◆[山形市]沼木 地から湧き上がる春(2013平成25年3月30日撮影)

「土も乾いっだし、オラだの仕事も終わりだなぁ」
真っ黒いタイヤと巻き付くチェーンは、厳しい仕事を終えた安堵感に浸っている。

「いやー、まぶしいごどー」
「オレの笑顔が?」
「太陽がよぅ」
フキノトウの顔からは、笑顔が溢れてこぼれ落ちている。

「パンパンに膨らんでだんねが?」
待ちかねていた春もパンパンに膨れて地中から漏れ出している。

「何にもないどれぇ」
都会の人は山形に来て、「何にもないじゃん」という。
いったいどこを見て言ってるんだろうと思う。
こんなに春が充満してるっていうのに。

「おかがてっど気持ちいいまぁ」
自転車がおっかがるコンクリに、樹木の影が伸びてきてグイッと指を掛けて引っ張っている。

「甲子園で一勝したがらが?」
指を突き上げるポーズは野球だけじゃないんだな。

「ほごのポリタンク、なに口ばぽかーんと開げで見っだの?」
「空ば突っつぐど、どだな感触なんだべなぁど思てよぅ」

「まんず、忙しぐなてきたもなぁ」
春は身も心も能動的に動き出す季節。

「ほっだな、昔は南沼原小学校までダーッと見えだのっだなぁ」
「工業技術センターどが、産業技術短期大学どが、高度技術研究開発センターどが、職業能力開発専門校どがよぅ、
いづのこめが出来で、町みだいになてしまたもはぁ」
沼木の住民がびっくりするような変わりよう。

「お昼さんなねんねがぁ」
軽トラの窓から声が飛び出し、畑を伝っていく。

「こだごどしてらんね。早ぐ春ば追っかげで行がねど」
穏やかな空を呆然と見上げて、葉っぱ一つ無い樹木が焦り気味。

「ブワーっと吹き出してきたもなぁ」
「ニキビずぁあんまいし、もうちょっと綺麗な表現があっべぇ」
モサモサと吹き出して、溢れかえる春。

「こだんどごでカメラ抱えで、怪しぐない?」
「しゃねふりして行ぐびゃあ」
春風とともに若さが通り過ぎて行く。

「一昔だったら考えらんねな、この光景」
木造の崩れそうな南沼原小が、
原っぱにポツンと立ちんぼだったあの頃を思い出す。

「ふとばさっで大変だずぅ」
「春の風なの気持ちいいばりだべずぅ」
乾いた埃を身にまとい、傘の誇りを捨て去った。

「町のほう皆見えで、見晴らしいいまぁ」
自転車は首を振って、町を指さす。

竜山はまだ青白い冬の中にあっても、平地では枝先がプツプツと膨らみ始め、春の鼓動が間近に聞こえてくる。

「退屈しったのがぁ」
「はえっずぁ、んだっだニャー。誰もかまてけねしぃ」
誰も構ってくれなくても、なんとなく浮き浮きする春。

ところどころペコペコ凹んではいるけれど、紛れもなく春を写し込んでいる。

「ん〜、怪しげだニャー」
「さっきも中学生から怪しいていわっだげんともよぅ、なして知らない中年は悪ていう風潮になたんだず」
中年だて、頭が薄くなたったて、泣いだり笑たり、感動したりするんだず!

粉っぽい大気を、ユーラリユーラリとこね回すブランコ。

「ゲホッ、なんだが口の中がもぞもぞすっど思たら、枯れ葉が入ったどれぇ」
枯れ葉は冬の寒さから逃れるために、スリッパの中へ逃げ込んだらしい。

「なんぼオマエが頑張って訴えでもよぅ。今時の子供は違うんだはぁ」
実直な立て看板には、現代の子供事情がよく飲み込めないらしい。

梢を渡る風は、悠々と奥羽の山並みを目指して流れてゆく。

「あんまりじらさねで早ぐ咲いでけねがなぁ」
「ほだい急がすなず。物事にはなんでも順序があるんだがら」
水仙は黄色い色を体内で熟成中。

狐越街道の緩いカーブ。
丁度撮影した地点には「追分石」が鎮座している。「追分石」は「休み石」でもあり、通行人が休んだりもしたのだろう。
今はたまに通る車が排気ガスと騒音を残していくだけ。

狐越街道の先に富神山。
山肌からはじわじわと白さが消えて、薄茶色が目立ってきた。

イヌノフグリが柿の木の周りを覆っている。
イヌノフンが覆っているのではなくていがったぁ。

「おまえば食うがど思って、柿の木が襲いかからんばかりだんねが?」
「ほだごどな〜いぃ。みんな同じ地面から養分ば吸って生きでるんだがら」
小さなフキノトウは、春の喜びを噛みしめつつ、土の軟らかい温もりに浸っている。

「昨日はあだい天気いいっけのに、今頃は雪ば被て萎んでだんだべなぁ」
昨日30日は快晴、今日31日は冬へ逆戻り。福寿草は三寒四温に翻弄されながらも、ひたすら太陽を信じて待ちわびる。
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