◆[山形市]駅南アンダー・五日町踏切・幸町 街は生き物(2013平成25年4月13日撮影)

「飲むとき位しか駅前さ来っごどなぐなたなぁ」
大方の市民の声が聞こえてくる。
でも県都の駅前。なんとか復活を遂げて賑わいが戻って欲しい。

穏やかな日差しを浴びてモンテディオのフラッグがはためく。
人々は駅を降り立ち、休日という安堵感をまとわせて街へ歩き出す。

駅前の喧噪がすだれの隙間から流れ込む。
地蔵さんたちは黙して語らず、ただ通りの人々を見つめている。

「なんだが視線感じっげんと気にすね。んだてスマホの方が大事だもの」
ほんの刹那、お地蔵さんたちに見つめられている事などすぐ忘れ、
若者はスマホの世界へ入り込む。

「ほれ、もう少しだどれ。頑張れぇ」
小さな蕾を見て、思わず声を掛けたくなってしまう。

「やっぱり駅前は変わるもんだなぁ。オレが子どもの頃は駅前ば馬そりが走ってだっけし、
白蝶角(現十字屋角)さは馬の糞がてんこ盛りだっけじぇ」
あれから半世紀。駅南アンダーが出来て再び駅周辺は大きく変わる。

「おまえ悔しぐないのが?」
「なにが?」
「んだて泥靴で踏んづけらっだ跡付いっだじぇ」
「オラだは汚れ役だがらぁ」
看板は重りで動けないように押さえつけられ、いつまでも直立不動。

人が鍵盤の上を歩くように歩道を渡ってゆく。
鍵盤の上に立ったのは柔道一直線の近藤正臣。

ガスタンクのあった一帯は、見事に姿を変えた。
駅西の双葉町と駅前の幸町がアンダーパスで結ばれて今月24日に開通する。
これで五日町踏切の渋滞は緩和されるという。
街が生きていくためには、血管となる道が整備されていないとダメだということか。

第二小学校の北側も道路が拡幅された。
「あれ?んでもその先は?」
「ほだい一気になにもかもさんねっだず」
早く道路を広げて欲しいという気持ちと、また昭和の光景が消えるという気持ちがぶつかり合う。

「なんだてガチャガチャだずねぇ」
煩雑すぎてうんざりする反面、街は生きているという実感も沸く。

「段差ありだど。気いつけらんなね」
「格差ありんねくていがったぁ」
街は段差がないように整備され、人々の間には格差感が益々募る。

工事中のほこりっぽい光景が、車のウインドウに張り付いている。

「雪かきは終わたし、退屈だぁ」
「んだら側溝掃除でもしたらいがんべず」
「汚れんのやんだぁ」
雪かきスコップには変なプライドがあるようだ。

「なんだがしゃねげんと、皆ひっついでくんのよねぇ」
電信柱は迷惑げに言うが、
少しばかり寂しかったので嬉しくもある。

「あ〜見つけだ、昭和の光景」
黒くなってひび割れた木の電信柱の奥に、
昭和へ誘う小道が伸びる。

咲き誇るサンシュユの花の下でいじけている郵便箱。

福満稲荷神社社殿の壁で、時計とラジカセが
睦まじい姿を見せている。
ラジオ体操の音楽でも流すのか、
盆踊りの音楽を奏でるのかは分からないが、
ラジカセ一つでこの地域の人々の
繋がりを感じることができる。

だ〜れもいない公園を、一輪の水仙が見守っている。
寂しさを紛らすようにちょっと首を振ってみる。

「通りから霞城セントラルが見えっから助かんまぁ」
確かに霞城セントラルを目指せば、山形駅がどっちにあるかが分かる。
方向音痴にはありがたい建物かもしれない。

「こごどごだがすぐ分がる?」
「わがるっだなぁ、まず手前の車がモンテのステッカーば貼ってっから山形てわがっべ。
ほんで左側さ醤油屋さんの早咲き桜が見えっから八日町だべ」
なんの変哲もないような街並みでも、よく見れば山形でしかない光景。

「空飛ぶだい〜」
「ETの自転車だが?」
地上に飽き足りず、自転車は雲の流れを追っている。

「こだな街中さもフキノトウが生えるんだねぇ」
「どごだて土さえあれば顔出すっだず」
路地裏の片隅にも春が来た。

「春のひな壇飾りみだいだな」
おひな様の代わりに、雑草がすました顔で並んでいる。

「天井は低くて頭ぶつかりそうだし、自転車ば押してあるぐのも大変よぅ」
駅南アンダーも大切だが、こんな生活道路もなくてはならない。

雲が急ぎ足で流れてゆく。
五日町踏切を車が太陽の光を反射させ急ぎ足で渡ってゆく。

暗がりを堰が流れ、その向こうに光が溜まっている。
雨樋や植木鉢やスコップは、穏やかな大気を堪能しながら世間話に余念がない。

「ゴーーーッ」
電車が通り過ぎる間に踏切の両側は人々や車で埋まってゆく。
鉄路の匂い、遮断機の上がる音、一斉に踏切を渡り始める人々や車の流れ。
それらが混じり合い街の鼓動のように感じる。

「オラぁ何十年も汽車ば眺めできたんだじぇ」
「あのぉ、汽車ではなくて新幹線なんだげんと・・・」
漬け物石を置かれた椅子はまぶしげに目を細め、蒸気機関車の姿をまぶたに焼き付けている。

新幹線はあっという間に陽炎の彼方へ走り去る。
「汽笛にはびっくりしたもんだぁ」
残された老椅子は相変わらず、うわごとのようにつぶやいている。
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