて通りには誰もいないし、誰も文句一つ聞こえてこない。

「おらゴワゴワだぁ。オラは頭煮だったぁ」
タオルはカピカピに乾きすぎ、バケツは頭が沸騰しそうな真昼時。

「こっちからも山さ登るいんだじぇ」
ノウゼンカズラが耳元で囁いてくる。
「あどいいはぁ」
猛暑が体と脳を蝕み始め、せっかくのノウゼンカズラの誘いを断ってしまった。

「頭でっかちじゃ世の中生きでいがんねべぇ」
「人間から言われっだぐないげんと、確かに重だいぃ。首さトクホン貼ってけろぉ」

鳴沢川が城趾を囲むように流れているものだから、
城趾の周りを一週しようという、今回の散歩にはずっとせせらぎの音が付いてくる。

「暑いどご申し訳ないげんと、ちぇっとそのまま」
こんなお店屋さんが昭和には至る所にあった。
少年の頃の甘酸っぱい思い出を蘇らせる建物は、ちぇっとそのままと言っても、平成の波に消えてゆく。

「早ぐかしぇいでこい」
「ほだごどゆたて、今帰ってきたばっかりだじぇ」
バラはトゲのある声で、バイクをせっつく。

成沢の街の上にこんもりと雲が被さっている。
どの家もエアコン全開で人々は引きこもって居るだろうから、沸き立つ雲など眼中にないかもしれない。

「おだぐひまわり?」
「もしひまわりだどしたら、随分と日焼けしたもんだなぁ」

モワモワと熱気が立ち上り、涼しさのかけらも見当たらない。
空は軽蔑したようにいう。
「猛暑日にプールさ行ぐんならまだしも、撮影なて何を考えでるんだが」

ちょっとした坂を登るだけで、体力が驚くほど消耗し、体から水分が逃げ出していく。
「消火栓は水が体から枯渇するごどなてないんだべずねぇ」

朝顔を見上げたら頭がクラッとした。
撮影に熱中するにもほどがある。
混濁した頭をタオルで拭きながら帰ることにする。
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