◆[山形市]山寺 静かさが雪に隠れる雪だるまコンテスト(2013平成25年2月10日撮影)

こんな真冬だというのに、山寺駅前は観光客で足の踏み場もない。
いや、足の踏み場はあっても雪が積もっているため、強く踏みしめられない。

格子の向こうから、
山寺の山々の誘う声が、寒気に乗って聞こえてくる。

「どさ行ぐ?」
「ほだな山形弁どごで覚えだの?」
「しゃねこめ覚えだはぁ」
「聞き流すだげで覚えられるなて、英語教材CDみだいだね」
案内看板前で、二人はネイティブ山形弁をひけらかす。

五大堂を眺めるには山寺駅前に降り立ち、真っ正面から見上げて感嘆の声を上げてもいいし、
宝珠橋の欄干にもたれながら、見上げるのもいい。
ちょっと偏屈な人は、雪の落ちそうな軒先の隙間から眺めてみるのもいい。

メロッと伸びた雪の舌は、自販機の陰から観光客を舐めるように見渡している。

さすがに立ちんぼのコーンを不憫に思ったのか、誰かが手袋を被せてくれている。
コーンが感謝しているか、ありがた迷惑かは分からない。

寒い冬にこれは反則だ。
たゆたう湯気を眺めながら、思わず近づいてしまう。

「なえだて子供だは元気だずねぇ。寒いていう言葉ばしゃねのんねがず」
真っ白な河原で、黒い影がちょこまかと動き回る。

「ウィー、熱っづい缶コーヒーのんだがら、雪だるままつりさGOだ!」
「ほだなイベントあるんだがした。しゃねっけ。あどがら寄ってみっべ」
宝珠橋の上で、山並みを眺めながら口走る。

「手ばぎっつぐ握てな。離すなよ」
握った手が汗ばむくらいに緊張の階段降り。

アベックが引きも切らず訪れる。
「天童の若松寺が縁結びで、山寺は縁切りの寺なんだげんともね。」
「ほだな堅いごどゆうな。観光地て割り切ればいいのっだず」
千羽鶴の陰で独りごちる。

「足冷ったいぃ」「雪で息できねぇ」「前の頭しか見えねぇ」
「なんだかんだやねで、笑顔でな」
みんなこっちを向いたところでシャッターを押す。

「こんにちは」
「コンチハ」
雪を被った燭台を撮っていたら、中国語らしき言葉が聞こえてきた。
挨拶したら挨拶が返ってきた。言葉になんだか温かみを感じた。

ここは山形だということが歴然と分かった。
右側の看板を見て欲しい。「参道がすべます」とある。
なんだか頬が緩んでしまう。

「オマエ出目金だが?」
「失礼だべ、実直なこのオレば」
堅物の消火栓は微動だにせず怒っている。

「ズドドドーッ」
「あいや、凄い勢いで落ぢてくるもんだなぁ」
屋根の雪は鬱憤を晴らすように落ちてくる。

ゆく当てもないように、ふわふわと雪が舞う。
灰色の世界を、太陽が微かに明るく染める。

「長靴必須だもな」
人生も階段も下りの方がおっかない。

「やんだぁ、みんな集まったじゃあ」
滑らぬように転ばぬように、それでも息を切らして宝珠橋を走ってゆく。

「すんごい人出だなぁ」
人だかり端っこで、雪太りのキティが見守っている。

「ヒャッホーッ、おもしゃい〜」
「滑るってこだい楽しいど思わねっけ」
「受験と笑いだげは滑らせんなよ」

「めんごいべ?」
「あ、寒いと近くてよぅ・・・」
近くのトイレへ行くふりをしてそそくさとその場を後にする。

「やったー!頑張た甲斐あっけなぁ」
司会のおじさんの弁舌も滑らかでおもしろいものだから、子供たちは乗せられて雪像の受賞を体全体で喜び合う。

静かに見守る山並みへ、雪だるまコンテスト会場の賑わいが、湯気のように立ち上る。

「太っとい木さおかがてっど、なんだが安心するんだじぇ」
「それにしては危なっかしいんだげんと」
落ちても雪の上だし、木にも登れないような子供でも困るし、まあいいか。

「かえずが今年の一等賞がぁ」
「スカイツリーさ蛇が巻き付いっだんだど」
周りを囲む人々に、こっちも振り向いてと雪太りキティが気をもんでいる。

「雪像ばっかり注目さっでよぅ」
スコップは不満たらたら。
「心配すんな。オレが撮ってけっから」
スコップは自分の働きも認められたんだと、雪に突き刺さりながらはにかんでポーズとる。

「ありゃりゃ〜、ちっこいのがもげそうだどれはぁ」
足を踏ん張って堂々と立っているけれど、
小用の時はたらづがねように、もう一歩チューリップに近づいてください。

「からしは付けかっす?」
「ふだふだ付けでけろっす」
寒気の中で醤油の染みこんだ玉コンが、湯上がりの体のように湯気をまとっている。

「山さ登っだいんだげんと普通の靴で大丈夫だがっす?」
「長靴でないと絶対無理だっす」
確かに雪道をノーマルタイヤの車で走るのと同じだと、手元の玉コンを気にしながら聞き耳を立てる。
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