◆[東根市・天童市]上悪戸・舞鶴公園 三度桃源郷(2013平成25年4月30日撮影)

一度目は真冬だった。二度目は曇天だった。
そして三度目の今回やっと晴天に恵まれた桃源郷へ訪れることができた。

あんまり詳しい位置はいいたくない。
だって、観光地じゃないし、あくまでも啓翁桜を育てている場所だから。

感嘆の声しか上げることができない。
こんなに周りじゅうを桜に囲まれている村なんて見たことがない。

「道はずっでだじゃあ」
「道ば外れるごどが、ほだい悪れごどだが?」
ポンコツは頭を鈍く光らせて、自分の道をゆく。

八年前の冬に訪れたときに、すでに老いていた。
益々シミは増えたようだが、まだまだ骨格はしっかりしているようだ。

小さな花びらの一枚一枚に光が当たり砕け散る。
辺りの大気はピンクに染めあげられ、この世の物とも思えない儚い色香が漂っている。

「五段重ねのハンバーグみだいだぁ」
「ハンバーグど比べられるなて心外だぁ」
空の青、山の深緑、崖の黄緑、啓翁桜の薄ピンク、レンギョウのまっ黄っき。

ぴょんぴょん跳びはねるように生えてくる土筆。
流れる風は体をくすぐられ、さぞこちょびたいことだろう。

土筆は騒いだ後に我へと返る。
そして、周りをそーっと眺めて、自分の立ち位置を理解する。

人間の場合、若いとまだまだ青いなと言われる。
シャクヤクは逆。土から吹き出た芽はまだまだ赤く、青くなるにはもっと太陽の光を浴びなければならない。

青いムスカリは思う。
「あっだい高いどごで泳いで、おかなぐないんだべが」
と同時に、鯉のぼりの優雅な舞を見上げ、わずか10センチの身長を残念がる。

あまりの気候の良さと植物たちの活力に圧倒され、開いた口がいつまでもふさがらない。

「ヌォォォー!オレには土塊を耕してきた自負がある。オマエには何がある?」
土まみれの体は春の生命力を自分が支えてきたという自信に満ちあふれている。

するするっと目の前に現れた猫と、しばらく対峙する。
「まんず、仲良ぐすっべぇ」
壊れたスノーダンプは、疲れた表情で仲裁に入ってくれた。

「どだなどごだてよ、土さえあれば生ぎでいぐいっだず」
ぜんまいは劣悪な環境をものともせず、当たり前のように土から顔を出す。

「どさ行っても水仙咲いでっから見飽ぎだぁ」
「失礼だべしたや、みんな同じようで表情はみんな違うんだじぇ」
水仙に諭され、そんなもんかと気のない返事をしてしまう。

「用心さんなねのに、寝っだらだめだべな」
「火の用心ばっかりしったがら、気づがねうぢに枯れ草から覆わっでしまたのよぅ」
火種になる枯れ草と一緒とは、まさに一蓮托生。

誰も通らない。ように思えた。
でも、春の息吹で息苦しいほど賑やかな通りだった。

「ちょっと手つだして助けでけろ」
タイヤが起き上がろうと草の上でもがいている。
桜の枝先は、助けるにはか細すぎる。

「あいに毎年蘇っごどができっどなぁ」
トタン板は日に日に衰えていく体を嘆きつつ、花びらへ羨望のまなざしを送っている。

さりげなく、しかし堂々と張ってあるモンテディオのステッカー。
ステッカーがなくても、これだけ啓翁桜が咲いていれば、ここは山形だと分かるのに。

花びらから若葉に衣替えの途上。
枝先は若葉を生むための苦しみを味わっている。

デジタルカメラになった今、写真は撮影者の意図で色を鮮やかに変えることができる。
しかし、撮ったまんまで何もしなくても今の上悪戸は彩り鮮やか。

木立の暗がりで、ドラム缶はじっと動かない。
ただ桜の咲く姿を見て、春の息吹を遠くから感じるだけで幸せなんだと頑なに思っているようだ。

「エイリアンが口ば開げっどごみだいだずね」
「言いがかりも甚だしいずねぇ。食われんのは私だだがらね」
タラの芽は人に食べられるために生まれてきてる訳じゃないのにねぇ。

ちょっと日が陰ってきた。
辺りに香気を放っていた花びらも、大人しくうつむき加減。

空に鯉のぼりが舞い、地に啓翁桜が咲き誇る。
春にこれ以上望んだら罰が当たる。

縁の下で、朽ちかけた柱を心配そうに見上げる土筆。
 
◆以下は舞鶴山編

「さっきの上悪戸は、人の数より啓翁桜が圧倒的に多いっけげんと、なんだべ舞鶴山の人だかりはぁ」
あまりの人出に、桜はあっちこっちで笑顔を振りまくのに忙しい。

せっかく会社の一つの駒という立場から連休で解放されているのに、
人々は将棋の盤上に足を踏み入れる。

若葉が目に染みる。
いやいや、目薬をさす必要はないけれど。

噴水の向こうで人々は束の間の休日を過ごし、車列が主の帰りをじっと待つ。

「せっかぐキャッチボールすっかど思たら、子供だはどごがさ走てったじゃあ」
芝生に置かれたままのグローブは、手持ち無沙汰でふて寝する。

「おいおい、どっち見っだのや?」
桜が声を掛けても人々は、露店に向いて振り返らない。

「なして目の前さブランコあっど、必ず乗っだぐなるんだべね」
「立ってんのがこわいがらんねがよ」
「たまには地面から足ば離してみっだいがらんねがよ」
ブランコは現実からちょっとだけ逃避して心地よさを見いだせる。

「陽も傾いできたじゃあ」
傾きかけた人生はさておき、低くなった位置から日が差し込んで、パーッと燃えるように花びらが発光する。
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