◆[山形市]成安・渋江 早春の息吹と白川の流れ(2013平成25年3月15日撮影)

青空に映える文字が目に飛び込んでくる。
屋根にでっかく「ようこそ、果物と福祉と温泉の町、成安」の文字。

もっこりと盛り上がっているけれど、そんな雪の強がりもあとわずか。

「他の地区の人はゴミば持って来るな!」って、
当たり前なんだげんとねぇ。
これはどこの地区にもある問題みたい。

「すっぱげっだどれはぁ」
「美白てゆてけねが」
真っ赤な情熱を一冬で忘れ去った河原の止まれ。

街角のどこからでもあの秀麗な山容が見えるのは、山形盆地に住む人々の特権。

馬見ヶ崎の下流、白川の橋の欄干におかがって、月山と葉山の仲の良さを写す。

白川の川っぺりに春の息吹はないかと捜したが、かちゃかちゃに乾いた草が風に撫でられているだけだった。

壺の中からじゃじゃじゃじゃーん。
起きたばかりのような髪の毛をした箒が顔を出す。

「何見っだの?」
「別に・・・」
あんまり冬が長かったせいで、目を開けたまま眠っていたらしい。

雪が溶けた地面から現れたのは、無断駐車禁止!とごしゃいっだまんまの姿で倒れている看板だった。

空へ向かい、全力でオーラを発するような枝たち。

月山から吹き下ろす風が疲れ切ったビニールをはためかせる。
その向こうでは渋江の村が陽を浴びている。

村を抜けるとそこではまぶしい光が飛び交っていた。
枝がタクトを振り、雪原は笑い、風が輪唱し、青空はスコーンと底が抜け、月山は目を細める。

「春なて名ばかりよぅ」
自転車の去った後、枝はガリガリと地面を掻いている。

空をツンツン突っつくように、タラの芽はまだ堅い芽を青空へ突きだしている。

「オマエは泥だらけで汚くてやんだなぁ」
「オマエこそ仕事もすねで綺麗すぎでやんだなぁ」
一輪車は角突き合わせて言い合う。

「うわっ、まぶしいぃ」
起きたばっかりの自転車は、
風に煽られるシートを必死に押さえている。

ようやく雪が消え、去年のゴミをそのまま残したゴミ篭が現れた。
太陽を浴びた太い枝の影は、そのゴミ篭を蟹挟みのように挟んでいる。

「冬の雪道は歩ぐだぐないげんともよぅ、春の乾いた道は歩くど気持ちいいものぉ」
光で煌めく街角は、スキップでもしたくなるように人の心を浮き立たせる。

ミラーは左右をきょろきょろ見回し、
風雨ですり減った板は木目が浮き上がってしまい、看板は錆ながらも律儀に板へ張りついている。

青空さえ広がれば、山形のどこへ行ってもそこは最高のウォーキングコース。
ここ渋江の村も空気から棘が抜け落ち、吹く風さえも心地いい。

忍従の冬を過ごす山形人だからこそ春への期待は大きい。
恋い焦がれる緑色と木漏れ日を見つけてそう思う。

「こっだな天気いい日は洗車に限っべぇ」
確かに泥だらけになった車を洗えば気持ちも晴れ晴れになる。

「あっだいくっきり影でっだじぇ」
「太陽もやっと勢いば増してきたもな」

「何がいだの?」
「わがんねげんと何が動いっだっけ」
虫が目覚め始めたようだが、右端では雪の上に子供たちが寝そべっている。

「雪溶げっど、去年のみだぐないのが皆見えできてやんだずねぇ」
「ほだごどやねでぇ。土が見えできただけでも嬉しいべず」

雪は道の端っこで申し訳なさそうに小さくなり、漆喰はまぶしく輝き、青空がカッと広がる。
通り過ぎる軽トラも乾いた音を響かせる。

「春なんだじゃあ」
「んだずねぇ」
剥げ落ちた壁とタイヤは、暖まった体に春を感じながらも、何故か昔を思い出すように遠い目をしている。

白川の土手に立ち辺りを見回す。
青白い山の連なりはまだ冬だが、盆地の底は少しずつ春を貯め込んでいる。

「頭皮ば拡大して見だどごだが?」
「ま、似だようなもんだげんと・・・」
まばらな生え方が気になってしょうがない。

「オラだ場違いだべが?」
去年咲いた花たちは、かちゃかちゃに乾いた老体を風に揺らしている。

「随分と汗かきだずねぇ」
「こだい照らされっど、体がはじけるはぁ」
誰が捨てたか、ペットボトルは身をくねらせて汗みどろ。

奥羽を源とした馬見ヶ崎川は、山形市街を過ぎて白川となり、
早春の光をキラキラと散乱させながら、やがて最上川と合流する。
TOP