◆[山形市]霞城公園 夕暮れ迫り冬迫る(2012平成24年11月4日撮影)

日曜の夕方、人々は明日からの新たな週へ向けて考えを巡らしながら、
霞城公園の南門を通過する。

西日は霞城セントラルトラルの壁面を照らし、お堀の水面でキラキラ輝いていたが、
あっという間に雲の中へ消え、辺りにスウッと冷気が走る。

市民にとって南門は通勤路であり、散歩道の入り口であり、スポーツをするために通過する道でもある。
つまり、市民に根付いた空気みたいな道なんだ。

お堀の水面に残った光が静かに揺れている。
カモは太陽の傾きを感じ取り、波紋を残してねぐらへ急ぐ。

「日ぃ暮れるはぁ」
「帰っかはぁ」
「明日からまだ仕事だし」
「明日からまだ学校だし」
日曜の夕暮れは、人々を少しだけ無口にさせる。

「誰がたっだべ?」
「オレしゃねぇ」
体育館西側の駐車場では、タイヤでブチュブチュにつぶされた銀杏が、悔し紛れに異臭を放つ。

土手の上に整備された小径に、散策する人はいない。
落ち葉が、たまに風に吹かれて滑ってゆく。

「しゃねこめ葉っぱはみな色づいだずねぇ」
「気づがねうぢに時間は動いでんのよぅ」
犬は喜び、乾いた落ち葉の上をはしゃぎ回る。

「落ち葉には地面ていう帰る場所があっからいいべげんとよぅ」
「オマエだ野良猫は、帰るどごも無いんだべ?」
おばちゃんは野良猫に優しいまなざしを向け、手をつだして抱き上げようとする。

「とにかぐ拾うべ」
「わがた。なんだがしゃねげんと、もったいないがら拾うべ」
秋の公園にはギンナンを拾う人と、秋の彩りを拾う人が腰をかがめ合う。

「お、やっとオレさ気づいでけだが」
野良猫はカメラを構える中年親父の脇をすり抜け、餌の在処へのったりと歩き去る。

「ほっだな石の上だど冷ったいべぇ」
「余計なお世話だニャー」
野良猫は興味なさげに目を背ける。

捨てられたり、逃げ出したりした野良猫は、霞城公園を終の棲家と決め込んだのか。
何匹もの猫が、落ち葉の中で心細く生きている。

「何が見つけだのが?」
「たまには動物の本能が目覚めんのよニャー」
尻尾を立て、眼光鋭く何かを狙う。

「オマエ邪魔だニャーッ」
尻尾であっちゃ行げと言われ、オレは人間様だぞとむなしくつぶやいてみる。

「オマエはさっきのど比べで大人しいずね」
ちょっかいを出しても、野良猫の視線はどこかを彷徨う。

今日最後の光が雲の間からこぼれ、落ち葉は呼応して赤く輝く。

「おだぐのきかねったらぁ」
「おらいんなは大人しくてぇ」
犬も歩けば犬に当たる、霞城公園は犬の散歩銀座。

猫と子供が対峙し、何事かを感じ合う。
「めんごだがら帰っべはぁ」
親は猫と子供の無言の交流を諦めさせ、頭を撫でて帰ろうとする。

「さっき、あの子供ど何しゃべったっけのや?」
「教しぇらんねニャー」
耳をひくつかせ、野良猫は遠くを見やる。

「子供だもみんな帰っじゃあ」
「オラ帰るどごなのないものニャー」
霞城公園には少しずつ夕闇が覆い始めている。

「なんだかんだ言いながら、人恋しいんだべ」
「少しはニャー」
背中を丸めて落ち葉の先の人々を見守る野良猫。

ベンチの隙間に挟まった落ち葉は、ひと風吹けばどこかへ飛んでゆく。
野良猫はどこへ行こうか逡巡しているのか、何も考えていないのか。

タンポポは自転車を漕ぎ家路を急ぐ人を眺めながら、
もっと強い風が吹がねど飛ばんねぇと、夕暮れの中で消沈する。

外灯がぼんやりと何も考えずに立っている。
テールランプが遠ざかる。
ギンナンは冷たい地面で眠りにつく。

「まっ黄っきだねぇ」
「ギンナン臭くてかなワン」
色も匂いも夕暮れが覆い尽くし始めている。

鳥たちがねぐらへ帰る頃、こぼれた光が市営球場へカァーッと降り注ぐ。

地平線すれすれにまで傾いた太陽は、弱々しい光を落ち葉の上に滑らせる。

「明日は月曜日だじゃあ。やんだなぁ」
「オマエさ曜日なの関係ないべ」
「働ぐ人の気持ちでゆてみだのっだなぁ」
エノコログサは山の向こうへ沈む夕日を見つめ、少しばかり感傷に浸る。

「ミャーミャー、ミャーミャー」
闇が支配し始めた霞城公園のどこからか、野良猫の鳴き声がか細く流れてくる。
昔、まだ体育館がかまぼこ形だった頃、霞城公園には狸が棲んでいたという。
時代が流れ、今は捨て猫がねぐらを求める地になった。
TOP