◆[山形市]漆房 夏至が過ぎれば稲虫送り(2013平成25年6月30日撮影) | |
長谷堂の城山が見えてきた。目的地の漆房も近い。 タチアオイの花が勝手に揃って迎えてくれる。 |
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漆房の公民館前についた。 「はて?村は静かだし何して待ってだらいいべ。つーが、どごで行事があんだがもわがんね。」 |
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「お、来た来たぁ。あの子ださついで行ぐべぇ」 子供たちははしゃぎながら、カンテラを下げてスタート地点へ急ぐ。 |
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「タチアオイだ。オマエだのその毒々しい色は夏らしくていいげんと、夜なっからはぁ寝ろはぁ」 タチアオイの色がどんどんと夕方の色に溶け込んでいく。 |
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ブドウ畑の中に人だかり。スタート地点ではすでに稲虫ができあがっていた。 ちなみに、親と子供が共同作業で4メートル位の稲虫を藁で作るらしい。 |
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「こいっちゃ油入ったのが?」 「んだ。こいずさ火つけで村ば歩ぐの」 |
「ほの箱はなにや?」 「見ての通り祝儀箱だべず」 |
「ぎっつぐないが?」 「やんばいだげんと、藁がチクチクするぅ」 |
「重だぐないべ?」 「重たぐないげんと、気持ちは重いぃ」 「ほだごどゆてらんねべしたぁ、主役だどれ」 |
「稲虫」とは稲穂につく虫のこと。この藁で作った稲虫を村中引き回しの刑に処して、最後に燃やすんだと。 稲虫が何故二体あるかといえば、雄と雌ということらしい。 |
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「早ぐ行ぐべずぅ」 「ずげ行ぐがら待ってろ」 子供たちはちょっとでも待っていると飽きてしまう。 |
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子供たちが早く出発したいとごねても、消防団は悠然と構えて世間話に余念が無い。 |
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「なんだが恥ずがしい。」 「いいがら早ぐ行げぇ」 何故かほっぺたが緩んでしまう男の子たちと、緊張の面持ちの女の子たち。 |
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「火なの持て歩ぐなておかなぐないが?」 「緊張してんだがら声掛げねでぇ」 女の子たちは燃える火に気をとられ、おじさんなどには構っていられない。 |
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スタートした「稲虫送り」の行事。 一時期は途絶えたというが、村の雄志により復活したという。 世界遺産になるような華々しいことではなくても、山形では隠れた伝統遺産が引き継がれている。 |
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「行ったがはぁ」 「もう行ったじゃあ」 おじさんおばさんと道ばたの花びらが見送っている。 |
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子供たちはカンテラにそれぞれ火を点して集落の中を進む。 「いなむしおーくた、おーくた、おくーたしょー」と大きな声を掛けながら。 |
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徐々に暗くなっていく村にそろそろ灯りが灯る頃、 かけ声が夕闇に尾を引いていく。 |
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観客は親父カメラマンと草花たちだ。 |
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「早ぐ来いずぅ」 「そっちが早すぎるんだべぇ」 子供たちの歩調を、親たちは時々調整してあげなければならない。 |
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いよいよ「稲虫」を燃やす地点に近づいてきた。 遠くでは山形の市街地が瞬いている。 |
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「漆房の人だは見慣れでっからなんとも思わねべげんと、こだい夜景の綺麗などごでほんてんうらやましい」 あの山形の瞬きの中に暮らす人々の何人もしらないだろう「稲虫送り」は、絶好のロケーションで行われる。 |
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「どれ燃やすがぁ」 「藁ば焼いでも家焼ぐな」 「おんちゃんそのギャグダサいぃ」 |
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「うへっ、凄い火力!」 ちょっと離れたところから、赤々と燃える稲虫を、体を赤く染めながらみんなで見守る。 |
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「稲虫の断末魔の声が聞こえるみだいだぁ」 稲虫は鎌首を持ち上げ、苦しげに咆哮する。 |
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田んぼの水面に赤々と炎が映り込む。 子供たちは興奮してはしゃぎ回り、大人はじーっと食い入るように炎を見つめる。 |
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いつの間にか辺りはすっかり闇に包まれている。 最期を見届けようと人々は根っこが生えたように動かない。 |
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「手のひら熱いぃ」 それでなくても蒸し暑かった山形。 黒い梅雨空に煙が立ち上り、そのまま雲に混じって消えてゆく。 |
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「どーれ、最後の始末さんなねべ」 爆ぜる火の粉をスコップで叩き、「稲虫送り」は終焉に向かう。 |
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人々が去り漆房に静寂が訪れるころ、山形の町灯りが空をぼんやりと照らしている。 |
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「子供だは大役ば終えで、何がんまいものでも親から食しぇらっでだんだべなぁ」 「稲虫送り」を終え、夏至が過ぎ、いよいよ本格的な真夏がやってくる。 |
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